第232話 『温かい』日々
今回ちょっと短めです
「──ただいま~! マイ、帰ったぞ~!」
今日一日の『仕事』を終え、『自宅』の扉を開けて帰宅の挨拶をする。
すると廊下の奥からぱたぱたと『最愛の妹』──マイがやって来て、笑顔で俺を出迎えてくれた。
「おかえり~! お兄ちゃん、今日も一日お疲れ様! ご飯できてるよ♪」
「いつもありがとうな、マイ」
マイは良くできた『妹』で、幼いながらに料理も出来る。
これが『とてもおいしい』上に疲れた身体に染み渡り、一口食べた傍から力が漲って来るのだ。
彼女の手料理があるから日々のしごきにも耐えられるのだとしみじみ思う。
「ほら、早く食べて!」
「ははっ、分かった。分かったからそう引っ張るな。危ないぞ」
マイは早く感想が聞きたいのか、俺の手をぐいぐいと引いて部屋の中に連れ込む。
こう言う時にやや強引なところも『かわいらしく』、俺の心を『癒してくれる』のだ。
「おお……今日はまた一段と豪勢だな!」
「ふふっ、腕によりをかけて作ったからね♪ ほら、食べて食べて!」
「ああ、これは美味そうだ!」
『食卓の中央に置かれた大皿』の上には、これでもかと積み上げられた『唐揚げ』の山。
その周囲には同じく山積みにされた『おにぎり』や『ハンバーガー』、『サーターアンダギー』とバリエーション豊富な『手料理』が『湯気を立てて』俺を待っているようだった。
どれも『一般的な夕食』ではあるが、それがこうも並ぶと贅沢に感じられてより一層『食欲をそそる』。
俺はやや速足で『食卓』に着くと、早速『唐揚げ』の山に手を伸ばす。
そして『あつあつの唐揚げ』を『いつものように手で掴む』と口に運んだ。
噛むと『パリッ』とした食感の後、一気に口の中を『旨味と肉汁』が満たし『風味が鼻に抜けていく』。
「うん、美味い! マイは料理の天才だな!」
「えへへ~! お兄ちゃんにそう言って貰えると、あたしも嬉しくなっちゃう♪」
その後も俺は『マイ』の『手料理』を次々に食べていき、その度に体の内側から力が漲る感覚を得ていた。やはり『最愛の妹の手料理』は凄いな。辛い『仕事』もこれがあるから続けられる。
「今日はお仕事どうだった?」
「ああ、いつも通りボコボコにされたよ。やっぱり先輩は強者揃いだ」
俺の『仕事』はひたすら訓練を続ける事だ。その為に毎日『先輩』達に組手をつけて貰っており、「お前が一本取れるまで終わらんからな」と代わる代わる扱かれ、実力の差を一方的に思い知らされ続けている。
俺はそんな『仕事』に『やりがいを感じている』。
『先輩』達の強さを全身で感じる度に、彼女達のように強くなりたいという感情が溢れて来る。そして毎日の訓練の成果は着実に出てきており、それが俺の『モチベーションになっている』。
鍛えて貰い、強くなり、『家』で『最愛の妹』の『手料理』に舌鼓を打つ……今は毎日が『満たされており』、『幸せ』だ。
俺が『最愛の妹』の『手料理』と共に『日々の充実』を噛みしめていると、ふと『マイ』が『懐かしい名前』を口にした。
「ねぇ、オーマ=ヴィオレットの事、どう思ってる?」
オーマ=ヴィオレットか……懐かしい名前だ。
嘗ては憎んだ事もある女だが、正直なところ今の俺は──
「ああ、アイツの事はもう何とも思ってねぇよ。今とにかく毎日が幸せだからな!」
俺が嘗て無礼童として活動していた頃は殺してやりたいほどに思っていたが、こうして『無事に人間に戻れた』今となってはどうでも良い相手だ。
これもやはり『毎日が充実している』からだろう。
「ふーん……? ──それはちょっと良くないかなぁ……?」
「うん? なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない♪ それより、早く食べちゃってよ。あたしの愛情がたっぷり籠ってるんだからさ♪」
「おう!」
『マイ』がぼそりと何か呟いた気がしたが、『気のせいだろう』。俺は再び彼女の『手料理』を口に運んでいく。
「美味いなぁ! マイは料理の天才だ!」
◇
「美味イナァ! マイハ料理ノ天才ダ!」
「ふふっ……ありがと~、お兄ちゃん♪」
私の目の前でバリバリと音を立てて魔石を食らう悪魔を眺めながら、彼の言葉に相槌を打つ。
確か『ブレイド』と言ったか。『あの方』が言うには元は人間だったらしいが、今のコイツを見てそれを信じる者は誰一人としていないだろう。
『あの方』によってあたしと引き合わせられた時のブレイドは、身に着けていた装備が皮膚と融合し、全身を黒い鉄板に覆われた鬼のような外見だった。
当時から元・人間とは思えない風貌ではあったが、その姿はたったの数日で一層禍々しく、凶暴なものとなっていた。
金属光沢を放つ黒い皮膚は装備と完全に融合し、異様に発達した筋肉を包み込んでいる。
その表面には体内に充満する魔力によって無数のヒビのような線が走っており、魔石と同じ色の輝きを放っている。いや、実際にこの線には魔力が流れているのだ。
彼が魔石を咀嚼し飲み込む度に、この線の表面を魔石の魔力が流れてはその色をより濃くしているのが分かる。
彼が職場の先輩だと思っている悪魔の精鋭に毎日扱かれている理由は、『強くなりたい』と言う感情を育み、維持する為だ。
魔石の捕食による変質は人間が魔物を倒して行う変質よりも圧倒的に大きく、尚且つ直接的な変化を齎す……種族の境界線など、容易に跳び越えてしまう程に。
(──あぁ……今の自分の姿をコイツが認識したら、きっと最高の絶望顔を見せてくれるんだろうなぁ……♪)
今のブレイドはあたしの術式に完全に囚われており、自分の状態も分かっていない。
あたしの事をそもそも存在しない筈の妹だと思い込み、手料理と信じて魔石を食らっている。そしてその度に人間からかけ離れているのに、あたしにお礼を言ってくれる。
──これ程楽しい見世物があるだろうか。
(あ~、毎日が楽で良いなぁ♪ これあたしの天職だよ! 前の職場の椅子はきんきらきんで良かったけど、やっぱ一日中だらけていられる今が最高!)
『あの方』からこの仕事を任せられてからというもの、あたしの毎日はとても楽しく充実した物に変わった。
だからあたしはコイツ──ブレイドがとても好きだ。
仮初の妹として振舞うのも苦に感じない程度には。
「ねぇ、お兄ちゃん。食べ終わったらあたしのマッサージして欲しいな♪」
「アァ、解ッタヨ。美味シイ手料理ノ、オ礼ダ」
次々に魔石を捕食している悪魔の背後に回り、頭を優しく抱きながらおねだりすれば大抵の言う事は聞いてくれるしね〜。
やっぱり言語のコミュニケーションが出来ると融通が利くのが良いな。前の職場の椅子共は簡単な命令しか理解できなかったし。
(あ、前の職場って言えば……あたしの後にあそこに配属されたアイツらはちょっと心配だな。そりゃああたしより単純な戦闘能力は高いけど、アイツらは性格に問題があるからなぁ……)
前半の『』内は『悪魔によって歪められた認知』の表現です。その為繰り返し同じ言葉を使っていますが、誤字やミスではないので指摘は必要ないです。




