外伝Ⅸ カプアと幽霊船③
☆★☆★ 5月9日 単行本10巻発売 ☆★☆★
ついに2桁巻!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
新章セイホーン編も面白いので、是非よろしくお願いします。
本日、ニコニコ漫画でコミカライズ公開されてる予定です。
そちらも是非よろしくお願いします。
「ああ! 君たちはアッカザンで出会った!」
リト、ラト、エスを、パフィミアがそれぞれ指差す。
シャロンを助けおこしながら、浄化魔法をキャンセルした3人を見つめる。
ちなみにシャロンは無事らしい。怪我らしい怪我もしてないようだ。
「ひえぇぇえええ! いつかの勇者」
「それにあの聖女までいますよ」
「くわばらくわばら」
リトたちは神様か悪魔かに出会ったかのように、シャロンとパフィミアを恐れる。
反応は当たり前だよな。確か自分たちがスカウトしようとしていた死霊族の新人を、シャロンに消滅させられたんだっけ?
「君たち、なんでここにいるの?」
「ギクッ!」(たぶん、リト)
「そうですね。あの時、ドワーフ族と仰っていたような」
「ギギクッ!」(ラトだったかな?)
「なんで地中にいるドワーフが、海の上にいるんだ? もしかして君たち……」
「ギギギック!」(エス……。こいつがリトだっけ?)
おいおい。何気に今日のパフィミアは鋭くねぇか。
というか、お前らさあ。死属性の魔族に限ってなんか当たりが強くないか?
お前らの師匠って、亜屍族だぞ。わかってんのか。いや、わかってたら不味いか。
「(ちょちょちょちょちょ! 何を一人称でベラベラとしょうもないことを喋っているんですか。助け船を出してください。船の上だけに!)」
「(しょーもないのは、お前も一緒だろ、リト)」
「(違います。私はエスです)」
この際、改名しろよ。めんどくさい。
とはいえ、パフィミアは間違いなく疑っている。
もしかしたらアッカザンの時からリトたちのことは疑っていたのかもしれねぇ。
どう見てもあやしいドワーフだからな。
「(つーか、なんでお前らがここにいるんだよ)」
「(それは後で説明しますから。今は早く。カプソディア様だって、浄化魔法を受けたくないでしょ!)」
ラトの言う通りか(いや、リトだったかな?)。
こんなところで、聖女様に全力を出されては、本当の意味で自由になってしまう。
「(わかった。合わせろよ、お前ら)」
「(……まさか、カプソディア様――――)」
制止するエス(ん? ラトだっけ?)を袖にして、俺はいつもの言い訳タイムを始める。
「似ているのも無理はねぇ。こいつらはお前らがアッカザンで出会ったドワーフの親戚みたいなもんだ」
「親戚?」
「ああ。だから似ているのですね」
ククク……。まだまだお子様だな。
すーぐに信じやがった。
「でも、ししょー。親戚ってことは、この人たちもドワーフってことでしょ?」
「どうして海の上にいるのですか?」
ぐっ! 鋭い。こいつら、俺の嘘にも耐性を持ち始めてるな。
昔は「ししょー!」って叫びながら、泣きながら信じたのに……。
地味に自我を持ち始めてやがる。
「こ、こいつらはちょっと変わったドワーフでな。う、海ドワーフっていうんだ」
「海……?」
「ドワーフ??」
「(ちょちょちょちょちょ! カプソディア様! なんてこと言ってるんですか?)」
「(めちゃくちゃ疑ってますよ、あの目!!)」
「(聖女なんてもう獲物を狩るような目をしてますよ)」
気のせいだって。シャロンがそんな目をするわけないだろ。
お前ら、ちょっと被害妄想が激しくないか。
そもそもあの時、被害を受けたのって、俺だったような気がするのだが……。
「(黙れ。ほら、いつもの奴やれ)」
「(パワハラですよ)」
「(何がいつもの奴ですか)」
「(無茶ぶりな……)」
生か死かがかかってる状態で、パワハラもゆとりもへったくれもないだろ。
何もしなかった死あるのみだ。
すると、リトたちはパフィミアとシャロンの前に並ぶ。
「アッホイ! 我々海のドワーフ」
「洞窟から海底までお宝目指して掘り当てる!」
「シーブラザーズです!!」
最後にはキチッとポーズを決めた。
俺は思わず拍手する。すげぇ。なんか前よりもクオリティが上がってる気がする。
うん。やっぱ新人って、千尋の谷に落としてナンボだな(理不尽)。
さて、そのクオリティと、勇者と聖女が騙されるのは別だ。
結果は如何に……。
「おお。すごい! 海のドワーフだ」
「はい。海のドワーフさんですね」
はい。ちょろい。流れるような俺の計画通り。
まあ、俺にかかればこんなものよ。
「(何が『俺にかかれば』ですか!)」
「(結局、部下に丸投げなんですから)」
「(もうやりませんからね)」
「はいはい。悪かったよ。んで? お前たち、なんでこんなところにいるんだ?」
「言ってませんでしたっけ?」
「旅行ですよ」
「社員旅行に来てるんです」
んん? 社員旅行????
それって……。え?
その時だった。
急に空が暗くなる。
いや、おそらく今まで昼だったのだろう。
霧でよくわからなかったが、たった今――夜になったのだ。
それはつまり、死属性の魔族たちにとって朝を意味していた。
「もう朝か?」
「リトさん、今日の朝食は何すか?」
「おで、軍隊蟹のみそが食べたい」
ゾンビに、ゴースト、果てはシャドー族までいる。
この船に今、死属性の魔族――翻せば、かつての俺の部下たちが勢揃いしていた。
「つーか……」
社員旅行ってなんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!






