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第103話 大型コラボ配信⑧

「ギャギャーーッ!!」


 樹上に造られた要塞の奥から響いたゴブリン特有の耳障りな金切声を合図に、私達へと向けられていた矢衾から一斉に矢が射出された。


「皆さん、私の後ろから動かないで下さいね!」

「大盾を持つ者は掲げろ! 咲さんの負担を減らすんだ!」


 周囲一帯に隙間なく降ってくる矢の雨を前に、私達は防戦を強いられる。

 百合原咲は【サテライト・ウォーター】で生み出した水球を操作する事で矢の勢いを殺し、また大盾を持つダイバー達はKatsu-首領-(カツドン)の指揮に従ってそれぞれ身を守る。

 いくら数が多いと言っても一つ一つの矢の威力は知れている事もあって、それほど大きな負担にはなっていないようだが……


「くそ……っ! いつになったら攻撃が止まるんだよ……!」


 ゴブリンの攻撃が止む気配が無いのが問題だ。

 風を纏わせたローレルレイピアで矢を払いながら観察していたが、どうやらゴブリンはかの有名な『三段撃ち』の要領で矢を射た者が背後に素早く退く事で攻撃を止めないようにしているようだ。

 恐らく後方には、次から次に矢を運んでいるゴブリンもいるのだろう。このまま防戦に徹していてもいつかは矢が無くなるだろうが、それが数分後か、それとも数時間後になるか……


(このままでは埒が明かないな……)


 今回の探索ではサポートに徹するつもりだったが、ここは流れを変える為にも私が一足先にあの要塞に飛び込んで、ゴブリンの連携を引っ掻き回すのが手っ取り早そうだ。


「──少し待って欲しい、ヴィオレットさん」

「Katsu-首領-さん?」


 靴に風を纏わせるべく、かかとに手をやったその時、その様子に気付いたKatsu-首領-が私の動きに待ったをかけた。


「実は今、慧火-Fly-(エビフライ)が動いてくれている。その成果が出るまでは、俺達に任せてくれないだろうか」


 なんと、話を聞けば既に気配を消した慧火-Fly-が、付近の樹から要塞への侵入を試みているのだと言う。

 彼らが今こうして防戦に徹しているのも、大盾を掲げてゴブリンからの視界を遮ったのも慧火-Fly-の動きに気付かせない為の陽動だったらしい。


(なるほど……確かに、言われてみれば慧火-Fly-の姿が無い。まさか私にここまで気取られないレベルでの自然な隠行が出来るとは……本当に彼のジョブはただの軽業師なのか……?)


 もしかして隠しジョブで忍者とかなんじゃないだろうな……

 地味に慧火-Fly-に対する疑念が深まってしまったが、そう言う事であれば私は当初の予定通りにサポートに徹しようじゃないか。

 私は了解の意味を込めて彼の言葉に首肯を返すと、再び矢をレイピアで叩き落とす対応を継続する。

 ただ……この量の矢の雨をローレルレイピア一本で捌けているのは、エンチャントの効果で纏っている風の影響が大きい。効果が切れる前に動きがあれば良いのだが……




 そして僅かな不安と期待を胸に、矢を払い続けて数十秒程が経過した頃……ゴブリンの動きに変化が起きた。


「──グギギギギ……ッ! ギョアァー! ゲギャッギャ!!」

「ギヒッ!? ギギィーッ!!」


 こちらからは死角になっていて見えないが、要塞の少し奥の方からそれまでとは様子の違う声が上がった。

 業を煮やしたゴブリンの癇癪とも思える声が響き……その直後──


「ギャアーーッ!?」

「なっ!?」


 要塞からゴブリンが飛び出してきた。

 高所から丁度私に向かって降って来たそれを瞬時に切り払い、再び要塞の方へと視線を向けると、他にも同様に要塞から飛び降りて来る個体が数体見える。いや、と言うよりもこれは……


「……どうやら、慧火-Fly-さんがやってくれたようですね」

「ああ。──皆! ゴブリンの統率が乱れた今が好機だ! 木を登ってもロープをかけても良い! とにかく要塞に攻め入るぞ!」

「「「おおおーーーーッ!!」」」


 飛び降りてきたゴブリンを切り裂いた時に極僅かに鼻腔を擽ったあの()()……私も何度か縁のある、例の香が要塞の奥で焚かれているのだろう。


(理性が飛ばされた上位個体のゴブリンが成果の出ない現状に焦れて、こちらに直接部下のゴブリンを投げ始めたってところか……)


 随分前に浅層でゴブリンチーフが率いるゴブリンの群れと戦ったが、確かにその時も私に向けてゴブリンを投げて来ていた。

 今相手している軍はチーフよりも上位の個体がリーダーになっていると思われるが、その上位個体の指示を聞くチーフの理性が吹っ飛んだ事で、独断で指示を飛ばし始めたのかもしれないな。


(──となると、最高指揮官は前線に来ていない可能性が高いか……この規模の要塞だ。中心部で動かずに指示を飛ばしていると想定すると、多分そこまでは香の影響は出ていないだろう……)

「依然として警戒は必要そうですが……──【エンチャント・ゲイル】!」


 とは言え、この好機を逃す手はない。

 風を付与した靴で地を蹴り、要塞を上空から見下ろす。


(樹冠に隠れている部分が多いから断定は出来ないが……大体の構造は分かったな)


 このゴブリンの要塞はどうやら、この森の全域に及ぶ巨大な物のようだ。

 森の中心に要塞の中心もあり、全方位に枝葉を伸ばす様に通路が伸びているのが解った。その形を一言で言い表すのなら、雪の結晶が近いかも知れない。


「つまり……ここはまだ、末端も末端って事か……!」


 構造の全体像を把握した勢いのままに要塞へと飛び乗り、雑魚ゴブリンを掃討しながら指揮全体を務めているKatsu-首領-へと合流。先程得た情報を共有する。


「はい。慧火-Fly-さんはどこまで侵入したんですか?」

「侵入後の動きはアイツに一任しているから、具体的には解らんが……どちらにせよ心配は不要だ。ヴィオレットさんが言う規模の要塞であるのなら、恐らくアイツも深入りはせずに俺達との合流の為に動くだろう。独断専行をしないとは言い切れないが、少なくとも引き際は間違えない男だ!」


 乱戦の中、互いに背中合わせに言葉を交わす。

 もしも慧火-Fly-が無茶して奥の方まで侵入を試みていた場合、中層ダイバーだとしても流石に危険だ。場合によっては私が救援に向かおうかと思い確認すると、Katsu-首領-が問題ないと断言する。

 迷いの無い言葉に彼らの信頼を垣間見た、その時……


「──そう言う事。……まぁ、ちょっと先までは見てきたけどもね」


 近くのゴブリンの首が刎ねられ、その背後からまさに話題に上がっていたダイバーが姿を現した。


「慧火-Fly-! どうやらこの要塞は……」

「ああ、解ってる。ちょっと思ったよりも厄介な相手になりそうだ……」


 既に戦闘もそこそこに、情報の交換を行い始めるKatsu-首領-と慧火-Fly-。

 二人が余裕をもって話し始めたのは、既にここでの戦闘の結果が見え始めていたからだ。

 ……いや、そもそもここにいるダイバーは皆、中層程度は余裕で歩ける実力がある者ばかり。ゴブリンの指揮が乱れ、こうして要塞への侵入を許した時点で結果は見えていたか……


「……! 白樹の枝で作った弓矢、か……」


 ふと足元に転がるそれに気付き、拾い上げる。

 人間の作る武器と比べてかなり簡単な構造のそれだが、少なくとも矢を射ると言う機能に関して問題が無い事は先程既に証明されていた。


(……何かに使えるかもしれないな)

「──【ストレージ】、っと」


 ゴブリンが使っていた物であるからやや小ぶりだが、エンチャントとの相性が良い弓矢だ。元々遠距離攻撃の手段が乏しい私にとって、良い拾い物になるかもしれない……矢は消耗品だし、拾えるだけ拾っておこうかな。


「──済まない、ヴィオレットさん。今、少し良いだろうか」

「? はい、大丈夫ですが……何か、ありましたか」


 地面にしゃがみ込み、ゴブリン達が持っていた矢をせっせと集めていた時、慧火-Fly-との情報交換を終えたKatsu-首領-が強張った顔で話しかけてきた。

 その表情からただ事ではない雰囲気を感じ取り、私も姿勢を正して彼の言葉を待つ。……そして、Katsu-首領-の口から一つの情報が齎された。


「……この軍のトップは、ゴブリン()()()である可能性が高い」

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― 新着の感想 ―
矢があるってことは生産職のゴブリンもいるのか、別の種族に作らせているのか……。要塞が雪の結晶に例えられる程度には整っていることも踏まえると、ゴブリンキングが任されている区画にぶち当たった可能性もあるの…
この大戦力、いったい何と戦ってるんですかねぇ。
更新お疲れ様です。 これだけ統率されてるんだから、やはりトップは最上級の存在であるキングでしたか…。つまり幹部クラス=複数の将軍級(ジェネラル)が居ても何らおかしくない…想定以上に強大な軍団ですね。…
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