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第94話 コラボ直前、顔合わせ

そう言えばコラボ相手の紹介をしていなかったなって思い出して、急遽紹介回です

「準備は出来ましたか? 兄さん」


 土曜日、大型コラボ当日。

 私が未だに緊張が抜けきらない様子の『俺』に最後の確認を取ると、彼はその場で一度深呼吸をしてからこちらを力強く見つめ返して答えた。


「ふぅ……よし、大丈夫だ……! 多分……」

「そこは言い切って欲しかったんですけど……」


 私も『俺』も既にそれぞれの探索用衣装──私は特注のドレスアーマーに、彼は市販品の中では最高ランクの耐久性を誇る魔製鉄の防具一式に身を包んでおり、後は心の準備を残すのみなのだ。


「ああ……一応、心は決まってるんだけどな。ちょっとまだ実力的な不安が……」

「それなら大丈夫ですよ。いざとなれば私が守りますからね」

「頼もしいな……そろそろ12時か。いい加減、行かないとな」

「ですね。もう皆さん、待っていると思いますし」


 私の探索配信の開始時刻は基本的に午後1時からだが、今回は大型コラボ。特に下層と言う危険度の高いエリアの探索と言う事で、事前に注意点のすり合わせやそれぞれの立ち回りに関する打ち合わせもある。

 簡易的な内容は事前にDMでそれぞれ伝えてはいるが、直接顔を合わせての話し合いは最低限必要だろうと言う事で、配信開始の1時間前に待ち合わせの場所に集まる事になっていた。


「さぁ、行きますよ?」

「ああ……!」


 時間もあまりないと言う事で急かす様に自分の腕輪に指を添えると、『俺』もそれに倣う。

 そして、声を揃えて腕輪の機能を使用した。


「「──【ムーブ・オン! ”マーク”】!」」


 全身が光に包まれ、次の瞬間には周囲の光景が一変する。

 腕輪の機能によって、渋谷ダンジョン中層から下層へ繋がる境界のある部屋に辿り着いた私達を迎えたのは大勢のダイバー達の視線だった。


「あっ、ヴィオレットさん! 今日はよろしくお願いします!」

「はい。よろしくお願いします、クリムさん」


 真っ先に挨拶をしてくれるクリムにこちらも挨拶を返すと、それにつられる様に他のコラボメンバーも次々に挨拶の言葉をかけてきた。


「先に言われてしまったが、今日はよろしく頼む。正直、下層に挑戦する機会を探っているところだったので、ありがたい申し出だった」

「いえいえ、『Katsu-首領-(カツドン)』さんにも前回助けて貰いましたからこれでおあいこと言う事で……今日はよろしくお願いします」


 Katsu-首領-(カツドン)はクラン『飯テロリスト』のリーダーも務める青年だ。

 長剣を片手で扱いながら盾と併用する堅実な戦いが得意で、ジョブは『俺』と同じ剣豪らしい。

 ユキとの戦いで駆けつけてくれた時に彼の実力は見せて貰ったが、混戦でも視野が広く比較的隙の少ない印象があった。


「ドンが粗方喋っちゃったし、俺は最低限で良いよな? 改めて、慧火-Fly-(エビフライ)だ。よろしく」

「はい。前回に引き続きよろしくお願いします」


 慧火-Fly-(エビフライ)もユキとの戦いで駆けつけてくれたダイバーの一人だ。

 性格としてはフランクな人物のようで、人懐っこい笑顔がトレードマークの小柄な男性ダイバーだ。

 武器は短剣の二刀流。ジョブは『軽業師(かるわざし)』で、素早く軽快な身の熟しと音を消しての奇襲が得意らしい。……それって暗殺者ではないのだろうか。


「どうも、今日はお世話になります!」

「えっ? あ……はい、よろしくお願いします……? ──あの、闇乃トバリさん、ですよね……?」


 確認するようなやり取りになってしまったのは、彼の話し方がイメージと……と言うか、前回共闘した時とはまるで変わっていたからだ。

 一応見た目や装備は記憶と一致しているのだが……


「え? はい……──あっ、この話し方ですか? 普段のはあの……若気の至りで始めたキャラ付けが、思いの外定着してしまって……」

「ああ、そういう……」

「まぁ、アレはアレでやってて結構楽しいから気に入ってるんですけどね。──再び交わりしこの運命に、深淵の加護を……みたいな」

「なるほど……?」


 どうやらオンとオフをしっかり分けているタイプのダイバーだったようだ。

 前回はなんやかんやであの後も配信を続けていたようだったからな……素を出す機会が無かったのだろう。

 因みにジョブは普通の軽戦士らしい。よく見たら黒い外套の内側で目立ちにくくしているが、ちゃんと合成素材の防具を身に付けている。

 キャラ付けを重視しているように見えて、その実結構堅実派なようだ。


「ラウンズの斧使い、高野恋ッス! 今日は強くなる為、胸を借りさせて貰いますッス!」

「は、はい。よろしくお願いします」


 大きな声で元気な挨拶をくれたのは、大きな斧を背負った若い……と言うか、幼さすら残る顔立ちの少女だ。

 パッと見ると今の私と同じくらいの体格だが、この見た目で鋼鉄製の大斧が振り回せるのか……なんて前世の私なら思っただろうが、異世界ではそれ程珍しくも無い光景だった為すっかり慣れてしまった。


「あっ、こう見えてリーダーと同い年ッスよあたし」

「ッ!?!?!?!?」

「へへっ、これ言うとみんなそう言う顔になるッス! ダンジョンに潜ってると年取らないって噂、ホントなんッスよね〜」


 いや、見た目よりも物腰と言うか、キャラ付けとのギャップの方に衝撃を受けたんだけど……


「こら、恋。あまり人を困らせないの」

「あでっ! 咲先輩、急に小突くのはヒドイッスよ〜!」


 高野恋の思わぬカミングアウトに私が呆然としていると、彼女を軽く注意しながらラウンズの実質サブリーダーでもある百合原咲がやって来た。


「前回は言いそびれてしまったけれど……改めて感謝を言わせてください、オーマ=ヴィオレットさん。あの日、アトちゃんを止めてくれてありがとうございました。それにラウンズが変わろうと言う今、こんな機会まで──」

「い、いえいえ! アトさんには私も助けられましたし、恩を返しただけで……! それに今回のコラボだって、最終的には私の目標に繋がる事なので……」


 妙にかしこまられると私としても寧ろやりにくい為、深々と頭を下げる百合原さんを宥める。

 何度か配信で言った気もするが、下層の探索に行くダイバーが増えればその分下層の情報が明らかになってくる。たった二年しかない猶予で下層の最奥部を見つけだす為には、他のダイバー達の手を借りる必要があるのだ。

 と、今回の件は巡り巡って私自身のメリットにもなると伝えると、彼女は安心したように微笑んで小さくほっと息を吐いた。


「そう言う事でしたら……わかりました。本日は他のラウンズ共々、お世話になりますね」


 その後も各自挨拶や自己紹介を済ませ、改めて前日に伝えておいた注意点をおさらいする事に。


「DMでもお伝えしましたが、今回探索の速度は重視しません。特に最初の内はそれぞれの実力や連携を把握する為、より慎重に動きます」


 ダイバーの中には、リスクある行動の方が撮れ高が多いと考えるタイプもいる。

 メンバー選出の際に一応それぞれそういう傾向がない事は把握済みだが、私自身にもそんなつもりが無い事を伝える意味でも改めて注意しておく。


「魔物との戦闘の機会も、出来る限り均等になるよう調整します。具体的には多すぎる魔物を私が間引いたり、ローテーションを組んだりですね」


 今回のコラボで最も大きな収穫として挙げられるのが下層の魔物との戦闘経験であり、それに比べれば魔石なんて取るに足らないものだと言って良い。

 アークミノタウロスと戦って勝ったと言う経験があればそれが次回以降アークミノタウロスと戦う際に活きるように、下層の魔物と戦った経験は他の方法では得られないし活かせないのだ。この辺がゲームで良く数値化される経験値との大きな違いだな。

 これについても理解している者が多く、異論は出てこない。異論が出るとすればまあ、次だろうな……


「次に──それぞれの勝率を高める為、臨時で編成を調整する事があるかも知れません。その際は見知ったクランメンバー以外の方と組む事もあるかと思います」

「むぅ……」


 これには流石に難しい表情をする者もいる。

 必要な事と理解しているが、それがどれ程難しいかも同時に理解している為だろう。

 実際、戦闘経験の少ない強敵相手に臨時の編成で挑むなんて、まともな判断ではない。しかし、個人勢が下層の魔物との戦闘経験を積む為には必要な事でもある。そこで──


「兄さんとの話し合いの結果、この場合臨時の編成には私も加わります。最低限ではありますが状況に応じてサポートを行いますので、色々と試す機会にしてください」


 と、異論が上がる前にこちらが改善案を出す。

 大抵の問題は私がフォローすると言う事で、彼等の表情からも少し険しさが抜けたのが分かった。

 ……まあ、まだ不安は残っていそうだが、こればかりは実際にやってみなければ安心できない事だからな。頑張って実績を見せていこう。

 そして最後、最大の注意点は勿論──


「そして、もしもチヨや他の悪魔が来た場合は当然私が対処します。その間皆さんは安全圏に避難し、他の魔物との戦闘もなるべく避けてください」


 この注意点に、誰もが息を飲む。

 特にユキと戦った面々は若干青褪めてすらいる程だ。……もしかしたら、目の当たりにした悪魔の軍勢を思い出してしまったのかも知れない。


「改めて説明します。単純な戦闘力で言えば、チヨはユキより強いです。ユキは触れれば忽ち凍りつく一撃必殺の魔法と腕輪で実現しているような転送が脅威でしたが、それらを同時に扱えない欠点と水魔法で封殺できる弱点がありました。チヨにはそれらの脅威が無い代わり、弱点も無いんです」


 特に厄介なのが凝縮した嵐をぶつけて来る風魔法だ。

 風は障害物を当然のように回り込んでくるし、何より規模が広過ぎる。

 螺旋刺突での相殺以外の対処法が無く、その際にも周囲の広範囲が荒れ狂う烈風により斬り刻まれるのだ。要するに近くに誰かが居た場合、この魔法から守る方法が無い。


「──これが私が把握しているチヨの能力です」

「そ、そんなにか……」


 何が厄介って『この魔法を使われる=ドローンカメラ君の死』である為、未だにこのヤバさが誰にも伝わっていない事なんだよな……


「後は下層で最も警戒するべき魔物がダンジョンホッパーである事だけは忘れないで下さいね」


 結局のところ、無差別に魔物を呼び寄せる奴が一番ヤバいのだ。チヨも呼ばれる可能性あるからな……


「注意点はこんなところでしょうかね……質問がなければ、各々配信の準備に入りましょう!」


 私の声掛けに、緊張していた面々もそれぞれの準備に取り掛かる。

 カメラの位置や画角の調整にこだわる者、配信前のルーティンらしき動作をする者など様々だ。


 ──コラボ開始まで、後20分。

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― 新着の感想 ―
「そして、もしもチヨや他の悪魔が来た場合は当然私が対処します。その間皆さんは安全圏に避難し、他の魔物との戦闘もなるべく避けてください」 チヨちゃん、ウッキウキで相手にしそうw そしてドローン君死亡…
闇乃トバリさん、陽キャだった……あれ?ソーマより陽キャじゃね?これ
今まで何機のドローン君がお亡くなりになったんだろう
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