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14.彼女が失った希望。

少女は誰にも頼れずに、生きてきた。



※電子コミックス2巻、12月23日配信開始です!

紙コミックス1巻は1月27日発売!!


詳しくはグラストさん公式ホームページより!!









 ――少女にとって、兄の存在は希望だった。

 誰にも頼ることができない。振り払おうにも幼い子供にとって、家の問題はあまりにも重かった。その中において、リュードは間違いなく希望だったのだ。

 リコは自身の無力さを痛感しながらも、兄の庇護下に身を隠す。

 それが彼の負担になっていることは知っていた。分かっていたはずだった。



『お兄、ちゃん……?』



 それでも、その結末は残酷すぎる。

 自ら命を絶った希望を目の当たりにした少女は、ただ立ち尽くした。彼の残した遺書を読み、足元が崩れ去るかのような絶望に苛まれる。

 昨日まで、ずっと笑顔だったリュードの顔を思い浮かべて。

 その表情の裏にあって、自分が見て見ぬ振りをした悲しみは計り知れない。



 どうして、こんなことになったのだろう。

 原因はいったい、どこにあったのだろう。



 そう考えているうちに、リコは一つの結論に至ったのだ。


 そうだった。

 自分もきっと『彼らと同じだったのだ』――と。







「…………あぁ……」




 ベッドの上に身を横たえているうちに、眠ってしまったらしい。

 リコは頬に伝った涙を拭いながら、ゆっくりと身を起こした。今まで幾度となく夢に見てきた光景だが、いつまで経っても慣れることはない。最愛の兄の最期は、あまりにも孤独で悲しかった。誰にも理解されず、守られることもなかったのだから。



「私は、どうすればいいの……?」



 そこまで考えると、思い出されるのはライルの必死な訴えだった。

 あの青年が悪意をもって行動するとは思えない。そして同時に、嘘をついているようにも見えなかった。つまり彼が耳にした声の正体とは、間違いないのだろう。

 それでも、だからこそリコは動けなかった。






「そんなの、だって……!」






 まるで、あの日と同じように。

 少女となった彼女は、膝を抱えて震え始めた。

 理由は一つ。リコは兄に向き合う『勇気』が持てなかったのだ。





「お兄ちゃんは、私のこと絶対に……!!」





 ――大好きな兄は、きっと自分を恨んでいる。

 それを誰かに確認したことはない。できるはずがなかった。

 しかしあの遺書を目の当たりにした瞬間のことは、鮮明に思い出せる。そして、そこに連なった一字一句が答えのような気がしたのだ。

 自分は間違いなくリュードにとって憎悪の対象だったのだ、と。





 考えるだけで、気分が落ち込み涙が込み上げる。

 誰にともなく救いを求めたくなる。

 それこそ、あの頃のように。






「う、うぅ……!」






 そうやって、自分は今までずっと逃げてきた。

 兄を亡くした事実、そしてその一端となった『死霊術師』という職業から。冒険者として命を懸けていたのは、もしかしたら贖罪であり、逃避だったのかもしれない。


 こうやって戦っていれば。

 危険に身を置いていればいつか、兄のもとに行けるような気がしたから。




「……でも、駄目だったんだよ。私には、その勇気がない」




 だが幸か不幸か、そんな彼女の隣にいたのは心強い仲間。

 ジャックを始めとして、リンドのパーティーに加わってからは、よりいっそうに悲しい願いが遠退いていった。そして彼らと馬鹿な話をしている時間は自分から、彼と向き合う勇気、あるいは責任を一時的とはいえ忘れさせてくれたのだ。


 とりわけ、ジャックはこんな自分のことを気遣ってくれた。

 初めて会った頃から、無邪気な笑顔で自分を引っ張ってくれたのだ。




「あぁ、でも私はまたそうやって――」




 ――誰かを、頼るのか。

 そうやってまた、誰かに『負担』を押し付けるのか。

 そう考えてリコは静かに息を呑み、しばしの沈黙に身を委ねた。そして、



「ううん。いまは、もう少し休もう……」





 そう、考えた瞬間だ。





「……リコ。いま、いいか?」

「え……?」





 部屋の扉の外側から、彼の声が聞こえたのは……。





 


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