素晴らしい料理―前篇
どうも、エムです。
今日の晩御飯は肉料理です。
私は根菜のスープに黒パンが夕食でした。
どういう事かと申しますと、目の前には腰蓑を巻いた二足歩行の豚さんがおります。しかも10豚ほどいるでしょうか。
酒を飲みながらメインディッシュの肉料理を今か今かと待っております。
そうです、私が肉料理なのです。
全てはオニール、奴の一言から始まったのです。
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「アンの奴、今何してるか知ってるか?」
知らんがな。
「へっへっへ」とゲスい声でオニールは笑うと、水浴びをしてるのだと言う。
成程、理解しました。これから覗こうと言うのですね。旅行では定番です。
これは危険な香りがします。バレて酷い目に合うパターンです。
「大丈夫、さっき下見してきたよ。いいポイントがあった。あそこならバレないよ」
なんと! ビューイ君もノリノリです。これはいけるのではなかろうか、俄然やる気が出てまいりました。
ビューイ君の先導の元、森の中、水汲みスポットたる小川の支流へ向かいます。
そこは野営地より一分、正に目と鼻の先です。これでは覗いて下さいと言わんばかりの状況ではありませんか。
そうです、彼女は誘っているのです。「御者お疲れさま、こんなお返ししか出来ないけど」と。
彼女なりのお礼なのです。受け取らないと失礼に当たります。
私はそう自分の心に言い聞かせ、物陰から出歯亀を行うのです。
腰まで伸ばしたブロンドの髪を左肩に流し、見えるうなじが艶めかしい。露わになる背中は絹のような白い肌で、腰の括れが豊満なヒップラインを強調させる。
彼女はタオルを水に浸し、首筋から胸元へと手を滑らせる。形の良いマシュマロがプルンと振動を起こす。
もっと見たい。私はいつの間にか前に居るオニールをグイグイ押していたのです。
構いません。いざとなったら盾になってもらいましょう。召喚士を守るのは戦士の勤めなのです。
アンの右手が止まりました。そして左手が何かを手繰り寄せようとしています。
何でしょう、石鹸でも探しているのでしょうか。違いました。彼女が掴んだのは杖です。
「不味い、気付かれた」
そのささやき声はビューイです。
周りを見るも既に、ビューイの姿は影も形もありません。見えるのはオニールのアホ面だけです。
「シースネーク召喚」
同時にオニールを突き飛ばします。そして指差す。「魔物だ」と。
コッソリと離れた位置に呼び出されたシースネークは、私の指示通り川へ向かって逃げようとします。
もしかしたらオニールを襲うかな? なんて思いは杞憂に終わり、私の指示を健気にこなしてくれています。
「ギュイー」
シースネークの鳴き声です。
何処からともなく飛んできたナイフが体に突き刺さったのです。
私の可愛いヘビちゃんに何で事を! ビューイ許すまじ。
私は逃げました。尊い犠牲は無駄にはしない。
そして祈ります。
「シースネークよ出来れば生きていてくれ。見っともなくてもいい、生きてさえいてくれたら」と。
この辺りでいいでしょう。離れ過ぎて迷子になるのは御免です。
念のため樽を召喚、中に隠れます。
この時の私はどうかしていたのでしょう、森の中にポツンとある樽、不自然な訳がありません。
突如樽を覗き込む顔、それはかなりの豚顔でした。オークです。
オークは「ブハー」と息を吹きかけます。オークの息には相手を昏倒させる睡眠効果があると申します。
あっという間に眠りに落ちた私は、食材として樽ごと運ばれるのでした。




