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ひんやりと冷たく固い感触でエアルは目を覚ました。
ぶるりと震えて身体を起こそうとしたが失敗した。
手足が思うように動かない。
ここはどこだろう。視線を彷徨わせて確認できたのは自分を縛るロープと冷たい鉄格子だけ。
一体どうしてこんなことに。表情を歪めながらエアルは努めて冷静を装った。
ゆっくりと息を吸って吐く。誘拐されたときはどうすればよかった?
静奈が楽しそうに語った武勇伝で彼女はどうしたと言っていた??侯爵夫人のお茶会で冗談半分に教えて貰った対処法は?
叫びだしそうになる心を必死に宥めて記憶を手繰る。
まずは情報を整理する。
叔父様のところに向かう途中から記憶がない。最後の記憶は龍哉くんが運転手に詰め寄るところだった。
……龍哉くん!
エアルは必死に身体を動かして龍哉の存在を探る。
イヴェールがエアルの為につけてくれた守り。彼は無事なのか。
必死に身体を動かし、視線を滑らせるとどうやら牢は自分のいるところと正面、それ以外にも右斜めと右隣りにあるらしかった。
正面の牢には誰もいない。隣は確認できない。右斜め前の牢にもそれらしき影は見えない。
不安でいっぱいになりながらエアルはそっとその名前を呼んだ。
「龍哉くん」
返事はない。
「龍哉くん」
「うっ……」
先ほどより大きめの声で名前を呼ぶと呻くような声が返ってきた。
「龍哉くん!!いるんですか?」
「ここ、は……?」
まだ寝ぼけているような龍哉の声にエアルは少しだけ安心して詰めていた息を吐いた。
「わかりません。気づいたらここで……」
「そう、だよね。ごめん。僕の失態だ」
「そんな!龍哉くんのせいじゃないです」
「いや、僕が甘かった。まさか裏切者がいるなんて思わなかったから。
怪我はない?」
「はい」
「じゃあ、逃げるよ」
「逃げるってどうやって!?」
ギョッとしたエアルの前には隣の牢にいたはずの龍哉が悠然と立っていた。
エアルが呆けている間に龍哉はさっさ手足を拘束していた縄を切る。
「流石に刀は取り上げられたけど、携帯しておくものだね」
「……」
「なにぼさっとしてるの。さっさと逃げるよ」
ぐいっとエアルの身体を引っ張り上げて立たせるとそのまま龍哉は歩き出す。
慌てて牢やの入り口をくぐったところで龍哉が足を止めてエアルを背に庇った。
「あら、もうお目覚めになったの?」
聞き覚えのある声に、そっと覗き見たその先にあった顔にエアルが愕然と呟いた。
「お姉様……」
信じられない、信じたくない。何が起こっているのか分からない。
呆然自失となったエアルを背に庇って龍哉は不機嫌を隠さずに吐き捨てた。
「随分面白いことをしてくれたじゃないか」
「ふふ、そう怖い顔をなさらないで?」
「まどろっこしいのは嫌いなんだ。
貴女の目的は何?」
鋭い龍哉の眼光に怯まないミーシャの視線がエアルに向けられる。
「ふふ、目的?そうねぇ」
憎しみを隠そうともしない視線がまっすぐにエアルを射貫いた。
ビクリと肩を揺らすと姉の唇からは甘い笑みが零れた。
「ねぇ、エアル。もうあの方には抱いていただいたの?」
「なっ!」
ことさら甘く囁かれた言葉に全身の血が沸騰する。信じられない思いで姉を見た。
けれど、彼女はとても楽しそうに笑みを零した。
「ふふ、その様子じゃまだのようね?
汚された貴女を見てもあの方は貴女を妻に望んでくださるかしら?」
「っ」
残忍な笑みと共に落とされた言葉にエアルは凍り付くしかなかった。
姉と無言でエアルを見つめる妹と従兄、そしてその背後に控える屈強な男たちを見て血の気が引いて行く。
そんなエアルを庇うように力強い声がした。




