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19.ありがとう、の言葉。

言葉にするのは、大切。


※あとがきに、新作情報。

甘々を目指すラブコメです(*‘ω‘ *)応援お願いします!









「ふぅ……これで、全部かな」




 あの一件からしばらくして。

 命からがら生き延びたボクは、予定より少し遅れながらもお墓全ての修繕を終えた。あの日以来、霊たちが騒ぎ出したという話は聞かない。というよりも、自分はしばらく寝込んでいたので、どのように解決したのかは詳しくは知らなかった。

 それでもたしかだったのは、彼女の雰囲気がどこか柔らかくなったことだ。



「終わったの? ライル」

「あ、リコさん。……はい。これでみんな安らかに眠れるかな、って」

「そう。それは良かった」



 修繕を終えたボクに声をかけてきたのは、墓守の娘――リコさん。

 彼女はあの日から冒険者稼業の傍ら、家業の手伝いもしているそうだった。両親との問題についてはまだ完全に解決したわけではないそうだが、一歩前進。今まで曖昧にしてきたことを話し合って、互いの想いをぶつけたらしい。

 打って変わって晴れやかな表情になったリコさんは、こちらに飲み物を差し出しながらこう言った。




「あの日、ようやく兄さんに感謝を伝えられたの」――と。




 ボクは受け取ったそれを飲んでから、リュードさんの眠る墓を見る。

 リコさんも同じようにして、こう続けるのだ。




「私がずっと後悔していたのは、大好きな兄さんに『ありがとう』を伝えられなかったこと。もちろん『ごめんなさい』の気持ちもあったけど、少しでも感謝を伝えていれば、最悪の事態は避けられたかもしれなかったから」

「リコさん……」




 ゆっくりと彼の墓に歩み寄り、その名が刻まれている場所に優しく触れるリコさん。そんな彼女を見ながらボクは、どこか複雑な気持ちを抱いてしまった。

 だけど、それを思い悩むより先に。

 リコさんは花のような笑みを浮かべて、こう口にするのだった。




「だからライルにも、ありがとう」

「え……?」

「ライルが兄さんの声を届けてくれなかったら、きっと何も変わらないままだったから」

「そんな……ボクは、結局なにも……」

「いいえ、私だけじゃない。ライルはきっと、色々な人に感謝されていると思う」

「……そう、ですか?」




 思わず訊き返すと、彼女は頷いて言う。




「修繕師って仕事は、とても素敵だと思う。色々な人の大切な品を元通りにして、時にはそれ以上のことをする。でもきっと、みんながライルを頼りにする理由は――」




 そして、こう続けたのだ。







「どんな思いにも、真摯に向き合っているからだと思う」――と。







 だから、みんなは自分に依頼をしてくれるのだ、と。

 ボクはそれを聞いて、どこか胸が空くような思いがあった。何故ならそれは、自分が今までずっと目標にしてきた修繕師としての在り方、だったから。決して独り善がりな思いではないと、いまこうやって認められたから。

 思わずボクは感慨に耽って黙り込んでしまった。

 しかし、こういう時こそ『あの言葉』が必要なのだろうと気付く。だから、





「……はい! ありがとうございます!!」





 ボクはその言葉を向けてくれたリコさんに、そう伝えたのだった。





 






「ねぇ、アーシャ。少しいいかな」

「……え? 藪から棒に、どうしたのですか?」





 店に戻ってすぐのこと。

 ボクは日頃の感謝を伝えようと、残暑に溶けている公爵家令嬢に声をかけた。こちらの呼びかけにアーシャはしばしの間を置いてゆっくりと、テーブルに突っ伏していた顔を持ち上げる。愛らしく小首を傾げる彼女は、ボクの答えを待っていた。

 だから、こちらもさっそく感謝を伝えようとした。

 だが、しかし――。





「………………あの、えっと……」





 ――どうして、だろうか。

 アーシャに『感謝を伝えるだけ』そう思っていたのに。

 ボクの口からは水分が失われ、心臓が早鐘のように脈打っていた。これはもしかして、緊張しているのだろうか。だとすれば、どうして今さら……?




「あの、ライル……?」

「え!? あ、えっと……その……」




 そう考えていると、不審に思ったらしい。

 アーシャはいつの間にやら、ボクの目の前までやってきていた。こちらの顔の覗き込んできて、下手をすれば鼻先がぶつかってしまいそうである。

 その距離感に身体が勝手に反応し、ボクはついつい後退った。

 すると、少女はさらに不思議そうに、こう迫ってくる。




「どうしたのですか。もしかして、何か後ろめたいことでも……?」

「そ、そんなんじゃないよ!? た、ただ――」

「だったら、どうして逃げるのですか!」




 ――結果、どういうわけか追いかけっこ状態になってしまうのだった。




 感謝を伝えるのは、本当に難しい。

 ボクはその日の夜に一人、そう思うのだった……。




 


https://book1.adouzi.eu.org/n7876hz/

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