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第109話 大型コラボ配信⑭

(居た……!)

「──【エンチャント・サンダー】」


 上空から要塞の様子を確認しながら進んでいると、コマンダーが再び広場へ向かおうと周囲のゴブリンを押しのけて駆ける姿が目に入った。

 当然ながらそれを許す訳にいかない私はローレルレイピアに雷を纏わせ、上空から奇襲を仕掛けた。


「ハッ!」


 短く吐いた息と共に突き出したローレルレイピアの、雷を纏う切っ先。しかし、それが捉えたのはゴブリンコマンダーではなく……


(狼牙棒!? 防がれ……ッ!)

「くぅッ……!?」


 『カッ!』と乾いた音と共に感じた手応えは、私の攻撃から身を守る為に構えた狼牙棒の物。

 それに私が気付いた次の瞬間、思いっきりスイングされた事で私の身体は要塞の外へと投げ出された。だが──


「甘いですよ!」


 空中を蹴って起こした突風により、数回の方向転換を経て私は要塞へと舞い戻る。


「ギァババババ……!」

「グェブブブブッ!?」


 そして着地ついでに周囲のゴブリンを薙ぎ払ってスペースを作ると、今度こそゴブリンコマンダーと正面から対峙した。


「ッ……!?」


 私を倒さなければ広場へと向かえないと理解したコマンダーの脚が止まり、担いでいた狼牙棒が下段に構えられた。

 腕と狼牙棒の大きさ等からリーチではあちら側に分があり、先ほどのスイングの速度も考えると、無策に突っ込むのは危険だ。

 私がそう判断するその一方で、コマンダーの方も私のレイピアを警戒しているようだ。

 まあ、見るからに『触れたら感電しますよ』ってアピールしてるからな。この武器。

 とにかく、互いに互いを警戒する事で生まれたこの膠着状態。……当然ながら、長くは続かない。何せ、コマンダーには今の私と違い……


「ゲゲゲ……ギッギャァー!」

「ちっ……!」


 ゴブリンに限らず魔物の軍勢を相手にする上で当然のことだが、こうして囲まれればどこから攻撃が来るか分かった物じゃない。

 これは正々堂々とした決闘ではないのだ。

 そう主張するような雄叫びと共に、私の背後から一体のゴブリンが飛び掛かって来た。

 碌に気配を消す事もせずに向かって来たゴブリンを半歩左にずれる事で躱した私は、そのままローレルレイピアを一閃させて返り討ちにするが──


「オオオォーーッ!!」

「そりゃ、そう来ますよねぇ……!」


 ローレルレイピアの切先が自分から外された一瞬、その僅かな隙を突くコマンダーの動きは速かった。

 身を低くして高速の突進。同時に『ガガッ、ガガッ!』と木製の足場を擦りながら、左下から救い上げるように振るわれる狼牙棒。


「ふん……ッ!」


 しかし、そう来るだろうと思っていた分、私の対処の方が早かった。

 軽く跳躍し、振るわれた狼牙棒の平な面に対して垂直に蹴りを入れる事で突風を起こし、狼牙棒の勢いをも利用して更に高く跳躍。ダメージを軽減させるとともに、コマンダーの頭上へと舞い上がる。


「──【ストレージ】、【エンチャント・サンダー】!」


 そして上下逆さまの姿勢で腕輪から取り出した投げナイフに雷を纏わせ、素早く投擲。直後に姿勢を制御。空気を蹴る事で急降下、コマンダーへと三度(みたび)攻撃を仕掛ける。

 ゴブリンコマンダーは狼牙棒を振るう事で投げナイフを弾き、そのついでに私の迎撃も狙ってくるが……その動きは予測済みだ。

 私はまたも空中を蹴り軌道を僅かに変え、コマンダーの脇をスライディングのような体勢ですり抜ける。

 直ぐにコマンダーの方へ振り返れば、奴は今狼牙棒を振るった直後で重心が偏っており、バランスを崩さないように踏ん張っている状態──要するに、急な回避が行えない体勢になっていた。


「──【ブリッツスラスト】!」

「ヴォオ゛オ゛オ゛ォ゛ッ!!」


 【ブリッツスラスト】のアシストを受けた高速の踏み込み……そこから放たれる刺突の一撃が、狙い通りにゴブリンコマンダーの背中を捉えた。

 全身に電流が走り、小刻みに痙攣するゴブリンコマンダー。当然、ここで追撃の手を緩めるつもりはない。


(行ける! 一気に止めまで……)

「──【ラッシュピアッ……っ!」


 その瞬間。背後で殺気が膨らむのを感じた私は、反射的にサイドステップで()()を躱す。


「グギギ……ギャァオアァァッ!!!」

「ゴブリンチーフでしたか……」


 先程まで私の居た地面へと棘付きの棍棒を叩きつけたゴブリンチーフは、こちらを憎々しげに睨むと咆哮を上げる。

 その声に感化されたのか、周囲のゴブリン達が一斉に殺気立ち、同時に襲って来た。


「ちぃ……ッ! ──【エンチャント・ゲイル】!」

「ギェアッ!?」

「ゥゲェ!」


 これほどの数に包囲された状態で雷を付与したレイピアを扱えば、巡り巡って自分にも電流が伝わりかねない。

 仕方なく属性を風に切り替えたレイピアで飛び掛かって来るゴブリンを切りつけると、剣先が生み出した風の刃が更に広範囲のゴブリン達を薙ぎ払う。

 これにより圧倒的な数的不利を、多少は誤魔化す事が出来るものの……


(──流石に、数が多すぎる!)


 正面のゴブリン達を薙ぎ払う間に、背後からもゴブリン達は襲ってくる。

 素早く振り返って同様に対処しても、まだまだゴブリンは左右にもいる。状況は常に四面楚歌だ。


「な、めるなぁッ!!」


 飛び掛かってくるゴブリンの攻撃を姿勢を低くして回避。更に低い姿勢から襲ってきていたゴブリンを斬り捨て、塵になっていくゴブリンを押しのけてこじ開けたスペースへ身体を滑り込ませる。

 突然現れた私の姿に一瞬動揺した周囲のゴブリン達を回転切りで一掃し、更にその奥のゴブリンへと踏み込み斬撃を放つ。

 動揺していた周囲のゴブリンが正気を取り戻し、再び私を包囲しようと輪を狭めるが……


「──【ラッシュピアッサー】!」


 作り出した一瞬を使い、スキルを発動。

 補正を受けて加速した連続突きで、周囲から波のように襲ってくるゴブリン達に拮抗する。

 これで少なくとも【ラッシュピアッサー】の効果が切れるまでの間は、周囲へ視線を向けるだけの余裕は出来たのだが……


(くそ……! コマンダーの位置を見失った……!)


 襲ってくるゴブリンの一体一体は小柄だが、仲間の身体を踏みつけ、跳躍し、私の視界を埋め尽くす壁の役割を果たしている。

 ギャアギャアと耳障りな声の所為でコマンダーの動きも分からず、心に僅かな焦燥が芽生えたその時、ゴブリン達の壁を掻き分けるように、ヌッと現れた狼牙棒の振り下ろしが私へと迫って来た。


(──そこか!)

「やあぁぁーーッ!!」


 コマンダーさえ倒してしまえばここに留まる必要も無い。多少の無茶をしてでもここは勝負に出るべきだ。

 そう判断した私は狭いスペースでギリギリ狼牙棒の振り下ろしを回避し、そちらの方向から押し寄せるゴブリン達を【ラッシュピアッサー】で一掃。その先に居るだろうゴブリンコマンダーへ、今度こそ必殺の一撃を──


「な……っ!? コイツは……」

「ゲッゲッゲ……ギァッ!!」

()()()()()()()!? コマンダーはどこに……!)


 狼牙棒を握っていたのはコマンダーではなく、その部下であろうゴブリンチーフだった。

 とりあえずこのチーフは始末したが、この状況は明らかに罠だ。直ぐに奴の次の動きに対応する為、周囲へと視線を巡らせたが……


(拳……!?)


 鋭い拳の突きが、またもゴブリンの群れを裂いて現れた。

 そしてゴブリンチーフを餌にまんまと罠にかけられてしまった私は……そのままアークミノタウロス以上の膂力で殴り飛ばされてしまった。


「う、ぐっ……!」

(──なんとかドレスアーマーの装甲で受けられたが……早く体勢を立て直さないと……ッ!)


 既にゴブリンコマンダーは、先ほどチーフに預けていた狼牙棒をその手に取り戻し、私に追撃をかけるべく迫ってきている。

 一方、私の方は──


「く……っ、離しなさい!」

「ギヒヒ……」


 数体のゴブリンに纏わりつかれ、動きを鈍らされている。

 先程殴り飛ばされた私を受け止めたゴブリン達が、そのまま私を拘束しようと両手両足を掴んでいるのだ。


(くそ、時間が無いってのに……!)

「ギエェッ!」


 手首のスナップのみで振るったレイピアが、右腕を掴むゴブリンの一体を切り裂く。

 僅かに拘束が緩んだ右手を力任せに振るい、そのまま右足首に纏わりつくゴブリンを始末……だが、この時点でもう、ゴブリンコマンダーはすぐ目の前に来ていた。

 側面からの攻撃では他ならぬゴブリン達がクッションになってしまう為、奴の次の攻撃は恐らく重量を活かした振り下ろしか、突進力を使った突きだ。それならば──


(右足が自由に動けば十分だ!)


 戦いが始まってからまだ数分しか経っていない。私の両足は今も、最初に付与した【エンチャント・ゲイル】の風を纏っている。


「グォッ!?」


 地面を蹴って生み出した暴風が、左腕左足を掴むゴブリンごと私の身体を左の方へと吹き飛ばす。

 残念な事に左足の方は地面を蹴れなかった為、私とゴブリン達の重量を空中へと持ち上げられるほどの力は出なかったが、それでも強引にコマンダーの突きを躱す事が出来た。さらに──


(今の勢いで拘束も解けた! これなら、今度こそ!)

「──【螺旋刺突】!」


 レイピアが纏う風が高速で回転し、螺旋を描く。

 視線の先には、突きを放ったばかりで体勢を戻せていないゴブリンコマンダーの巨体がある。

 一瞬奴の眼がこちらに向いた。『しまった』と焦るような色を滲ませたが……もう遅い。

 私の放った必殺の一撃は、まさに今、ゴブリンコマンダーの脇腹から心臓を貫いた。


「ガアアァァァーーーーッ!!」


 レイピア包む旋風が解放され、ゴブリンコマンダーの上半身の大半を内側から吹き飛ばす。

 断末魔の咆哮が響き渡り、その全身が塵に変わる。

 そして、その中からスイカよりやや大きい程度の大きさの魔石が転がり落ちた音が、この戦いの決着を告げた。


「──【ストレージ】、っと。……ふぅ、予定よりも時間をかけてしまいましたね。早速皆さんの元に帰りましょう……と、言いたいところですが……」

「グルルルル……!」

「カァァーー……ッ!!」


 魔石とついでに狼牙棒を回収していざ戻ろうかと周囲を見れば、先ほどよりも殺気立ったゴブリンの視線が突き刺さった。

 ……仇討ちと言う奴だろう。復讐に燃えるゴブリン達の眼からは、私を逃がさない為に何でもすると言う気迫が伝わって来た。


(上空へ逃げるのは簡単だけど……流石に皆の所に帰るまで、グリーヴにかけた【エンチャント・ゲイル】が持つのか微妙なんだよな……)


 空中で付与しなおすのでも良いかも知れないが、その隙に仲間のゴブリンを投げてきそうな気迫が今のゴブリン達からは感じるし……


「……仕方ありませんね。念の為、もう少しだけ削っておきましょうか」



 ──ガアアァァァーーーーッ!!


 ……風に乗って、同胞の断末魔が耳に届く。

 知らせに聞いていた『角持たぬ敵』はどうやら、我の予想を超えて厄介な相手だったようだ。

 自身の判断の結果が招いた現実に後悔の念が溢れる。

 やはり信頼する部下に任せるにしても、もう少し戦力を割くべきだったかと思ったが……そうすれば()()()()()()は更に熾烈を極めた事だろう。


()! 今の声は……!』

『騒ぐな、将軍。……わかっている』


 動揺する部下が訴えかけるような眼を向ける。言われるまでもなく、我とて同胞を討った『角持たぬ敵』を許すつもりはない……だが、()()()を放って帰る訳にもいかぬ。

 幾度目とも知れぬこの戦い……長い休戦期間に終わりを告げた今、我らは激動の時を迎えているのだ。


『仕方あるまい……我が出る。ここを直ぐに片付け、国へ戻るぞ』

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― 新着の感想 ―
 ゴブリン幹部かっけえな
魔族と張り合っている?ゴブリンが?。彼らが上に行かせないようにしているとでも。どういうことか楽しみです。
更新お疲れ様です。 いわゆる一般的なゴブリンのイメージ=有象無象の集団ではなく、完全に軍隊…しかも全員が十分に訓練を重ねた精兵の師団を相手取ってる感じですね。ぶっちゃけキツい…!! そして王も台詞だ…
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