ー44ー 龍哉
背後に庇ったエアルの絶望が伝わってきた。
それが面白くない。
龍哉はきゃんきゃん吠える胸糞悪い女を睥睨しながら口を開いた。
「僕を無視しないでくれる?
彼女には指一本触れさせない。
死にたいヤツからかかってきなよ」
負ける気はしなかった。
どれだけ数がいようと雑魚は雑魚だ。
「あら、龍哉様、そんなことをおっしゃらないで?
貴方には私の妹の旦那様になっていただくのですから」
戦闘態勢をとった龍哉に女がコロコロと耳障りな声で嗤う。
「寝言は寝て言ってくれる?
悪いけど貴女に付き合ってる暇はないんだ。
僕たちは失礼するよ」
その言葉が合図だった。
女が揃えたらしい屈強そうな男たちが自分に襲い掛かる。
愛刀は流石に取り上げられたが、武器がないわけじゃない。
小型のナイフは使い慣れた武器じゃないけれど、ないよりはましだ。
それに自分好みの武器が無いなら奪えばいい。
ニィと口の端を釣り上げて龍哉は暴れはじめた。
簡単に片が付くはずだった。
それなのにどういうことだろう。
「大人しくお従兄様に嫁いでおけばよかったものを。
今からでも遅くないわ。エアル。そうなさいな?」
「いや!来ないで!!来ないでください!!お従兄様!どうして……!!」
クスクスと嗤う声と共に恐怖に満ちた震える声が響く。
慌ててそちらに意識を向けると、エアルのすぐそこまで害虫が近づいていた。
慌てて害虫の排除に取り掛かるが、なるほど、伯爵令息として一応守られているらしい。
行く手を阻むように群がってくる雑魚を蹴散らし、エアルと男の間に滑り込む。
「私の邪魔をするな!ようやく、ようやくエアルが私のものになるんだ!!」
「こっちの、セリフなんだけど!
それに彼女は夜の闇の主の華だ!!」
雑魚からぶんどった剣を一閃させて距離をとる。
「龍哉くん」
「イヴェールがいない間は僕が守るって言っただろ」
背後から聞こえた縋る様な声にしっかり理解できるように改めて宣言してみせた。
じりじりと詰められる距離に流石にきついなと思い始めた頃、女がくすくすと笑った。
「龍哉様はとてもお強いみたいだけど、誰かを守りながら戦うのには慣れていらっしゃらないのね?」
耳障りな笑い声に苛立ちが募る。
イヴェールとアルセは何をやってるんだ。
時間なら随分稼いでやってるはずだ。
それがいけなかった。女がこちらに向かって銃を構えたのに気付くのが一瞬遅れて、何とかエアルを庇ったが腕に焼けるような痛みが走る。
「龍哉君!!」
「だい、じょうぶだから。
貴女は絶対に無事にイヴェールのところに帰してあげる」
「っ、」
安心させる為に笑ったはずだった。それなのに彼女は息をつめて泣きそうな顔をする。
まったく、これだから守るのはきらいだ。上手くいかない。
その苛立ちをぶつけるように目の前の敵を叩き切ったその瞬間―――――。
「エアル!龍哉!!」
「イヴェールさま」
心の底から安心したような声にようやく息を吐いた。
どうやら動きにくいと思った体には余計な力が入っていたらしい。
「おそいよ、ばか」
「……俺のものに手を出したんだ。楽に死ねると思うなよ」
悪態をついた龍哉の姿がイヴェールの目にどう映ったのか。
凄絶に笑ったイヴェールに龍哉は口の端を釣り上げて最後の大暴れとばかりに剣を振るった。




