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第1話 雪山山荘亜屍族事件

8月7日発売される『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の単行本発売を記念して、主に日曜日(突然変わることもあります)に外伝を更新しています。


発売される第8巻ともども楽しんでくれたら嬉しいです。

「あっしぞっくっ!!」


 やあ、みんな。

 自分の種族の癖が強すぎる俺のくしゃみでわかったかな。

 〝屍蠍〟のカプソディアだ。


 今回は残念ながら、最近()天王とかいわれている同僚も、ギャップが激しいロリ魔王様も、俺の愛犬も出てこない。つまり、俺1人のお話だ。え? 裏投げが得意な勇者に、無自覚に浄化してくるロリ聖女? なんだよ、その厄介な代物は! 絶対近づかないから、そんな危ないヤツら。


 さて、今回は昔話だ。

 まだ俺が四天王を拝命して、そんなに経っていない頃かな。

 その時はまだ先代の魔王様もご健在だった。


 そんな魔王様に俺たち四天王が呼び出された。


「君、ちょっくら人類圏近くまでいって、情報を聞いてきてくれる?」


 最近、マネマネ族や妖狐族のような変身能力に長けた魔族を中心に、諜報部隊が作られた。実は俺が旧魔王様に進言した結果なのだが、どうやらその諜報部隊が重要な情報を手に入れたらしい。


「非常に重要みたいだからさ。普通に使いをやるより、君たちが幹部が行く方が良いと思ってね。すでに諜報部隊からは、落ち合う場所と時間も指定してきた」


「魔王様、それは……」


「うん。それはね」






「あっしぞっくっ!!」


 さみぃいいいいいいいいいいいいい!!

 なんで! なんで落ち合う場所が雪山なんだよ。

 めちゃくちゃ寒いんだよ! つーか投稿日時は真夏なのに、なんで雪山の話なんかしてんだ、バーカ!



 ※作者注 暑すぎて、寒い話が書きたかった……。あと単行本8巻よろしく!



 そもそも同僚も同僚だぜ!

 ちょ~っと面倒くさい仕事があると、すーぐ俺の方に振りやがる。

 特にブレイゼルがの言い方が腹が立ったわ!



 ※ブレイゼル談

「なんでオレがそんな雑用をせねばならん。それにな。雪山だろ? 一面真っ白な景色に、オレの美貌は目立ち過ぎるだろ?(ふぁさ……)」



(ふぁさ……)っじゃねぇよ。

 何を格好つけてんだ。誰に許可もらったんだよ。

 白い景色に、美貌が目立ち過ぎるだと!

 冗談も休み休みに言いやがれ。精々お前なんか白米弁当の中にぽつんと置かれた梅干しぐらいのインパクトしかないわ!


 まあ、最初からブレイゼルには期待してない。

 本命はヴォガニスだ。こいつは深海族。元は海の生物だ。

 深海の中は太陽の光すら通らない真っ暗な世界で、当然温度も低い。

 寒さには打って付けの相手だろう。



 ※ヴォガニス談

「ああ。いいぜ。人類圏まで行って、人間どもぶっ飛ばせばいいんだろ? ところでカプソディア。東ってどっちだ?」



 頼む以前の問題だったわ……。

 お前、先代魔王様を舐めてない?

 確かになんかお前、先代魔王様に認められている――みたいな設定あったけど、あれ事実なの? 作者がノリと勢いで書いただけじゃないのかよ!


 ヴォガニスは論外だ。

 こいつに任せたら、さらに問題が起こりそうだからな。

 現地にいって、情報を聞いてくるだけのおつかいイベントをこなせない四天王がいるとは……。人選間違ったかな、俺。


 気を取り直して、四天王最後の砦に聞いてみますか。

 四天王で俺の次に責任感があって、優しいルヴィアナなら雪山だろうが、地獄の一丁目だろうが、行ってくれるはず!



 ※ルヴィアナ談

「ええ~。イヤよ。寒い所苦手だもん」

「それは俺も同じなんだよ!」

「何を言ってるのよ。あなたにはそのローブがあるじゃない。あたしの服って、これ以外に軍学校に通ってた時の制服しかないのよ」



 服買えよ! てか、女の子なんだからもう少しお洒落に気をつかって!

 幼馴染みからのお願い……。

 てか、それしかないって、ルヴィアナの恰好って結構扇情的というか、露出度高くないか。それしかないって、こいつ実は痴…………はべら!


 まだ何も言ってないのにぶたれたんだが!

 くそ! 細腕なのに、馬鹿力なんだから。一瞬魂が出かかったぞ。

 そこで念のため俺は、愛犬ケルベロスにも一緒にくるかと確認してみた。



 ※ケルベロス談※

『ばう?(俺なんか言ったら、一発であんたが魔族ってわかるじゃねぇか。うちの主は馬鹿なの?)』



 なんかそこはかとなく馬鹿にされた気がするが、そんなケルベロスもかわいい。

 愛犬のためにも生きて帰ってこないとな。



◆◇◆◇◆



 とまあ、すったもんだ+消去法によって俺がさみー雪山に行くことになった訳だ。

 自分でこういうのもなんだが、暑い方と寒い方とでは後者がいい。

 暑い方は身体をコーティングしている蝋が溶ける可能性があるからな。それよりは寒い方がずっといいし、蝋のおかげであまり寒さを感じない。


「それにも限度ってもんがあるだろ!!」


 そもそも近くの街で確認したけど、この山の周囲は乾燥していて、雪が降ることなんて滅多にないって、街の人が言ってたぞ! まあ、1年に1回嘘みたいに雪が降る時もあるらしいが、寄りにも寄ってなんで今日なんだよ。


「いかん。目が開けてるのがつらい。なんか首の後ろとか痛くなってきたし。冷たい水とか浴びたら、目がすっきりするかな。あは……あははははは」


 やばい。なんか幻覚が見えてきたぞ。

 ケルベロスの顔が3つに分かれて見える。

 いや、これは正常か? 会いたい。我が愛犬。


 あと、なんか吹雪の向こうにロッジが見えるんだよなあ。

 えっと……。看板が見えるぞ。ななころび…………?

 はっ? 『七転温泉』だと??


 なんで雪山に温泉宿があるんだよ。

 ここ山の8合目付近だぞ。

 温泉宿じゃなくて、せいぜいここは山小屋だろう。


 どうやら、俺の想像力が随分規定外の方へと向かっていってるらしい。

 そう。これは幻覚。こんなところに温泉宿があるはずないのだ。


 カチャッ!


 そう思いつつも、俺は『七転温泉』と書かれた建物の扉を開く。

 さすが妄想の産物。出入り口の扉に鍵がかかっていなかったらしい。

 入ってみると、外とは別世界だ。ログハウス風の温泉宿はかなり頑丈に作られているらしく、外の吹雪にもなんのそのだ。暖炉もあって、結構な量の薪まで山と積まれていた。


 極めつけは部屋の奥にベッドまであったことだ。

 温泉宿だけあって、結構いいスプリングベッドである。

 埃っぽいのが玉に瑕だが、今贅沢などいってられない。


「いや~、さすが俺の妄想だな。至れりつくせりだ」


 俺はベッドに寝っ転がりながら、自分の妄想を堪能する。

 そろそろ眠くなって、死んでる頃かな、俺(もう死んでるけど)。


 …………。


 …………。


「って! 本物じゃねぇか?」


 温泉宿も、頑丈な建物も、あったか暖炉も、やわらかベッドも。

 妄想じゃねぇ! 間違いなく現実だ。


「嘘だろ。なんでこんな雪山に至れりつくせりな温泉宿が建ってるんだよ」


 俺が妄想だと思っても仕方ないだろ。

 ていうか、割と今でも疑ってるぞ、俺。


 俺は温泉宿をウロウロしていると、1冊の日記を見つけた。

 どうやら、温泉宿の主人の日記らしい。



 ●●月××日(快晴)

 さあ、今日から『七転温泉』のオープンだ。

 今のところ予約はないけど、うちの温泉は泉質もいいし、ベッドも柔らかいし、何より山からの眺めが最高だ。きっとたくさんのお客さんが来てくれるだろう。


 ●●月×▼日(快晴)

 オープン1週間! やっとお客さんが来た。

 何でも遭難してたまたまこの場所を見つけたらしい。

 温泉も、ご飯もおいしいって言ってくれた。嬉しい!

 なんかお金持ってなさそうだったので、オープン記念でタダにしてあげた。


 ●×月△△日(快晴)

 おかしい。オープンして3カ月だけど、まだ5人しか来てない。

 しかも、うち4人が遭難者で、うち1人は修験者ってどういうこと?

 全員にはお金が払ってもらったけど、すっごい睨まれたよ。

 でも、もうすぐ冬だ! 温泉宿のかきいれ時だぞ。

 雪が降れば、一面銀世界だ。やるぞ!


 ×●月◇●日(快晴)

 どうなってんだよ! 1年経って、お客さんが30人って。

 有名な投資家に勧められて、温泉宿を建てたのに!

 あと、全然雪がふらねぇじゃねぇか!!

 ずっと快晴ってどういうことだよ!!


 ×●月△◇日(快晴)

 温泉が止まった。どうなんってんだ?

 投資家も来ないし。手紙もない。

 俺、もしかして騙された?

 いや、そんなことはない。俺は間違ってない。

 間違ってるのは世界の方だ!


 ×●月◇◇日(快晴)

 こきょうにかえろうかな。


 ●●月◇△日(快晴)

 かゆ……、う……ま……。




 しっかり騙されてるじゃねぇ!

 てか、話が生々しくて、馬鹿にできねぇよ。

 あと、最後の日記はなんだよ!

 日付をしっかり入れているのに、なんで語彙消失みたいになってるんだ?

 無駄にホラー感を出してるじゃねぇよ。


「はあ……。まあ、いいや。とりあえずこの温泉宿で吹雪をしのごう」


 こういうこともあろうかと、食糧はたっぷり持ってきた。

 油と卵、小麦粉も用意してきたし、久しぶりに豪勢に行きますか。


 ごとり……。


 物音が出入り口から聞こえた。

 正直、無視してやろうとしたが、今度はドンドンと叩く音がする。

 吹雪の音か、熊かと思ったが、どうもそうでは様子だ。


 野生動物以外の生物となれば、ここに来る奴なんて限られているだろう。


「諜報部のヤツらか。あいつらも遭難してここを見つけたのかもな」


 どうやら遭難者御用達の温泉宿らしいし。

 そもそもこの宿が落ち合う場所だったのかもしれない。


 そんな先入観が、俺の警戒心を薄くした。


「お前らも迷ったのか?」


 半ば馬鹿にしながら扉を開ける。

 そこには割とマッチョなボディをした女性が立っていた。

 後ろには同じく武装した男女数名が、やや後ろ暗い視線を俺に向けている。


 この気配……。魔族じゃねぇ。


 最初驚いていた女は、吹雪の雪山山荘前とは思えないほど快活な笑顔を見せる。


「こんにちは。私は勇者――――」



 女勇者バーディー・カーディスだよ。



 こうして俺は吹雪の温泉宿で、宿敵と相対したのである。


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