クエスト30・喧嘩娘VS魚人
本当に、なんで『アテナ』があぁなったんでしょうねwww
さぁ、タイトルはあえての『喧嘩娘』と『魚人』。いったいなんででしょう?
それと、実はアテナの『ワカメ君』は元ネタがあるんです。知ってる人はいるのかなぁ?気になる人は活動報告を見てね!
Player-カイ
「何でだよ・・・」
「せん、ぱい?」
「何でだよ!?」
俺は、行き場のない怒りをついに爆発させた。
「何でだよ!?あいつが、『海王星の三叉矛』を持っているのはわかってただろ!?なら、あいつが異常な強さになってるのも想像がついたはずだ!」
俺は、ただ八つ当たりをした。
別に、こいつ等は悪くないのに・・・。
むしろ、へまをやらかした俺の方が悪いのに・・・。
ただ、この怒りを誰かにぶつけたくて、叫んだ・・・・・・。
「俺は、昨日のうちに聞いといたんだ!神話に詳しいやつに!!だから、相談すればいい解決策があると思った!!」
だから、お前等のせいだ。
俺は言外にそう言った。
「何で、俺抜きで、『ミノス王』を倒そうとしたんだよ!?」
「「「・・・」」」
みんなは、その言葉にうつむく。
・・・何でだよ、何で、そこでうつむくんだよ?
そこで、俺の中には一つの、今一番見たくない、『現実』を、直視してしまった。
「・・・ははっ、そうだよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カイ」
「そうだよな、だって、今の俺・・・」
「カイ!」
いつになく、厳しい兄貴の声。
けど、俺の言葉は止まらない。
「―――『海と馬の神』じゃ、ねぇからな」
息を呑む声が聞こえた。けど、今の俺には関係なかった。
そして俺は、また、その場を逃げ出した・・・。
どれだけ走ったのか・・・。
今、どこにいるのかもわからない。
アテもなく歩き、ただそこをふらふらと彷徨う。
そして唐突に、つい最近多いと感じる、例のシステム音が鳴る。
半ば条件反射的に俺はウィンドウを操作。
To ミッド
―――sub・なし
―――本文・そう言えば、今思ったんだけどさテセウスに・・・
まだ続きがあったが、俺は読む気になれず、そのまま返信のボタンを押す。
―――悪い、今はそういう気分じゃない。
―――そっか。邪魔して悪いな。けど、一度でいいから、読んどいてくれよ!
そのメールを最後にミッドからの空気を読まないメールは来なくなった。
マジで、あいつはどういうタイミングでメールを送って来やがる・・・。
「・・・事情を知らないやつに、何当たってるんだよ」
「本当にその通りだな。今のお前、マジカッコ悪ィ」
後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
ふり向かなくてもわかる。そいつは、女子にしては鋭すぎるその目を、いつも以上にとがらせているんだろう。
「・・・何の用だ、華?」
「お前、マジで脳ミソもワカメでできてんのか?バカすぎる舎弟を連れ戻すのも親分の仕事だ」
「いつ、俺はお前の舎弟になったんだよ・・・?」
「はぁ?そんなの、生まれたときからに決まってるだろ?生まれたときから、お前のモノはウチのモノ。そしてウチのモノはウチのモノなんだよ」
「なんだよ、その暴君過ぎるジャイアニズムは?」
つか、俺達ってそこまで深い間柄じゃないよな?
「・・・で、『ポセイドン』」
「やめろ、俺は『ポセイドン』じゃない」
いきなりその名前で呼んだ華へ、俺は間髪いれずに言う。
「やっぱりな。お前、神器なくして自分が『ポセイドン』じゃないって思ってんだな?」
「だって、そうだろ!?三叉矛を盗られたんだぞ!?」
「なら、新しい『ポセイドン』は『ミノス王』ってことだな」
「あぁ、マジでそうかもな」
華の皮肉に、俺は皮肉で返す。
いつもなら、ここでブチギレた華が俺にPVPを申し込んで、ボコろうとする。
だが、今回は違った。後ろで『あー』とか『うー』とか、華らしくない声が聞こえたかと思えば、いきなり腕を掴まれた。
「いい加減にしやがれ。ちょっと来い!」
「はぁ!?おい!?」
俺は、華のいつもと違う行動に呆気にとられ、いとも簡単にずるずると引っ張られていった。
と言うわけで、またも『雛鳥亭』に来た。
既に時刻は夕方で、結構客でにぎわい始めている。だが、偶然あいていたテーブルにつき、華は給仕を呼ぶ。
「メニューの、こっからここまでだ」
「は、はい・・・」
・・・どこかデジャヴを感じるやり取りの後、華は自分の隣の席に座るように俺を促す。
とりあえず言われたとおりに座る。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
なんだか、非常に気まずい空気だ。
俺がこの空気を打破しようと口を開こうとすると、華も口を開くのが見え、俺は緊急停止。だが、華も同じように口を閉じてしまった。
「・・・」
「・・・」
再び、沈黙。周りはそんな俺達の不思議な空間をチラチラと盗み見ている。
そんなことを思っていると、再び華が口を開く。
「・・・・・・・・・なんか、しゃべれよ」
「お前が呼んだんだろ!?」
思わず突っ込んだ。
無理やりに引っ張ってきて、会話の主導権を丸投げとか、最悪すぎる。
そんな俺達の気まずい空気を打破するためにか、まるでタイミングを見計らったようなタイミングで料理が運ばれてくる。
しかも何故か、ヒヨコのエプロンを装備したおやっさんが直々に運んできた。料理を置くときに、何故か俺達に慈愛の籠った視線を送ってきた。
「・・・・・・頑張れよ」
「違う!アンタが思っていることとは絶対に違う!」
「照れるな。まぁ、初めてなんだ。彼女と会話が続かないのはしょうがない。だが、頑張れば『愛と美の女神』と『婚姻の女神』も微笑んでくれるはずだ」
「ギリシャ神話っぽい言い回しにしても意味ないから!!」
「そ、そうだぞ、う、ウチが、こんなワカメに・・・!」
「これは、サービスだ」
そうやって何故か頼んでもいない料理を追加。本当に、有難迷惑だ。心の底からそう思う。
だが、何故か周りのプレイヤー達は『流石おやっさん!』と称賛の声を上げている。
・・・おやっさん、超人気者だな。
顔が赤いままだが、若干ダメージから回復した華が話しだす。
「とにかく、ウチが言いたいことはだなァ!たかが、神器パクられた程度で何を落ち込んでるんだよ!?」
「けど、そのせいで案山子さんが・・・」
「聞いたぞ、レグルスから・・・」
華は俺の言葉を遮ってそんなことを言う。
俺が行き場を失った言葉を見つける前に、華は言葉を重ねる。
「あいつ、自分のせいでお前にトラウマを植え付けちまったって思ってる。・・・お前も、『ミノス王』の攻撃食らったんだろ?」
俺の脳裏に案山子さんのあの状態がフラッシュバックする。
だが、俺はあぁはならなかった。
「・・・けど、結果としては」
「あぁ、そうだ。結果としては大丈夫だった。そんで、モヤシは偶然あぁなっただけだ。お前、三叉矛パクられたら、あぁなることを知ってたのか?」
「確かに、そうだけどな・・・」
「なら、ウチが言うことは一つだけだ。・・・・・・仕方ねぇじゃねーかよ」
「けど、そんな言葉で済むわけが・・・!」
「済む」
あんまりな言い方をするこいつを諌めようとしたら、こいつはあろうことか断言しやがった。
そして俺の目をまっすぐに見て言う。
「済むんだ。あの、牛野郎をぶっ潰せば」
「けど、俺には・・・」
「いいか、耳の穴かっぽじってよく聞け、ワカメ頭」
『ポセイドン』じゃない。そう言おうとした俺の襟首をつかみ上げ、ドスを利かせた声で俺に言う。
「お前は、誰が何と言おうと『ポセイドン』だ。『ホワイト・オリュンポス』で、一、二を争う殲滅力を持つ、プレイヤーの一人だ」
「だから、俺には・・・三叉矛が」
「何を、フォークみたいな武器を無くした程度で泣きごとを言いやがる!お前なァ、何であいつらだけで行ったか、わかっか?あいつらは、てめェが心配だったんだよ!」
「だから、それで『ポセイドン』じゃない俺を・・・」
「・・・これじゃ、ラチがあかねェ」
そう言うと、華の腕が素早く動く。
そして、アイテムインベントリからカードオブジェクト化させた二枚のアイテムを取り出す。
ちらっと見えた所じゃ、アレは・・・。
「おやっさん!このカードを預かってくれ!」
「・・・時には、拳で語り合うことも必要か」
「ぜってー、おやっさんの考えていることとは違ェからな!?ちょっと、場所借りるぞ!?」
「特別に許可しよう」
なんか突然現れたおやっさんに一枚のカードを預け、しかも何かの了承を取り付けた。すると、そこでシステム音が響く。
目の前にウィンドウが現れ、『PVPを申し込まれました』とメッセージが出た。この状況下で、相手は一人しかいない・・・。
「『ポセイドン』じゃないだァ?上等だよ。なら、ウチもこれで『アテナ』じゃねェ」
「お前、やっぱさっき預けたの・・・!」
「本当ならサブ使うんだけどよォ、お前の不抜け具合を考慮して手加減してやるよォ!」
華がカードを握り潰す。光が華の周りを駆け巡り、それは右腕に収束した。
現れたのは、小さな円形の皮の盾。それが腕に固定されていた。
「初期装備レベルのバックラーだ。今のお前なんぞ、Gスキル使わなくても勝てる」
「何で、急に・・・」
「なんだよ。ほぼ丸腰の元『アテナ』にビビってんのか?元『ポセイドン』様はよォ?」
あからさまな挑発。
いつもの俺ならこんなものには乗らない。
・・・・・・けど、今日の俺は結構むしゃくしゃしてる。つか、俺を振り回すのをいい加減にやめてほしい。
「・・・今、俺にはサブしかない」
そう言いつつ、俺はアイテムインベントリからカードを取り出し、それを握りつぶす。
現れたのは、銀色の槍。『銀槍・ロンギヌス』。槍使いが好んで使う武器だ。
「お前も、サブ使えよ。わざわざ初期防具なんて使わずに」
「あんだよ?初期防具に負けるのが怖ェのか?安心しろよ。これはウチが売った喧嘩だからなァ。相手がサブだったから負けましたなんて言い訳はしねェ」
「・・・わかった。お前が何を考えているのかはわからない。けど、あえてその挑発にのってやる!!」
俺は迷うことなく『YES』のボタンに触れる。
すると、俺達の周囲の客が弾かれ、店の中でのバトルが始まる。
周りは何かの余興だと思っているのか、俺達にヤジを飛ばす。
「とりあえず、まずは様子見と行きますかァ!!」
華は俺に猛スピードで肉薄する。
いきなり突っ込んでいった華に周りのギャラリーは驚く。確かに、こいつはかなり速い。けど、俺の知ってる最速はこんなに遅くない。
俺はタイミングを見計らい、ただ槍を前に素早く突き出す。華はそれに反応し、すぐさま行動に移る。まず、腕に装備されたバックラーで俺の槍の側面を流す。そして完全に俺の懐に入ってくると、そのまま盾を裏拳の要領で俺にぶつけようとする。
それを呼んでいた俺は槍を一回転させ、石突きで華を殴りつけようとする。それを見た華は体を横にずらし、俺の真横を駆け抜ける。
なら、次に来るのは後ろからの裏拳か・・・!
俺はそう判断して反転、その回転運動を利用して振り回す。
「かかったな!」
そこには、裏拳を放とうとしている華がいなかった。
華はただ単に地面に足を踏ん張り、構えているだけ。しまったと思ったが、俺は急にとまることができない。
華は俺の槍をバックラーで受け止め、そのまま反対の方向へと押すようにして弾く。そして俺の槍には変な力が加わって、俺はその力に振り回される。
華は、そんな決定的な隙を見逃すほど甘くはなかった。
「喰らえ!」
俺のガラ空きになった真正面に、アッパーカットを放つ。
体制を立て直そうと槍を回転させるが、またも華によって弾かれる。
ゲームでは盾アタックと呼ばれるものがある。実はこれ、実際にある攻撃方法で『シールド・バッシュ』なんて呼ばれていた気がする。簡単に言えば、盾で敵をぶっ叩く攻撃方法だ。
あまりに荒々しすぎる防御、それが華の戦い方。このヤンキー女は、我流の喧嘩殺法に組み合わせて戦う。それがうまいぐらいにはまったのか、『防御は最大の攻撃』と言う、わけのわからない造語を生み出した張本人だ。
いや、ある意味では『攻撃は最大の防御』を体現していると言ってもいいかもしれない。
「んだよ、もう終わりか?」
「まだ、まだぁ!」
俺だって、槍のスキルぐらい極めている!
俺は槍を構え、スキルを発動させる。≪ディオ・ドーリィ≫、俺の二連続の槍の突きが放たれる。≪アエラス・クゥロス≫、華を空中に掬いあげ、連続で攻撃を叩きこむ。≪プロズヴォリ・エピセシ≫、俺は槍を構え、そのまま華に突撃する。
「甘ェ!」
華は俺の二連続攻撃を捌き、槍で空中に放り出されつつも、その続きの攻撃を全てガード。そして、地面に降り立ち、バランスをとったその瞬間を狙った攻撃も真正面から盾をぶつけ、逆に弾き返す。
だが今回は双方ともに攻撃の反動を受け、一旦互いに距離をとる。けど、まだ俺の攻撃範囲内だ。
俺は素早く詠唱を済ませ、魔法スキルを使う。
「≪パリランキ・アンデクセン≫!!」
槍の石突きを店の床にドンと突く。
すると、そこからごうごうと水が放たれ、大津波と化す。だが、相手もそれを呼んでいたみたいだ。
「≪アポリィトス・ティホース≫!」
白い、半透明の壁が華の周りに展開され、俺の魔法スキルを防御。
ロゼ並みの・・・いや、ロゼ以上の防御魔法スキル。ここまでの防御スキルを持つのは、彼女以外にいないだろう。
俺は華に続けて魔法スキルをブチ込む。
「≪サーラサ・ドーリィ≫!」
空中に水で構成された槍が現れ、それらが華の生み出した壁を破壊せんと突きささる。
だが、華の防御魔法スキルは俺の攻撃に耐えきった。
「・・・なんだ?それだけか?」
何故か、華は見るに堪えないとでも言いたげな表情で俺を見る。
「・・・なんだよ、その顔」
「いやぁ、『スレイプニル』と戦っていた時より弱くなったな」
「なんだと?」
「あんときのお前はなァ、意地でも『スレイプニル』に自慢の魔法スキルと、槍スキルを叩きこんでやろうと、がむしゃらにやってたぞ?」
そう言うと、華は大げさにため息をつく。
「お前、『スレイプニル』とつるんで、ザコになっちまったんじゃね?」
「・・・言う事欠いて、それかよ!」
「事実だ。・・・つか、バックラーって、この正面部分を前にもってこれねェから、使いづらいんだよなァ。・・・ちゃんと選ぶんだった」
そう言いながら、華はバックラーの位置を調節しようといじくる。その間、俺は思いだそうとした。
俺、ミッドとどういう風に戦ってたっけ?ミッドのスピードの前には、どんな攻撃も当たらない。それこそ、永久的にミッドを追尾するスキルでもない限り。いや、あってもミッドのカタールにはたかれて終了だ。そして、EXスキル≪スレイプニル≫。スキルの威力がプレイヤーのSPDによって決まると言う、特殊な技。ミッドが使えば最強のスキルになる。だから、大抵のやつはミッドの前になすすべなく敗北する。
けど、俺は違った。
少なくとも、ミッドを近づけさせないだけのスキルを、俺は持っていた。
『範囲攻撃系スキル』。こいつのおかげで、ミッドと一定距離を保つことに成功。だが、それだけだ。ミッドにはダメージを与えられない。それはGスキルでさえ例外ではなかった。
俺は、どうしていた?
確か、Gスキルと、≪パリランキ・アンデクセン≫を多用していたはず。そうじゃなきゃ、一瞬でやられたから。
そういや、ミッドのおかげで上がったスキルがいくつかあった・・・。
そう言えば、ロゼが俺を脅迫して、何かを聞き出した気が?俺は、ミッドに勝つために・・・。
「・・・そうか、忘れていた」
思い出した。華の言う通りだ。俺は、弱くなっていた。
それも、ミッドとつるみ始めて。・・・的確すぎる助言、感謝しないとな。
「・・・ん?なんだ、また無意味な攻撃しかけんのか?」
「・・・」
俺は華の言葉には答えず、そのまま華に突撃する。
「真正面から、か。バカの一つ覚えだな!」
俺はスキルを使う。
≪アエラス・クゥロス≫、華を再び掬い上げ、空中にいる華へと攻撃を続ける。
「それは、気かねェんだよ!」
「・・・」
そんなの、わかってる。俺はさらにスキルを重ねる。
≪カタギーダ≫、嵐を意味するギリシャ語。その言葉通り、嵐のような怒涛の連続攻撃を放つ。
「っち!」
華もスキルを発動させる。
≪エピセシィ・スパステ≫、盾が致命的なダメージを受ける攻撃の身を効率よく捌く。
「ちったァ、考えたか?けど、それじゃぁウチは・・・」
華が空中でスキルを捌きながらも、しゃべる。
けど、俺ももうしゃべれるようになってるんだよな。
「≪ネロー・ピエスィ≫。本日は所により、大雨となります。ってか!」
「お前、何を・・・!?」
華がついに気づく。けど、遅い。
俺は話さなかったんじゃない、話せなかったんだよ。ミッドのやつは、地味にシステム外スキルっぽいヤツのオンパレードで攻めてくる。だから、俺もそれに対抗するにはシステム外スキルに頼るしかないってアホな考えにたどり着いた。
まぁ、それで思いついたのが『二重スキル』。簡単に言えば、魔法スキルの詠唱しながら戦闘スキルを使うって技だ。
これが地味に難しい。戦闘スキルを発動するにはモーションとらなきゃいけないし、魔法スキル使うには詠唱しなくちゃいけない。大抵の場合、どっちかがおろそかになる。詠唱に集中すると戦闘スキルが発動しなかったりとか、戦闘スキルに集中すると詠唱が適当になって発動しないとか。
まぁ、俺は打倒ミッドの為に頑張った。そしてこの境地にたどり着いた。ロゼもたまに・・・いや、割と隙を作るが、一応できる。
とにかく、『二重スキル』のおかげで、華の上空には巨大な水の大槌。それが華を押しつぶそうと迫ってきていた。
「マジ、かよ!?」
「あぁ、ダメ押しにこれもやるよ!」
≪メガロ・アナキニステ≫、槍をフルスイングし、華を上空に吹き飛ばす。
華のHPが初めて減り始めた。俺の槍によるフルスイングで水の塊に激突し、さらにはその水によって華が地面に叩きつけられる。
「かァー!さっきのは、マジで死んだと思った。もう、圧殺とかトラウマだろ、オイ!?とっさに緊急回避的な防御魔法スキル使わなかったら、なんかいろいろとトラウマ付きで死んだぞ!?精神的に!!」
「しぶとい・・・」
俺は再び魔法の詠唱をしながら華を攻めようとする。
するといきなりシステム音が響き、PVPが中止された。
「・・・おい、どういうことだよ?」
俺はPVPをいきなり中止した張本人、華に聞く。
しかも、本人はちゃっかりメシにありついている。
「あぁ?だって、目的果たしたし」
そう言いながら、華はここに座れと手招きする。
俺はどこか釈然としないモノを感じつつも、華の言う通りにする。
そして俺にぐいと料理の皿の一つを突き出し、一言言う。
「やっぱ、強ェじゃねーか」
「・・・はい?」
「ん」
そうやってピラリと一枚のカードを見せつけてくる。
それは防具のカードで、俺には馴染み深過ぎる名前がついていた。
「お前、それ『アイギス』じゃねぇか!?預けてたんじゃないのかよ!?」
「おやっさんにグルになってもらった。ちなみに、最後のアレは『アイギス』でとっさに防いだ」
「・・・お前、どんな早業で」
若干呆れた声を出すが、華は女子らしからぬ下品な笑い声を上げて言う。
「まぁ、そう言うことだ。神器のねェお前が、神器を隠し持ったウチに勝った。・・・十二分に『ポセイドン』を名乗れるじゃねェかよ」
「いや、それとこれとは・・・」
「男が女々しいこと言うな!いいか、神名持ちなんて、ただ他の奴等より強い武器、防具、アイテムを持ってるだけなんだよ!?で、その強い武器を苦労して手に入れたカイってワカメ野郎が『ポセイドン』って周りから呼ばれている、そんだけだよ!」
たかが厨二病な名前一つに踊らされてるんじゃねェと華は言い、メシをかっ食らう。
・・・そうだ。確かに俺は苦労して『海王星の三叉矛』を手に入れた。けど、それが全てじゃない。だって、俺には今まで鍛え上げてきたスキルがある。そして、仲間もいる。
・・・まだ、俺は終わっていなかった。
「・・・はぁ・・・悪かったな、いろいろと。そして、すまん」
「気にすんな。舎弟の面倒見んのも親分の仕事の一つだ」
だから、舎弟になった覚えはない・・・と言おうと思ったが、今回はそれでもいいかと思った。
「じゃ、舎弟がメシを奢らせてもらいますよってことでいいか?」
「あぁ・・・。いや、それは・・・」
・・・何でだ?言葉の歯切れが悪いな?
「いや、その、な・・・。舎弟にメシたかるってのもどうかって思うんだよな。だから、ここはウチが・・・」
「お前、嘘が下手糞だぞ?」
またも、おやっさん出現。
そして華が何故か挙動不審になる。
「こいつ、お前が払った金、自分が払うから返せと言ってきたんだよ」
「待て、言うな!頼む!つか遅ェー!?」
なんか一人でボケと突っ込みをするという行動をとり始めた華。
・・・それって、まさか?
「・・・お前、まだ俺の金持ってんのか?」
「おそらくはな。早く返さないととか言ってたからな」
「ち、違うぞ!?べ、別に・・・って、バラすな!?」
おやっさんの素晴らしいタイミングの口撃に、華はわたわたと動く。
・・・こいつ。
「お前、たまに思うけど、優しいよな?」
「や・・・!?だ、誰が優しいだ!?」
「お前、しかも、今のこの状況は、お前が可愛いとしか思えない」
「か、かわ、かかか、わっ!?て、てめェ、ててて、適当なこと・・・!べ、別にうれしくなんかねェぞ、ワカメ野郎!?」
「しかも、胸が小さいとか、身長が高いとか、地味に可愛い、それこそ乙女な悩み持ってるよな?」
「だだだだだ、ダレガ、おおおお、おと、乙女、だよォ!?む、胸なんかどうでも、いい!べつ、別に、男女言われるの、気にし、して、とか、もうちょい、胸が大きければ、とか、考え、ないん、だぞォ!?」
「華、盛大に自爆してるぞ?」
「黙れ!・・・あぁ、もう!こうなりゃやけ酒だ!おやっさん、酒!」
「ねぇよ。つか、お前はアホか?」
おやっさんが華を斬り捨てる。
「この野郎、どいつもこいつも・・・。これでもなァ、大きくなってるんだよォ!!」
その言葉に、何故か周りの男どもが『おぉー!?』とどよめきの声を上げる。
つか気づけ、これはゲームだ。成長することはない。
「ゲームの中で成長するかよ・・・」
「う、嘘じゃねェよ!?な、なら触ってみろよ、ほれ!!」
「うるさい、そんなぺったんこを触っても俺は何とも思わない」
「ぺった・・・!てめェ、表出ろ!?」
「さっき、やったばっかじゃねぇか」
またも送られていたPVPの申し込みは『NO』を選択。
「っくぅ~・・・!」
何をトチ狂ったのか、華が俺の腕を掴む。
そして、その腕を徐々に自分の胸に近づける。
「アホ!?やめろ、俺にそんな趣味はない!」
「大丈夫だ、ちゃんとあるから・・・」
「大丈夫じゃねぇよ!?俺が『GWO』で社会的に抹殺される!?それに、倫理コードで触れても何にも感じねぇよ!?」
プレイヤーのセクハラ防止のため、他のプレイヤーに触れてもまっ平らなスポンジに触れたような感触しか残らないよう等といった働きをする『倫理コード』と呼ばれるプログラムがある。まぁ、セクハラされた側が衛兵のNPCを呼べば、すぐさま『地獄逝き』にもできるけどな。
「だだだ、大丈夫だ。裏技で、わかる・・・」
「わかりたくねぇー!?おい、誰だよ、衛兵呼ぼうとしたやつ!?『お巡りさん、こちらです』じゃねぇよ!?」
「貴様等は、猥談以外にできんのかぁー!?」
おやっさん、ついにブチギレる。
その日の『雛鳥亭』では、何人ものプレイヤーが正座をさせられ、晒しものにされていた。その中には、『ポセイドン』と『アテナ』の姿もあったとか。




