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2.ある夏季のこと。

体調不良と気圧の高下に殺意が湧く昨今です。

意訳:遅くなって申し訳ございません。







 エルタ王国にも、いよいよ夏季が迫ってきた。

 この時期になると気温が一気に上昇し、人々は手ぬぐいを手放せなくなる。川辺や噴水の近くで涼む人の姿が多く見受けられるようになり、木々からこの時期にだけ活動する虫の鳴き声も聞こえてくるのだった。ある人にとっては疎ましい季節だが、ボクは意外に嫌いではない。

 もっとも、当たり前のように入り浸っている公爵家令嬢は――。




「……あづぃです」

「見事なまでに溶けてるね……」




 ――お客様のいない時間帯に、テーブルに突っ伏してうめいていた。

 どうにもアーシャは暑さに弱い様子。朝から刺すような日差しが降り注ぐ最近は、珈琲や紅茶ではなくシンプルな水を愛飲していた。

 ボクはそんな少女に、皿に盛った塩を提供する。



「水だけじゃなくて、塩分も摂らないと倒れちゃうよ?」

「ありがとうございます……」



 指にそれをつけて、貴族の礼節などかなぐり捨ててしゃぶるアーシャ。

 その姿にボクは思わず苦笑いしつつ、ひとまず完了した依頼書の整理を再開した。



「……人って、大変ですね」

「そういうリーナは、大丈夫なの?」

「私の身体は機械ですから。ご心配なく」



 その作業を手伝うリーナに訊ねると、彼女は淡々とそう答える。

 個人的には諸々の箇所が熱で狂わないか気になるが、ルゼインさんの技術はやはりすごい、ということなのだろう。本当に、唯一無二のそれだった。

 そうしていると、ふとこんな話題になる。



「そういえば、お父さんがそろそろ墓参りに行きたい、と話していました」

「あー、もうそんな時期か……」



 それを聞いて、ボクはぼんやりと返した。

 エルタ王国では慣例として、夏季に入ると墓参りをする風習がある。古来よりこの季節になると、先祖が墓に帰ってくる、と云われているのだ。

 そういえば、ボクもそろそろ祖父のところへ挨拶に行かなければならない。



「…………」

「どうされました?」

「……あ、いいや。なんでもないんだ」



 すると無自覚に遠くを見ていたらしく、リーナが不思議そうに言った。

 ボクはまた苦笑しつつ、作業を再開する。



 ふと、昨夜見た夢の内容を思い出す。

 国王陛下に言われたから、夢に見たのだろうか。

 最近は忙しくて忘れていた記憶だったけど、でも――。




「……ん。あぁ、いらっしゃいませ!」





 ――そう考えていた時だった。

 不意に、来客があったのは。




「あぁ、ここが最近有名な修繕師さんのお店かな?」





 店に入ってきたのは、優しそうな顔立ちをした老夫婦。

 彼らはボクを見るとそう言って、柔らかく微笑むのだった。




 


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