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ー32ー

 促されるまま院長室に入り、イヴェールと並んでソファーに座ると院長から事の経緯を聞き出す。

語られた言葉に愕然とした。


「そんな……」


 言葉を失うエアルの隣でイヴェールが小さく呟く。


「なるほど。資金源はここか」


 意味が分からなくて視線を向けると躊躇うように眉を寄せられる。


「イヴェール様」

「……装飾品を買い漁っているという報告は来ていた。

 その資金源が分からなかった。子爵自身も子爵家の資産を食いつぶさなければそれがどんな金でも興味はなかったようだ。男に貢がせたんだろうと言ってはいたが、その形跡もなかった。正直手詰まりだったんだが……」

「申し訳ありません。

 エアル様が寄付してくださったお金のほとんどを……」


 涙ながらに頭を下げる院長に首を振り、顔を上げるように言うのがやっとだった。


 信じられなかった。信じたくなかった。

 この孤児院は祖母から自分たちに託された大切な場所だから。

 慰問など興味ないと面倒だと言っていた姉と妹もここだけは毎月きちんと慰問に訪れていたから。

 確かに姉は図書室に篭って子どもたちの相手をほとんどしなかったけれど、確かに妹は子どもたちに群がられると困った顔をしていたけれど、それでも姉妹揃って毎月決めた額を寄付していた。

 孤児院の運営が問題なく行われるように姉妹で協力してきたつもりだった。

 それなのに、自分たちが寄付したお金を巻き上げて私利私欲のために使うだなんて信じられないことをしでかした姉と妹。

 姉妹の裏切りに怒ればいいのか嘆けばいいのか恥じればいいのか分からなかった。

 自分の知っている姉が、妹が、どんどん遠ざかっていく。


「エアル」


 気遣うようなイヴェールの声にエアルは答えられなかった。

 答えてはいけない気がした。

 もう、イヴェールの隣には立ってはいけない気がした。


「エアル!」


 強く名前を呼ばれて無理やり視線を合わせられる。


「ごめんな、さ」

「エアル!!しっかりしろ!今、この孤児院を救い、守れるのは貴女だけだ」

「わ、たし。でも、」

「エアル」


 逃げるのかと問う夜の瞳にエアルはくしゃりと顔を歪めた。


「いやです。ここは、おばあ様が残してくださった場所ですから。ぜったいにいや」


 にじんだ視界の向こう側でイヴェールが満足そうに笑うのが見えた。


「ここの所有権を夜の闇うちで買い取る」

「イヴェール様!?」

「俺がしてやれるのはそれと経営上の助言だけだ。

 あとは貴女の仕事だ」


 出来るな?と無言で問うイヴェールにエアルは大粒の涙を零しながら頭を下げた。

 ぽんぽんと大きな手が労うように頭を撫でる。


「涙が止まったら子どもたちを安心させてやれ」

「イヴェール様は、」

「やることができたからな。

 すぐに龍哉を寄越す。

 ……エアルをよろしくお願いします」


 ぽかんと事の成り行きを見ていた院長は慌ててイヴェールに頭を下げた。


「良い方を選ばれましたね。エアル様」

「……」

「ふふふ、大丈夫ですよ。貴女ならきっと大丈夫」


 どう答えていいか分からないエアルの不安を見透かしたようにあたたかな手が優しく背を撫でる。

 それにまた目頭が熱くなって唇を噛みしめた。

 



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