19話 ウミガメのスープの作り方(☆)
「葉庭くん! まずは連絡先を交換するんだよぉ!」
「あ、うん」
というわけで、俺のスマホのアドレス帳に同級生の女子3人の連絡先が追加された。
「これからは仲間だよ! だから、その、葉庭くんは私の事を名前で呼ぶと良いよ!」
「……エーデルガルドさん?」
「そうだよ! た、たた、た、た……葉庭くん!」
俺の事は名前では呼んでくれないらしい。あと「橋本さん」って呼ぶより長くなってるが、まぁそこは親密度の代償的なものとして考えておこう。
愛称で呼ぶにはまだ親密度が足りてない気がする。
「葉庭さん、ばっこ先生の弟子ということはPNもあるんでしょうか?」
「ああうん。『はにわ式』っていうんだけど」
「では私はPNに近く、かつ身バレ防止のために葉庭先輩と呼ばせてもらいます。あ、でも先輩って呼ぶだけでもよさそうですね。私の事は汐里で構いません。むしろ汐里と呼んでください」
「あ、ああ、よろしく、汐里さん」
「なら私も葉庭君のままでいいかしら? お姉ちゃんのこともあるから私の事も名前でいいけど、学校で名前呼びしあってると色々勘違いされそうだし」
……やっぱり俺の事は名前では呼んでくれないらしい。
仲間になるにあたって、Vtuber『hakuちゃん』の事について聞くことになった。
まず、3人はそれぞれ、
hakuちゃんの中身担当:橋本エーデルガルド
ウミガメのスープ担当:神原伊万里
配信機材等、諸々裏方:本庄汐里
と分かれて、協力し合ってhakuちゃんを創り上げていた。
元々友人であった3人。きっかけはとあるVtuberの動画を見て、エーデルガルドさんが「私もバーチャルなら……」と身体のある一点を見て呟き、汐里さんが翌日にはアバターの3Dボディを作って、折角なら何かやろうという事になって、伊万里さんが「『ウミガメのスープ』なんてどう?」と提案したらしい。
一晩であのおっぱいを造り上げた汐里さん……一体何者なんだ。
「……ところで伊万里さん。汐里さんって、たまにすごい勢いで喋るよね?」
「そうね。でも汐里が流暢に話してる時は要注意よ。基本止められないから……悪い子じゃないのよ?」
ああうん、何かそんな気はしてた。
「ところで、仲間になると言っても俺は何をすればいいんだ? 友達にこっそり広めるとか?」
ただし俺の友好範囲は広くない。せいぜい後ろの席の親友、光円に「このおっぱい凄いと思わないか?」とhakuちゃんの配信動画を見せて終わりであろう。
「えっと……わ、私の応援をする係とかどうみゃん?」
「いえ、名倉ばっこ先生の弟子ということであれば、『ウミガメのスープ』の問題を作っていただくというのは? そもそも私たちが『ウミガメのスープ』を知ったのも名倉ばっこ先生が伊万里ちゃんに教えたのが発端なわけですし」
「そう、ね。汐里の意見に賛成よ。お姉ちゃんの弟子ならそれくらいできるでしょ。エーデに渡しておいた問題をあっさり解くくらいにはウミガメやりこんでるっぽいし」
それ師匠の功績なんだよなぁ……って、そうか。師匠に問題を作ってもらえば!
『あ、基本私は作らないぞ? これもいい練習になるだろうからね』
えぇ……仲間になりたいって言ってたのに。
『だが作り方は教えよう。……あ、まって。やっぱ伊万里に聞いてみて?』
「えーっと、伊万里さん。『ウミガメのスープ』の問題の作り方って師匠から聞いてる?」
「ええ。基本は3つ、でしょ?」
伊万里さんはさも当然と言わんばかりに答えて、教えてくれる。
曰く、ウミガメのスープの作り方は大きく分けて3通り。
1、実際に会った事件や事象を元に問題を作る
2、解答(言葉遊びやトリック等の謎)を考えて問題を作る
3、問題を一旦先に作って解答を考える
「1の作り方は、元の事件とかを探すのが大変だけれど、それさえ何とかなればあとは出題文の言い回しを考えるだけでいいから、楽と言えば楽よ」
事実を元にしている分、問題が難問でも『そんなことがあったのか……』ということになるそうな。もっとも、問題文はしっかり考える必要がある。
時事ネタとかも使えるので、ニュース等がとても参考になったりする。
「2の作り方は、ある意味正統派ね」
最初に解答を作って、それに合わせた問題文を作る。……とても自然な流れだ。1の作り方もこれに近い。既存のなぞなぞを使ったりしてもいい。
自分の持つ知識が起点となる作り方だ。
「3の作り方は、迷路を逆解きするようなものよ。私は主にこれで作ってるわ。まぁ普通に作るより簡単かも。体感だけどね」
先に問題文を適当に作って、謎を考えつつ微調整。何もないところから作るよりも、たたき台となるベースがある分考えやすい、というのが伊万里さんに合っているらしい。
発想力に自信があるならこの作り方がいい、といったところだろう。
『うん、だいたい私が言いたいこと全部だね。あとはまぁ、難易度だけど』
「……作ったことがないなら難易度調整が難しいところね。そこの匙加減は私が心得てるから相談してくれればいいわ」
「わかった」
とりあえずは問題をつくったら伊万里さんに見せる、ということになった。
「今後は私も小説を書きたいし、葉庭くんが協力してくれるなら助かるわ」
「え? 待ってください伊万里ちゃん。小説を書きたいということはその、ついに小説作品ができるという事ですか? 名倉ばっこ先生の妹、名倉ばみり先生の!」
「あ、そ、そうよ」
ぐぃん、と伊万里さんにかぶりつきそうな勢いの汐里さん。
名倉ばみり、というのが伊万里さんのPNらしい。
「ほほぅ……これは責任重大ですね葉庭先輩。なにせ眠れる獅子こと名倉ばみり先生が作品を作る時間をとれるか否かが先輩の肩にかかっているということ……ぜひ素晴らしい問題を量産しまくってくださいね、私、応援しています! ……あああでもでもばっこ先生の弟子、はにわ式先生の作品も捨てがたし! はにわ先生、今度作品見せてくださいお願いします約束ですよ!」
自走式トラばさみかな? 汐里さん、すごい勢いで食らいついてくるイメージだ。
「あ、良い問題か作品が出来たら私の体の好きなところを撫でていいというのはどうでしょうか? 私の体でよければいくらでも餌に使いますよ私は。ええむしろ良作を生み出す手に撫でられるというのであればむしろ本望。手をぺろぺろさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「えっ」
「汐里。さすがにそれはやり過ぎよ」
「ばみり先生も私の体を撫で回してくれていいんですよ? いやむしろ今までウミガメの問題を作ってた分を考えるに撫でまわし放題ですね。むしろばみり先生になら撫でまわされたい。はいどうぞ」
と、汐里さんは伊万里さんの手を取り、自分の服の胸元にズボッと突っ込ませた。
「ちょ、ちょっと汐里! 葉庭君もいるのにはしたないわよ! というか汐里はもっと自分の体を大事にしなさい!」
「むしろ大事にした結果この使い方が一番だという判断ですよ! あぁぁ良いです、良い! ばみり先生の創造の手が私の敏感で柔らかい処に! いやまぁばみり先生程の大きさではないのですがそれなりに感度に自信がありますので反応を見てお楽しみいただくというのも良いですね作品の糧になれるなら本望ですからさぁさぁ撫でまわしてください!」
「女同士で何言ってんのよ! つねるわよ!?」
「はい! ご褒美ですどうぞ!……ひゃんっ♪」
と、汐里さんが可愛い声を上げたところで伊万里さんは手をすぽっと抜いた。
……つねったのか。そうか。
「……まぁ、それはさておき。葉庭君。これからよろしくね」
「ああ、うん」
先ほどまで汐里さんの胸元に突っ込んでいた手を握手の形で差し出す伊万里さん。
そういえばさっき伊万里さんとは握手してなかったな、と俺はとりあえず握手に応じておいた。
『間接おっぱいだな!』
黙れ師匠。
(ストックはあと1.5話分です。
というわけで、誰ルートを進めたいですか? 読者さんの反応次第で決めようかなと思います。
面白そうな提案があればそれ優先になるかも)




