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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
クローズド・サーガ
48/52

クエスト46・絶望の先に

Player-へな子

 「分かってはいたけど、誰も信じてくれないな・・・」


 ハンゾーが心底参ったとでも言いたげに、言葉をこぼす。

 それはへな子たちも同じだったりするけど。

 チャラのフレンドからの情報で、やたらと名前が言いにくい神級ゴッド・クラスのモンスターがとんでもなく強いとかいう噂があったらしい。


 「痛みは分からないけど、ダメージがほぼ全く通らないらしい」


 「・・・異様なステータスは例のモンスターの特徴よね?」


 チャラとツンちゃんが現状の確認をした。

 痛みを受ける前に退散できたならよかったけど、倒そうとすれば絶対に犠牲が出る。そう思うと、どうしようもなく恐怖で体が震えた。

 ・・・あんな思い、もうしたくない。


 「とりあえず、掲示板にもやってはおいた。けど、やらないよりはましって感じだしな・・・」


 チャラが言っている掲示板は、パーティを組む時や、アイテムの採集依頼をしたりするときに使うものだ。この掲示板はゲーム内のいたるところに置いてある端末を操作して利用することができる。

 ちなみに、この掲示板は情報交換としての掲示板チャットとしては利用できず、このゲームには攻略の掲示板と言ったものがない。だから、そう言った情報は自分の友好フレンド関係で賄うしか方法がない。だから、このゲームでは『信頼』がとても重要な要素の一つになってしまっている。

 でも、へな子たちはここにきて数日しか経っていないから、そんな信頼関係を築けるほどのプレイヤーはいない。

 それ以前に、いきなり現れた人達が『神様倒しにガンガン行こうぜ!』とか、普通にバカにされるともう。


 「(最悪は、へな子たちだけでするかもしれない?)」


 「・・・そうなる可能性が高い」


 ハンゾーは心底参ったとでも言いたげな表情でつぶやいた。そしてすぐに表情を真剣なものへと変えると、へな子たちに向かって一言だけ言った。


 「それでも、行くか?」


 ハンゾーのその眼を見て、へな子たちは悟った。

 こいつは、一人でも行くつもりだなって。ハンゾーはいい加減なように見えて、実は曲がったことがあまり好きじゃない。

 一言で言えばクソ真面目な人間だ。でも、そんなハンゾーおかげでこのパーティーのリーダーを任せられるし、信用もできる。

 そんなハンゾーが言うんだから、あのモンスターに有効な何かしらの手段があるんだろうと思う。


 「・・・しょうがない。俺は正直怖いが、行ってやろうじゃないか!」


 やはりというか、一番に賛成の意を示したのはチャラだった。何でもかんでもノリと勢いだけで決定するバカだからね。


 「・・・チキンは放っておくとして、私も何とかしなくちゃいけないと思う。それが私たちだって言うのに不満がないわけじゃないけど・・・・・・これ以上、被害を増やす気も起きない」


 ツンちゃんがチャラを罵倒しつつも、意見を出す。

 へな子は・・・・・・。


 「・・・」


 しばらく考えた後、へな子はメモ帳に文字を打ち出して、みんなに見せた。


 「(行く)」


 「・・・そうか、分かった」


 ハンゾーはそれだけ言うと、立ち上がって目的の場所へと歩き出した。




 というわけで、到着。

 目的の場所は『魔の森』。薄暗い密林のようなダンジョンで中級者向け。そして、ここについ最近見慣れないモンスターが現れたみたいだった。

 モンスターはやたらと耐久血が高いのか、こちらがどんな攻撃を行ってもダメージを与えられないらしい。


 「いいか、とりあえず、防御を無視する貫通攻撃を中心にして攻めるぞ」


 「つまり、ツンとへな子がダメージソースになるわけだな」


 チャラがそう言いながらへな子たちを見た。


 「(頑張る)」


 「女に任せるとか、サイテー」


 「しょうがないだろ!?ハンゾーは鋼糸だし、俺は補助だぞ!?」


 ぎゃーぎゃー喚きだしたチャラに一撃をくれてあげよう。


 「大体、そんなだからお前等は胸が―――」


 「(爆ぜろ!そして弾けろ!)」


 次の瞬間、チャラが爆風と共に吹き飛んだ。

 ・・・乙女の敵は滅びるべき。


 「・・・行くか」


 ハンゾーは何も見なかったことにして、先に進もうとした。


 「いやいやいや!?いきなり爆撃とかするなよ!?」


 「リア充じゃなくとも爆ぜなさい」


 「(チャラは爆ぜろ)」


 「理不尽だ!!」


 「お前ら、ちゃんとついてこいよー」


 へな子たちはそんな風に騒ぎながら、いつも通りの雰囲気でダンジョンの中へと足をすすめた。

 でも、本当はわかっていた。これがカラ元気だってことぐらいは。そうでもしないとやっていられないという思いでいっぱいだった。

 けど、目の前の問題も放っておくことはできない。そんな傲慢ともとれる気持ちで、へな子たちは歩き続けた。

 今回現れた例のおかしなモンスターは、実を言うと明確な出現場所がない。ある時は洞窟のダンジョンの中にいたと思えば、今度はダンジョン外の平原にいたり、またあるときは街中で見つけたというあり得ない話まである。モンスターの類は、安全地帯セーフティ・エリアである街等には入ってこないのに・・・。

 じゃぁ、なぜへな子たちがここへ来たのかと言えば、簡単な話、最後の目撃があったというのがこのダンジョン、『魔の森』だった。


 「(いないねー)」


 「そうだな・・・」


 へな子の筆談にハンゾーが返してくれた。

 それに続くようにしてチャラがペラペラと言葉を続けた。


 「確かにそうだよな。モンスターは『鶏と雉を足して二で割ったようなでっかいモンスター』だったよな?つか、これってほとんど鶏じゃね?何で鶏がアホみたいな強さなんだよ。鶏が最強ってのは、昔あった緑の服着た勇者のアクションRPGだけで十分だっての。そもそも・・・」


 「黙りなさい」


 チャラが昔の某有名ゲームの話しを長々と続けようとしたのを、ツンちゃんがぶった切った。チャラはまだ何か言いたそうにしているけど、それを無視してツンちゃんが続ける。


 「でも、こんな森に大きな鶏がいれば、確かにすぐに気付くわよね?」


 「(ツンちゃん、ツンデレ!ツンデレ忘れてる!)」


 「・・・こ、こんなことに気付かないなんて、バッカじゃないの!」


 「無意味に無理やりツンデレなくてもいいからなー」


 ハンゾーが適当に流す。


 「けど、二人の言うこともその通りなんだよな・・・。へな子、場所は覚えているか?」


 「(おうさー!)」


 へな子は待ってましたとばかりに、メモ帳にタイピングをしていく。

 目撃された場所は『世界樹』を中心とした半径、約三キロ圏内。時たま全く見当違いの場所、つまりは『街』にも出ているみたいだけど、これは誤差ってことで。


 「分かってるのは行動範囲のみ。出現場所は全くのアトランダムか」


 「「「・・・」」」


 ここまで来て、なすすべがなかった。

 ・・・一応、効率よく探す方法はあるにはある。それは至極簡単な話で、みんなで手分けをして探すことだ。場所のやり取りはショートメールを使えば簡単に連絡がつく。

 けど、それを誰ひとりとして口には出さなかった。


 ・・・怖いから。

 

 それも、どうしようもなく。


 「・・・じゃぁ、今日は―――」


 ハンゾーがこれ以上は意味がないと判断したのか、退却しようと言おうとしたんだろうと思う。もしかすると、そうじゃなかったのかもしれなかったけど、結果としては、それは全員に伝えることができなかった。

 それは唐突に起こった。

 へな子たちの間を一人のプレイヤーが走り去っていき、現れたとき同様、唐突にその姿を消した。

 あまりの礼儀のなさに呆気にとられていると、そのプレイヤーの走ってきた方向から、鶏が怒ったような・・・・・・・・鳴き声が聞こえた。

 まさかと思って振り向けば、そこには巨大な鶏としか言いようのない、見慣れないモンスターが一体に、この森のモブが数体。


 「トレイン!?」


 トレインは、プレイヤーが大量のモブを電車のようにひきつれた状態のことを言う。逃げる際に時たま起こるけど、これを悪用したMPKが存在するために、故意じゃなくても注意を受けることがある。

 けど、今回は明らかに・・・。

 

 「MPKかよ!?」


 チャラが吐き捨てるように言うと、モンスターが襲いかかって来た。


 「別々の方向へ逃げろ!」


 ハンゾーの指示が飛んできたと同時に、へな子たちは散会した。

 モンスターたちはそれぞれが一番近い所にいる所へと追いかけて来た。そして、おそらく一番の問題であろう、例のモンスターは・・・。


 「ハンゾー!!」


 ツンちゃんの悲鳴のような声が聞こえた。

 後ろを振り向けば、そこにはへな子を追いかけてきたモンスターの影から、鶏のモンスターがハンゾーを追いかけ始めたのが分かった。


 「俺は大丈夫だ!さっさと安全地帯セーフティ・エリアに逃げ込め!!」


 ハンゾーはそれだけ言うと、へな子たちが何を言おうとも返事を返さなかった。そして、ハンゾーを追いかけようにも、この追いかけてくるモンスターたちが非常に邪魔だ。

 試しにあまり出来の良くなかった爆弾を適当にモンスターへと投げつけてみると、それほど強くはないのか、HPの一割ほどを削った。


 (これなら・・・)


 へな子はアイテムインベントリから、アイテムをいくつか取り出す。へな子のスキル、ステータス構成はかなり変なものになっている。簡単に言えば、生産職が無理やり戦えるようにしてみましたという感じだ。下手をすれば地雷的なアレになっていた気もするけど、幸いにもうまく戦える程度にはなっている。というか、四人の中でもっとも火力のあるプレイヤーがへな子だ。

 へな子はアイテムカードを全て握りつぶし、頃合いを見計らって相手に投げつける。カードが爆弾へと変貌し、へな子を追いかけてきた戦闘のモンスターの群れの中にまぎれ、しばらくすると大爆発を起こした。

 これは生産系スキルの『爆弾作成』で造ることができる爆弾の一つで、『カウント・ボム』。十秒後に大爆発を起こす。使い勝手の良さについては賛否両論ある使い捨ての武器だけど、へな子は威力を重視して、この爆弾をよく使う。そのおかげで目の前にいたモンスターたちの半数近くが消し飛び、残ったモンスターたちのHPも既に風前の灯火だった。


 (残りはスキルで・・・)


 へな子はスキルを使おうと、モンスターたちに近づく。けど、その途中で、何故かへな子の体は止まってしまった。

 一瞬、麻痺か何かのステータス異常にかかってしまったのかとも思ったけど、その表示はどこにもなかった。ハンゾーの鋼糸のような特殊なものかと周囲を見渡してみれば、そこには震える自分の体があるだけだった。


 (あぁ、やっぱり怖いんだ)


 どこか他人事のようにそんな考えが頭をよぎる。目の前にいるのはごくごく普通のモンスター。

 けど、そうじゃなかったら?

 前のように、酷い目に遭う。

 もう、あんな思いは嫌だ。


 「・・・ぁ、ぅ」


 言葉を発することのできなくなった口で、悲鳴のようなものを上げようとしても、かすれた呼吸音のような音しか出てこない。

 そしてモンスターたちがへな子に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 恐怖に駆られたへな子は、必死に攻撃を避ける。その際に攻撃が少しかすったのか、HPがその分だけ削れた。

 痛みは、全くない。こいつは、あのモンスターじゃない。そう、頭では理解できる。けど、心が、どうしようもない悲鳴を上げる。


 (―――怖い、もうやめて!)


 へな子は声にならない、声に出ない悲鳴を上げ、ありったけの爆弾を投げつけ、逃げた。そして気付けばモンスターたちは消えて、周りを見渡してもへな子しかいない。

 それを理解すると同時に、今度は孤独でいることの恐怖が湧きあがって来た。


 (もう、帰りたい・・・)


 『現実リアル』に。

 今までこのゲームをしていて、こんな感情は閉じ込められた日以外ではなかった。なんだかんだで、このゲームの世界を楽しんでいたから。

 けど、その裏側を知ってしまった今となっては、この世界が『現実リアル』よりも恐ろしいものに思えてならない。

 その時、へな子の周囲から木々の葉が擦れる音が聞こえた。

 みんなが来たと思って、顔を跳ね上げる。しかし、そこにいたのは六人のプレイヤー。その誰もが、へな子を嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。


 「結構派手なことをしていたが、こんだけHPが減ってりゃカンケーねぇだろう」


 「それに、こいつ超ビビってるぜ?」


 「大方、PKされんのが初めてなんだろ」


 そんな会話を相手がしていた。

 そしてへな子は理解した。こいつらは、あのトレインしてきたプレイヤーの仲間だと。そして相手は自分の武器を見せつけるようにしてへな子に迫ってくる。


 「しっかし、本当にラッキーでしたねェ。あんなモンスターを見つけることが出来て」


 「本当に、モンスターさまさまだ」


 「つか、こいつ一っ言もしゃべんないな。なんか言えよ、あぁ!」


 プレイヤーの一人が投擲武器を取り出して、へな子をギリギリかすめるようにして投げつける。

 そしてへな子には、この光景があの時の韋駄天やシヴァとかぶって見える。


 「おいおい、そんな可愛そうなことすんなって。ビビりすぎて声が出ないだけだろ?」


 「なんだよ。つまんね」


 「んじゃま、サクッとやっとくか」


 唐突に、リーダー格のプレイヤーが手に持った槍を振り上げる。

 へな子は、それを見て体が凍りついてしまった。

 そして時間がやけに遅く感じる。徐々に、徐々に槍がへな子へと振り下ろされるのを、ただじっと見ていることしかできない。

 そんなゆっくりと動く景色の中、へな子は神様に祈るしかなかった。


 (誰か、助けて・・・!)


 「神様の代わりに助けてやろう!」


 そんな声が聞こえたと同時に、へな子達の間に人影・・・というより、猫影(?)が割って入った。

 その影は逆手に持った短剣を槍の側面に当てて、その軌道を逸らす。

 槍はへな子たちにかすりもせずに、地面を貫くだけで終わった。そして影はスキルを発動させるために構え、言葉を発した。


 「≪スレイプニル≫!」


 短剣が眼にもとまらなぬ速さで振るわれ、八つの斬線のエフェクトが散る。それを認識したと同時、襲いかかって来た目の前のプレイヤーのHPが既にゼロなのに気付いた。

 何が起こったのかわからないとでも言いたげな表情で、HPがゼロになったプレイヤーはドットへと変換されて消えていった。


 「お、お前、一体何を!?」


 「つか、誰だよ!?そいつの仲間か!?」


 「一度にしゃべるなよ」


 彼はハァとため息をひとつつくと、『ココまで走ってくるの疲れた』とか愚痴を呟き、相手へと向き直る。


 「俺は、ただの猫妖精ケットシーだ。・・・通りすがりの」


 猫妖精ケットシーのプレイヤー―――ミッドさんはそう言った。


 「んな通りすがり、あってたまるか!?」


 まったくもって、その通りだとへな子も思った。


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