外伝Ⅸ カプアと幽霊船⑤
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『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』(10)
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「ぬおおおおおおおおお!!」
俺は甲板を横切り、一気に海に向かってダイブする。
なんだ。簡単に脱出できるじゃねぇか。
そう思ったのもつかの間、俺は再び幽霊船の甲板に戻されていた。
「し、ししょー?」
「聖者様、どうしたんですか?」
突然奇行に走ったかと思えば、突如甲板に現れた師匠を見て、自称弟子たちが驚く。
俺も呆然としていた。ループ系の結界か、おそらく呪いの類いだろう。
この手の奴を解呪するのは、かなり難しい。
即死魔法を打ち込んでも、キャンセルすることはできないだろう。
対象がはっきりしたものではないかぎり、死を与えることは不可能だからな。
試しにパフィミアにも同じことをやらせてみたが、結果は同じだった。
魔族、人類関係ないようだ。
「ね? 出られないでしょ?」
「〝ね?〟 ――じゃねぇんだよ! とんだポンコツ幽霊船じゃねぇか」
「いや、むしろ褒めるべきですよ。本当の幽霊船を作ったんですから」
「なんで誇らしげになれるんだよ。どうにかしろ。お前らが作ったんだろ?」
「いえ。それが私たちじゃないんですよ」
「実は、幽霊船を作った魔族が誰かわからなくて」
「新人が作ったんじゃないかってぐらいしか」
幽霊船を作った魔族が誰かわからないって。
おいおい。さっきの風通しのいい職場はどうした?
ここから出るには、幽霊船の制作者の協力は必要不可欠だ。
なんとしてでも、見つけなくては……。
さすがにこんな薄気味悪いところで、セカンドライフはしたくないぞ。
一応俺から他の魔族に尋ねたが、誰も幽霊船製作に関わっていないそうだ。
それじゃあ、誰が幽霊船を作ったんだよ!
絶対誰か黙秘してるだろ。
「聖者様、1つお尋ねしたいことが……」
俺とリトたちがギャーギャーと言い合いをする中、シャロンが心配そうに進み出てくる。
側にはパフィミアの姿もあった。
「王女様の姿がないんだよ。他の船員たちもいるのに」
後ろには魔族に交じって、転覆した船員たちの姿もあった。
そう言えば、幽霊船に初めて来た時、船底の檻にマリアジェラがいたな。
俺が逃げちまったから、その後どうしたのかわからねぇけど。
ともかく、俺はその事情を弟子たちに話した。
「え? マリアジェラ王女が船底の檻にいる?」
「あいつらしいといえば、あいつらしいけどな。でも、なんか様子が変だったな」
俺の顔を見るなり、悲鳴を上げていたし。
いつもなら「愛のヴェーゼを!」と気持ち悪いこといいながら、タコみたいに唇を伸ばして、キスしようとしてくる癖に。
幽霊船のことは一先ず置いて、俺は弟子’Sと、リトたちを連れて船底に行く。
早速、聞こえてきたのは、か細い震えた声だった。
「1枚……2枚……3枚……」
冷静に聞いてみると、マリアジェラに似てなくもない。
ただあいつがこんな声を出したところを、俺は見たことがない。
まあ、そもそも変態王女って以外に、興味などサラサラないけどな。
「……9枚! ああ。また足りない! 一万札が足りない!!」
檻の中でマリアジェラが頭を抱えていた。
「マリアジェラ王女! シャロンです。もう大丈夫ですよ」
「そうだよ。ししょーもいるよ。安心して」
おい。余計なことを言うな。
俺としては一刻も早く離れたい相手だというのに。
帰ろう、と格子の向こうから弟子たちは説得を試みる。
だがマリアジェラは動こうとしなかった。
頑なに首を振るどころか、さらにヒステリックに叫ぶ。
「いや! いや! あたくしはここにいます」
「一生幽霊船で過ごすことになるんだよ」
「それでいいです」
なんかやっぱおかしいぞ、あのマリアジェラ。
もしかして、取り憑かれてる。
面倒だな。普段から獣か悪魔かに取り憑かれてるような奴だから、よくわからぬ。
「あたくし、もう帰りたくないです。あの職場にはもう2度と。だから、あたくし……」
「あの子、なんか取り憑かれてますね」
「職場とか言ってるし」
「うちのゴーストに取り憑かれましたかね」
どうやら、そうらしい。
さっきから1万札がどうのこうのと言ってるのも、魔族で出回っている紙幣のことだろう。人類圏では貨幣が一般的だが、魔族圏では紙幣が出回っている。
貨幣は使うよりも、愛でるものだからな。魔族圏なんかで金貨が出回った日には、たちまち種族間で取り合いになるだろう。
それほど魔族たちは、宝石や綺麗なものが好きなのだ。
ということは、マリアジェラに取り憑いている奴も魔族ってことか。
当人が大人しくしている間に、一応質問だけしておくか。
「なあ。あんた、名前は?」
「…………」
無視かよ。
なんかマリアジェラの顔で、素っ気なくされるのって微妙にグサッとくるな。
普段は鬱陶しいぐらいすり寄ってくるのによ。
「おい。名前ぐらいいいだろ」
「あなたは嫌いです」
これまたマリアジェラの口から漏れた言葉とは思えないな。
弱ったな。こいつ、結構陰キャだぞ。俺も大概だけど……。
「聖者様、マリアジェラ様は一体……」
「どうやら、ゴーストに身体を乗っ取られたらしいな」
「じゃあ、シャロンの浄化魔法で成仏させれば――――」
すとぉぉぉぉっっっっっっっぷ!!!!
やめろ。サラッと怖いことをいうな。
パフィミア。お前が言ったことは、大虐殺のスイッチなんだぞ。
ゴーストはおろか周辺の魔族全員消し飛ぶわ!
「待て、パフィミア。なんでも安易に魔法に頼るのはお前の悪いところだ。ゴーストにも良いゴーストと、悪いゴーストがいる。無理矢理引き剥がすのは、そいつの尊厳を無視することなんだぞ」
「さすが聖者様。ゴーストにまで情けをかけるとは……」
「わかったよ、ししょー。僕が間違ってた」
シャロンが称賛すれば、パフィミアは頭を下げる。
うむ。相変わらず、ちょろい勇者と聖女である。
そもそも仮にゴーストだけを払えたとして、このややこしい状況でマリアジェラにまで出っ張られると、俺の精神が持たない。
しばらく大人しくしておいてもらった方がいいだろう。
「よろしければ、聖者様。わたくしがお話しましょうか?」
「大丈夫か、シャロン」
「以前狐憑きの方と対話したことがあって。その時、見事狐の霊を追い払ったことがあります」
狐とゴーストでは天と地の差があるけど、本人がやる気になってるんだからいいか。
どっちみち俺は嫌われてるようだし。
俺はシャロンにお願いすると、代わりに松明を持っていてほしいと頼む。
その光を近くの壁に当てるように指示された後、シャロンは指で独特の形を取る。
指の影が壁にできる。それは狐の形になっていた。
「コンコンコン……。あなたはどなた?」
ここに来て、影絵かよ。
いつからここは子どものお遊戯会になったんだ?
シャロンに悪いが、マリアジェラについているのは生粋の魔族だ。
そう簡単に応じるわけが……。
「コンコンコン……。あたくしはアモーレです」
そろそろと狐の形をした影絵が出てくる。
通じるのかよ!
どうやらちょろいのは、うちの勇者と聖女だけではないようだ。
俺はシャロンにアモーレに聞いて欲しいことを耳打ちする。
「アモーレ。わたくしたち幽霊船を作った人を捜してるんだけど、何か知らない?」
「知ってます」
「本当ですか?」
「はい。だって……」
あたくしが作ったんですから。






