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11.踏み入るべき、だったのか。









 リコさんの家は、王都の中心を少しだけ外れた場所にある。

 ボクはそこへ向かって真っすぐに走り、そして――。



「ライル……?」

「す、すみません。急に押しかけてしまって……」

「……いえ、別に気にしなくて良いけど」




 急ぎドアをノックすると、これから眠りに就こうとしていたのだろう。リコさんは寝巻姿で、ボクのことを迎え入れた。しかし悠長に語っている暇はない。

 部屋の中心にある椅子に座るように促され、腰掛けると同時にボクは事情を話した。

 最初は首を傾げていたリコさんだが、途中から複雑な表情になる。

 そして、ホットミルクを口にしてから言った。



「アタシに、戻ってきてほしい……?」

「はい、そうです。藪から棒で失礼なのは、重々承知の上で!」

「………………」



 そこで一気に、部屋の空気が重くなったように思う。

 彼女の周囲で起きた一連の出来事はもちろん、簡単に拭い去ることはできない。だとしても、このままでは何が起きるか分からなかった。

 だから、ボクは必死に説得を試みようとする。

 しかしそんなこちらに、彼女は微かに声を震わせながら語ったのだ。




「……ライルは、兄さんの声を聞いたんだよね?」

「え、は……はい!」




 酷く心痛な面持ちで。





「あの兄さんが、そんなことを言うはずがない」――と。











 ボクは街の中心にある広場で、どこか空虚な思いで空を見上げていた。

 それというのも、リコさんの語った話を思い出していたから。彼女はボクがすべてを知っているということを察し、重い口を開いてくれた。だけど、



「…………遺書の内容、か」



 あえて無感情に、淡々と語られた内容は凄惨なもの。

 ボクの想像の遥か上をいくような、耳にするだけで辛い話だった。




 ――あの日、リュードさんの遺体を最初に発見したのはリコさんだった。

 首を吊り冷たくなった彼を前に尻餅をついた少女の足元には、彼の血で書かれた『呪い』があったという。それは比喩でも、なんでもない。

 生まれてから死ぬまで起きたこと。

 死霊術師という一族に生まれ、後悔や憎しみに堪えなかったこと。

 そして何より、リコさんの心を凍り付かせたのは、彼女に宛てられた言葉。





『どうして自分が、リコの代わりにならなければならないのか。妹さえいなければ、自分はもっと自由に生きられたはずなのに。どうして、自分は誰にも助けてもらえないのだろうか』――と。





 それは、いつも笑顔で彼女を守っていたリュードさんの抱えていた闇。

 もしくは本音、ともいえるのだろうか。



「そんなのって、あんまりだよな……」



 まだ少女だったリコさんは、血で書かれたそれを見てしまった。

 きっと、彼女の心の傷は相当に深いだろう。それこそ、ボクみたいな部外者が簡単に口を挟んではいけないような。あるいは、声をかけられる人なんていないのかもしれない。


 そう、思わざるを得なかった。

 だから気持ちが沈む。




「今回は、踏み込み過ぎたのかな……?」




 そして、そんな後悔が口を突いて出る。

 そんな時だった。





「なにやってんだ、ライル。こんなところで?」

「え……ジャック、さん……?」






 なにやら、買い出しでもしていたのだろうか。

 大荷物を抱えたリンドさんの仲間の一人――戦士のジャックさんが姿を現わしたのは。




 


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