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夕食が終わると和の国に帰ると宣言した静奈を静かに見つめる。
真っ青になって慌てるアルセを静奈は美しい笑みで黙らせて侯爵夫妻とイヴェールにお世話になりましたと頭を下げた。
イヴェールも龍哉も驚いている様子だったが、何も言わなかった。
そして真直ぐな黒曜石の瞳がエアルへと向けられる。
エアルは目を逸らすことなく柔らかく微笑んだ。
「……寂しがってくれないの?」
エアルの反応が意外だったのか一瞬目を丸くした静奈だったが、すぐに拗ねたように唇を尖らせた。
その仕草が可愛らしくてくすりと笑うとじとりと見つめられる。
「ごめんなさい。でも私も。私も、勇気を出してみようと思えたから。
だから、また会える日を楽しみに待っています」
精一杯の感謝を込めて笑う。
すると静奈はパチリと目を瞬いてエアルの側に歩み寄るとぎゅううとエアルを抱きしめた。
「そんなの私もよ!」
秘密を囁くように静奈が言葉を紡ぐ。
「自信なんて全然ないし、怖いけど、エアルさんがいてくれたから私もちょっとだけ勇気を出して素直になろうと思えたの。
……ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
顔を見合わせて笑うと静奈はゆっくりとエアルを解放して、顔色をなくしたまま何か言いたいのをぐっと堪えて見守ってくれていたアルセに視線を移した。
「アルセ、帰るわよ」
「え!?俺への説明はなし!?」
ギャンギャンと騒ぎ始めたアルセを綺麗に無視して静奈は改めて侯爵夫妻に綺麗に礼をして背を向けた。その後を慌ててアルセが追いかけていく。
遠ざかっていく後姿を見送って、エアルは静奈に貰った勇気がしぼんでしまわないうちにとイヴェールへと視線を移した。
冬の夜空の瞳と視線が合う。エアルが視線を向ける前からこちらを見ていたらしいイヴェールの視線に息を飲む。それでもと足を踏み出そうとした瞬間イヴェールが動いた。
「少し散歩に出ないか?」
「よろこんで」
迷いなく差し出された手に緊張で震える手を重ねた。
エアルをエスコートして食堂を出たイヴェールに、龍哉と侯爵は満足そうに口元を緩めている侯爵夫人を見た。
「事態が急速に動いているようだが我が妻殿は一体どんな魔法を使ったんだ?」
「さて、何のことか分からんな」
「一体何を企んでるの?」
胡乱気な視線を侯爵と龍哉から向けられても侯爵夫人の笑みは崩れない。
「私はただ、祈っただけだよ。
可愛い義娘たちの幸福をな」
そう、祈っただけだ。
ディアナ様の加護が可愛い将来の義娘とその支えとなるであろう娘にあることを。
息子たちの色恋などどうでも良いが、彼女たちと過ごす日々は新鮮で楽しい。
だから、悩める乙女たちの助けになればと話をした。
言い伝えではあの話を義母からされた娘が侯爵家から逃れた例はないと聞くが、自分も息子たちも嫁はあの娘たちと決めているのだから問題はないだろう。
これで逃がすようなことがあれば自分が息子を見限る番だ。
「ふふ、次はウエディングドレスだな!
招待客の選別もせねばならんな。
ああ、その前に少し社交界にも顔を出させておく方がいいか……。
さて忙しくなるぞ!」
「「……」」
上機嫌で今後の算段を始める侯爵夫人に侯爵と龍哉は無言でお互いの顔を見合わせた。




