5.最も悲しいこと。
明日、更新できるか微妙なので今日のうちに……。
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――リコさんの意外な生い立ちが分かってから、数日が経過した。
ボクはほぼ住み込みの状態で、エルタ王国墓地にある墓の様子を確認している。そうして気付いたのは、手入れの行き届いているものもあれば、朽ちかけているものもある、ということ。後者は何も、冒険者の墓に限ったものではない。
「古い慣習だから、仕方ないのかな……」
『夏季に墓参りをする』というのは、あくまで風習であり絶対ではない。
若い世代の中には、そういったものを面倒くさがる人もいる、ということかもしれない。もっとも話に聞いていた通り、ボロボロになっている墓のほとんどが冒険者のそれだった。誰の記憶に残ることもなく、静かに死した人々の亡骸が眠る場所。
「…………」
そう思うと、ボクは自然と両手を合わせていた。
かつては自分も冒険者の端くれで、他人事には思えないのだ。
「あぁ、ライルさんありがとうございます……」
「タイクさん。いえ、少しだけ寂しい気持ちになってしまって」
「それで構わないのです。死者にとって最も悲しいのは、忘れられること、ですから」
「忘れられること、ですか……?」
「えぇ、そうです」
ボクに声をかけてきた墓守のタイクさんは、優しく墓石に触れながら語る。
「様々な事情があるとはいえ、誰の記憶にも残らず世を去るのは悲しいことです。その反対に誰かの記憶にさえ残っていれば、死者はその方の心の中で生き続ける」
「……それは思い出、ということですか?」
「えぇ、そうです。思い出は、その方が生きた証そのものです」
ボクの言葉に、老爺は静かに頷いた。
「私どもが貴方に依頼をした理由、お察しいただけると思います。ライルさんのお店の名前を知った時、とにかく強い感銘を受けましたから」
「そんな、ボクはまだ未熟者で……」
謙遜すると、タイクさんは静かに首を左右に振る。
そしてボクの手を取り、微笑むのだ。
「……いいえ。この手を見れば、分かります。貴方は多くの思い出を紡いできたのですね」
「……………………」
それに対して、こちらは押し黙るしかできない。
未熟者だと思っているのは、本心だ。ボクはまだまだ、祖父には及ばない。
「さて、お仕事の邪魔をしたかもしれません。申し訳ございません」
「あ、いえ……そんなことはないです」
そう思っていると、タイクさんは気を利かせたのだろうか。
一言そう告げると彼は、おもむろに踵を返して墓守の小屋へと戻っていった。その後姿を見送って、ボクはしばし立ち尽くす。
その上で、タイクさんに言われたことを思い返すのだ。
「一番悲しいのは、忘れられること……か」
それは、間違いなく正しい。真理だった。
同時に思うのは、彼らの生業はボクたち修繕師のそれと似ている、ということ。だとすれば今まで思っていた以上に、この依頼に熱が入るというものだった。
なんとしてでも、完璧にこなしたい。
「よし、頑張ろう……!」
ボクはそう考えて、一つ気合を入れ直す。
そして、改めて各々の墓の状態確認を始めるのであった。
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