第96話 王立学院④
はぁ、やっぱり王族だったか。あの魔力、高貴さを感じさせる所作、醸し出すオーラ。
大体、貴族で家名を名乗らないなんて不自然だった。まぁ、訊いてもいないのに家名と爵位を嬉々として言ってくるからな、あの連中は。
それに「看破」の能力を持つエミリーと同室で、隣室が剣聖と剣士とか。部屋の配置は知らないけど、おそらくは2階の角部屋じゃないか?
エミリーが「看破」を授かった時から何れは王国VIP側近として用いられるとは思っていたけど、いきなり学院入学から王女とは驚きだ。
俺も妹の事を言えた義理ではないけど、ヴィンター家はトラブル体質なのだろうか?そもそも両親からして、父は当主になってからはアレだけど、若い頃は後継ぎのくせして剣の武者修行で出奔している。母は没落男爵家の長女から下位金級の高ランク冒険者に昇り詰めているからな。
しかし、王女だからといって学院内でこうもさりげなくも厚く守られているというのもおかしい。
王女らしくない気さくさといい、どうも曰く付きというか、訳あり王女らしいな。
いずれにせよ、ソフィアというエミリーのルームメイトがこの国の王女と知れ、しかもプライベートで非公式な場とはいえカーテシーまでして平民の俺に謝ったのだ。これは受けざるを得ない。
「わかった。殿下の謝罪を受け入れる。だが、俺の考えは変わらない。王族といえど術に関して術者に開示を強要する事は出来ない」
そこは絶対に譲れない一線だ。王女に術の一部を貸与したとなれば、側から見たら俺が王女に与したのと同様だ。
いや、待て。こうして俺の妹であるエミリーがソフィア王女のルームメイトで、実際に友達といって良い関係を築いているのだ。ならば俺がこうして妹を学院に訪ねている事自体、他者から見て既に俺が王女と与していると思われないだろうか?
何やらソフィア王女とアイコンタクトして頷いたエミリーが意を決したように口を開いた。
「お兄さま。ソフィアは第3王女で、お母様のご実家の爵位が低いので王族と認められていなかったの。元服の儀で「魔女」の能力を授かって漸く王族と認められてね。だからご実家の後楯が無くて宮廷内でも味方が少なくて。シキガミが欲しいっていうのも単に私とマリーのが羨ましいだけじゃなくて身を守る手段が欲しいという事もあるの。お兄さま、どうにかソフィアの力になる事って出来ないかな?」
「…」
隣に座るマリーもギュッと俺の手を握る。マリーも無言でその目でソフィアの味方になって欲しいと訴えている。次いで再度エミリーに視線を向ける。
ソフィア王女の事情はわかった。ソフィア王女は「魔女」を授かり、将来的に強力な魔法の使い手となるだろう。そんな王女は味方となれば頼もしく、敵となれば恐ろしい存在だ。王室で王位継承権争いが生じ(もう生じてるけど)た場合や宮廷内の政敵が王女を害そうとする場合、その前に看破で王女の危機を察知する側近のエミリーを害する筈だ。言うなればソフィア王女とエミリーを一心同体と考えるべきなのだ。
「ソフィア王女、因みに王族の中で親しくしているのは誰だ?」
「はい、第1王子のライオネルお兄様が親しくしてくれてます」
ここに来ても第1王子か。もう笑いたくなってきた。これは俺を第1王子の側に立たせようという誰かの意志が働いているんじゃないか?こうなるといつも俺の先々に何かしら手を打っているとしか思えない。それが第1王子本人なのか、そのブレーンか、国王か、それとも…
「はぁ」
思わずため息を吐いてしまった
俺が「アクションヒーロー」を授かって思い描いていたヒーロー人生からどんどんかけ離れていくな。クールにストイックに悪を滅して正義を守る。それがどうだ、気がつけば俺の周囲は女の子だらけ。いや、これはいいっちゃいいんだ。みんなから愛情とか好意は十分に感じるからな。ただ、みんにはそれぞれのバックがあり、バックの思惑も透けて見え、そしてその思惑が俺を絡め取ろうとしているのが問題なのだ。
「兄さま、大丈夫ですか?」
マリーが俺の腕に触れて心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。俺は左手をマリーの手に重ねて笑顔を見せた。
「大丈夫だよ、マリー。ありがとう」
そして対面に座る2人に向き直る。
「王女殿下とエミリーの事情は理解した。妹を守るためだ。俺程度じゃ殿下の後楯なんて無理だけど、困った事があったら手を貸すよ」
「本当?お兄さま」
「ありがとうございます、ホルストお兄さま」
2人揃って頭を下げる。全く、人の気も知らず仲が宜しい事で。いや、知っていてやってるんだろうな。
と、手を貸すと言った以上、じゃあまた来週とは出来ないだろう。その証を見せなければならないだろうな。
やりたくはなかったけど、俺は6番目の平成ライダーの能力で式神となるディスクを2枚取り出す。
「お兄さま、これって」
「式神だ。手を貸すって言ったろ?」
俺は2枚のディスクにそれぞれフッと息を吹きかける。するとディスクは白く発光して一羽の雀と一匹の栗鼠の姿となった。
「「「わぁ〜、可愛いぃ」」」
「行け」と命じると式神の雀と栗鼠はソフィア王女の元へと向かい、雀は指に止まり栗鼠は肩に登った。
「ホルストお兄さま、この子達、私に下さるんですか?」
嬉しいのか、満面の笑みで瞳を輝かすソフィア王女。
「まぁ、エミリーの看破だけじゃ殿下の危険を察知出来ても守るには不十分だからな」
エミリーを守るためとはいえ、王女にあんな顔されちゃあ文句も言えない。
「雀はメッセージ伝達用だ。短い言葉を聞かせて飛ばせば俺の元に来て殿下の言葉を伝える。栗鼠は危険を察知して殿下に伝え、その時一回だけ電撃で攻撃する。撫でたり抱いたりして魔力を与えると懐くから。魔力が切れると消滅するから注意してくれ」
「はい、大事にします」
「良かったね、ソフィ」
「うん。エミィのお陰。本当にありがとう」
そろそろ時間だし、目の前の2人が百合百合しい雰囲気を出してきたから引き揚げるとしよう。あっ、そうだ。お土産渡さなくちゃな。でも、何かどっと疲れた。
「兄さま」
「どうした?マリー」
「お疲れ様でした」
「うん。ありがとう」
この後、俺は3人に見送らせて王立学院を辞した。既に陽は落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。
俺は金鶏亭へ帰ろうと夜の帳が下りた貴族街を行くも、追跡者の気配を感じていた。どうやらすぐには帰らせて貰えないようで、俺はここ最近ねちっこい殺気を向けている連中を始末すべく人気の無い暗がりへと歩みを進めた。
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それでは次話もお楽しみに!




