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ー26ー

 王宮の庭園で無言の攻防を繰り広げた結果、エアルは侯爵家に帰ると同時に熱を出して倒れた。

 出迎えてくれた侯爵夫人と静奈の顔を見た瞬間ぐにゃりと視界が歪んでそこから先の記憶がない。遠くでイヴェールが名前を呼ぶ声を聞いた気がするけれど、気づいたらベッドの上で心配そうな静奈がのぞき込んでいた。


「大丈夫?」


 その言葉がなぜか胸にじんわりとしみ込んでぽたぽたと涙が零れた。


「ごめんなさ、だいじょうぶです」


 ギョッとした静奈に慌てて涙をぬぐうけれど、中々涙は止まってくれない。

 目をこする手を静奈の手が咎めた。


「赤くなる。ダメ」

「静奈さん」

「話、きく。話すとスッキリする」


 促されるままにエアルは嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。

 熱に侵された頭は正常に動いてはくれなくて、歯止めが利かないままに言葉が溢れだす。

 支離滅裂になった言葉を静奈は根気強く聞いてくれて、一通り吐き出し終わってまどろむエアルを優しく眠りに促した。

 そのおかげかエアルはとても幸福な夢を見た。

 柔らかな灯りの中でイヴェールが労わるように髪を梳いて側にいてくれる夢。

 視線を向けたエアルに驚いた顔をして離れていく手を引き留めると困ったような顔をしながらエアルの好きにさせてくれる。

 きゅっと手を握れば宥めるように手の甲を撫でられて側にいると囁いてくれる。

 それだけでとても嬉しくて、ふにゃりと笑みが零れる。

 熱で苦しいのも忘れてふわふわした気持ちのままに普段は絶対に言わないようなことも言った。

 ドレスをイヴェールにも一緒に見立ててもらいたかったことや執務室へお茶を持っていくのが好きなこと。でもそれが邪魔になっていないか不安なこと。庭園の散歩に付き合ってくれることが嬉しいこと。

 イヴェールは驚いた顔をしながらエアルの言葉を聞いていた。その顔にまた嬉しくなりながら夢だからと緩んだ気持ちのままつい、こぼれてしまった。


「……いや、なんです」

「エアル?」

「マリアベル様やお姉様がイヴェール様のお側にいるとモヤモヤして嫌なんです」


 見たことのないほどに驚いた顔をするイヴェールにうるりと涙腺が緩んだ。

 涙の膜でぼやける視界からもイヴェールの動揺が伝わる。


「私なんかじゃ釣り合わないってわかってます。

 マリアベル様やお姉様のおっしゃる通り、私なんかじゃ、イヴェール様の隣に立てないって。

 でも!だけど!いやなんです。

 お姉様にどう思われても、お姉様に本当に疎まれることになったとしても。

 ……いやなんです。他の女の人と楽しそうにしないで」


 ついに涙腺が崩壊してポタポタと涙が零れ落ちる。

 それを合図に目を見開いて驚き固まっていたイヴェールがきゅっとエアルの手を握った。


「貴女だけだ。他の女なんていらない。

 マリアベルや貴女の姉上が何を言ったか知らないが、俺の隣は貴女だけのものだ」

「しんじてもいいですか?」

「エアル―――――」


 イヴェールがしっかりと頷いたのを確認したところで夢は終わった。

 最後に何事か囁かれて額に柔らかなぬくもりが触れた気がしたけれど、深く追求しない。

 だって夢だから。

 ハッキリと意識が覚醒した時には熱はすっかり下がり、思考もクリアになっていた。

 うっすら覚えている幸せな夢に悶えたくなったけれどそれどころじゃない。

 夢のこともあって更にイヴェールと顔を合わせづらい。

 どうしようか頭を悩ませていたところにひょっこりと顔を見せて安心したように微笑む静奈の顔をみてエアルは静かに心を決めた。


 よし。逃げましょう。


 この日を境にエアルとイヴェールの鬼ごっこが始まった。



お久しぶりです。

更新が遅くなって申し訳ありません。

新しい職場に中々慣れなくて執筆までたどり着けない日々を過ごしてます。

いつも以上に気まぐれ更新になると思いますがお付き合い頂ければ幸いです。


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