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2.関係が近いからこそ。

紙コミックス1巻、1月27日発売です!

応援よろしくです!!










 ――店仕舞いをした後、街の酒場にて。

 ボクはジャックさんと共に、そこに足を踏み入れた。

 冒険者が多く集うこの場所にやってきたのは、それこそあの日以来だろうか。中の空気そのものに酒が香るこの場所なら、おおよそアーシャの目は届かないだろうと思った。



「それで? あの嬢ちゃんの目が届かない場所で、ってどうしたんだ」

「あー、それなんですけど……」



 そんな感じで、念のため周囲を確認しつつ。

 ボクは意を決してジャックさんに、悩みを素直に打ち明けた。




「……えっと、実は――」




 ――どうして、自分はアーシャに感謝を伝えられないのか。

 何度でもいうが、彼女にはとても世話になっていた。そのことを『ありがたい』と、当然思っている。そして、その気持ちを言葉にして伝えなければならない、とも。

 そう考えているのに、どうしてボクは感謝を口にできないのだろうか。



「感謝を伝えたいんです。それなのに、どうしても……」

「………………」



 一通り話し終えると、ジャックさんは少しだけ黙った。

 そしてすぐに、




「あっはっは! なんだ、そんなことか!!」

「へ……!?」




 大きな声でそう笑いながら、そう言うのだ。

 ボクが呆けていると、彼はエールを一口だけ飲んで続けた。




「それはな、関係が近すぎるからだよ」

「関係が、近すぎるから……?」

「あぁ、そうだ」




 少しだけ意地悪く笑みを浮かべる彼に、ボクは首を傾げる。

 すると、ジャックさんは頷いてこう口にするのだった。



「人ってのはあまりに関係が近すぎると、当たり前のことを伝えるのを忘れるんだよ。そんでもって、改めて伝えようとすると気恥ずかしくなるもんだからな」――と。




 彼は言ってまた、一口エールを煽る。

 ボクはそんな言葉を受けて、しかし疑問を抱いて首を傾げた。そう言うのならば、ジャックさん本人はどうなのだろう、と思う。

 ここは少し無粋だけど、聞いておいた方が良いかもしれない。



「それって、ジャックさんも同じなんですか……?」

「……ん。あぁ、当然だよ」



 そう思って遠慮がちに訊ねると、しかし彼はなんてことないように答えた。



「オイラだって、ようやくリコに気持ちを伝えられたけどさ。あの一件がなければ、きっと今でも伝えられず終いだっただろうし」



 ――きっと、先延ばしにしていただろう。


 ジャックさんはそう語った。

 それを聞いてボクは、そんなものなのか、と思う。

 しかしボクにとってのアーシャは、どういう相手なのだろうか。ジャックさんにとってのリコさんは、想いを寄せる相手だろう。

 だけど、アーシャはボクにとっての……?




「…………あー、ここから先は野暮だな」

「え……?」




 などと考えていると、ジャックさんはそう言うのだった。

 分からない。そう思って意味を訊ねようと、おもむろに立ち上がった。



 その時だ。






「ここにいたのですね、ライル!!」

「はへ……!? アーシャ!?」






 酒場の中に、似つかわしくない少女の姿が見えたのは。

 アーシャはボクを認めると、周囲の視線など気にも留めずに詰め寄ってきた。何が理由かは分からないが、とにもかくにも怒っているようにも見える。

 いったい、どういう状況だろうか。

 ボクが混乱していると、少女は不満を隠そうともせずに言うのだった。






「私を差し置いて、ジャックさんに相談とはどういうことですか!?」――と。






 彼女はその言葉を皮切りに、矢継ぎ早に文句を口にした。

 いや、どうしてバレたのだろうか。



「えっと、あのさ……!?」

「逃がしませんからね! ライルが私を信用しないのなら、させるまでです!!」

「えぇぇぇぇぇ!?」




 しかし、それを訊く暇なく。

 ボクはしばし、アーシャに拘束されるのだった。









「リコが、嬢ちゃんに言ったのか?」

「えぇ……まさか、こんなことになるとは思わなかったけど」

「あっはっは! ライルも、災難だな!」

「ふふふっ!」




 一方、アーシャに詰め寄られるライルを見ながら。

 ジャックとリコは、どこか微笑ましく思うのだった。




 


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