2.関係が近いからこそ。
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――店仕舞いをした後、街の酒場にて。
ボクはジャックさんと共に、そこに足を踏み入れた。
冒険者が多く集うこの場所にやってきたのは、それこそあの日以来だろうか。中の空気そのものに酒が香るこの場所なら、おおよそアーシャの目は届かないだろうと思った。
「それで? あの嬢ちゃんの目が届かない場所で、ってどうしたんだ」
「あー、それなんですけど……」
そんな感じで、念のため周囲を確認しつつ。
ボクは意を決してジャックさんに、悩みを素直に打ち明けた。
「……えっと、実は――」
――どうして、自分はアーシャに感謝を伝えられないのか。
何度でもいうが、彼女にはとても世話になっていた。そのことを『ありがたい』と、当然思っている。そして、その気持ちを言葉にして伝えなければならない、とも。
そう考えているのに、どうしてボクは感謝を口にできないのだろうか。
「感謝を伝えたいんです。それなのに、どうしても……」
「………………」
一通り話し終えると、ジャックさんは少しだけ黙った。
そしてすぐに、
「あっはっは! なんだ、そんなことか!!」
「へ……!?」
大きな声でそう笑いながら、そう言うのだ。
ボクが呆けていると、彼はエールを一口だけ飲んで続けた。
「それはな、関係が近すぎるからだよ」
「関係が、近すぎるから……?」
「あぁ、そうだ」
少しだけ意地悪く笑みを浮かべる彼に、ボクは首を傾げる。
すると、ジャックさんは頷いてこう口にするのだった。
「人ってのはあまりに関係が近すぎると、当たり前のことを伝えるのを忘れるんだよ。そんでもって、改めて伝えようとすると気恥ずかしくなるもんだからな」――と。
彼は言ってまた、一口エールを煽る。
ボクはそんな言葉を受けて、しかし疑問を抱いて首を傾げた。そう言うのならば、ジャックさん本人はどうなのだろう、と思う。
ここは少し無粋だけど、聞いておいた方が良いかもしれない。
「それって、ジャックさんも同じなんですか……?」
「……ん。あぁ、当然だよ」
そう思って遠慮がちに訊ねると、しかし彼はなんてことないように答えた。
「オイラだって、ようやくリコに気持ちを伝えられたけどさ。あの一件がなければ、きっと今でも伝えられず終いだっただろうし」
――きっと、先延ばしにしていただろう。
ジャックさんはそう語った。
それを聞いてボクは、そんなものなのか、と思う。
しかしボクにとってのアーシャは、どういう相手なのだろうか。ジャックさんにとってのリコさんは、想いを寄せる相手だろう。
だけど、アーシャはボクにとっての……?
「…………あー、ここから先は野暮だな」
「え……?」
などと考えていると、ジャックさんはそう言うのだった。
分からない。そう思って意味を訊ねようと、おもむろに立ち上がった。
その時だ。
「ここにいたのですね、ライル!!」
「はへ……!? アーシャ!?」
酒場の中に、似つかわしくない少女の姿が見えたのは。
アーシャはボクを認めると、周囲の視線など気にも留めずに詰め寄ってきた。何が理由かは分からないが、とにもかくにも怒っているようにも見える。
いったい、どういう状況だろうか。
ボクが混乱していると、少女は不満を隠そうともせずに言うのだった。
「私を差し置いて、ジャックさんに相談とはどういうことですか!?」――と。
彼女はその言葉を皮切りに、矢継ぎ早に文句を口にした。
いや、どうしてバレたのだろうか。
「えっと、あのさ……!?」
「逃がしませんからね! ライルが私を信用しないのなら、させるまでです!!」
「えぇぇぇぇぇ!?」
しかし、それを訊く暇なく。
ボクはしばし、アーシャに拘束されるのだった。
◆
「リコが、嬢ちゃんに言ったのか?」
「えぇ……まさか、こんなことになるとは思わなかったけど」
「あっはっは! ライルも、災難だな!」
「ふふふっ!」
一方、アーシャに詰め寄られるライルを見ながら。
ジャックとリコは、どこか微笑ましく思うのだった。
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