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ー34ーミーシャ

 顔を青くして俯くマノンの隣でミーシャは苦々しく顔を歪めた。

 怒り狂う父などどうでも良い。気にくわないのはミーシャの望むものを横から奪い去っては幸福そうに微笑んでいるエアルだ。

 テーブルの上に広げられたエアルからの抗議文が視界に入るだけで苛立ちが募る。

 孤児院から拝借したお金はもともと自分たちのものだ。

 それを返してもらって何が悪い。子どもは煩い上にすぐ泣くから好きではないし、孤児院がひとつなくなったところで子爵家には大した影響はないはずだ。

 慈善活動は自分の役に立つ程度にすればいい。エアルみたいに馬鹿真面目に慰問をしている令嬢なんてほぼいない。少なくとも自分の周りにはエアル以外皆無だ。

 こんなに些細なことでわざわざ抗議文こんなものを送ってくるなんてどうかしている。

 それなのにイヴェールは父から孤児院の利権を買い上げエアルに与えるという。もちろん父は即座に頷いた。それどころかもともと祖母が自分たち姉妹にと残したものだからとエアルに無償で譲り渡した。

 本来ならば、長女である自分が受け継ぐはずだったものを!ミーシャの意見など聞かず勝手に!

 このままではエアルにすべて奪われてしまう。

 そんなの許せない。許さない。




 喚き散らす父から解放されるとミーシャは即座に行動を開始した。

 父にはしばらく謹慎を言い渡されたが誰が大人しく部屋に閉じこもっているものか。

 まずはエアルの婚約披露で親しくなった公爵令嬢――――マリアベル嬢に手紙を書いた。それと同時に従兄にも手紙を書く。エアルへ想いを寄せているあの従兄ならばきっと喜んで飛びついてくるはずだ。臆病風に吹かれない限り。もしそうなっても高すぎるプライドをちょっと刺激してやれば簡単に乗っかってくるだろう。


「精々、残り少ない幸せな時を楽しむのね」


 私のプライドをズタズタにした償いはしっかりしてもらうわ。

 頭の中でどうやってエアルを追い詰めようかと計画を立てていると控えめにノックの音が響いた。


「お姉様……」

「あら、マノン。どうしたの?」

「……どうしてそんなに楽しそうなの?

 私、私、どうしてあんなことをしちゃったのかしらって……」

「あんな些細なこと気にすることないわ。

 それにあのお金はもともと私たちのものなんだもの。

 それよりもいいことを考え付いたの!特別に貴女も仲間にいれてあげる」


 ミーシャはにっこりと綺麗に微笑んで末の妹を手招きした。

 驚きに目を見開く妹に目を細めて、重ねて言葉を囁く。

 揺れる瞳が仄暗く翳るのを見つけて口の端を釣り上げた。



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