1.いつか見た景色。
おひさしっス。
コミカライズも好評配信中ですので、よろしくっす。
「ライルをこんな場所に連れ込んで、なんのつもりだ!!」
感情に任せて怒鳴り散らす男性の声が、祖父のアトリエに響き渡った。
幼かったボクは名前を呼ばれたことに驚いて、ついつい身を隠してしまう。恐怖心が胸の中に生まれてくるが、それでも事態の把握がしたかったのだろう。
ゆっくりと、アトリエの出入り口から顔を覗かせるとそこには――。
「シャッツ……」
「もしかして、ライルを弟子に取ろうなんて思っているんじゃないだろうな!?」
困惑する祖父、ローンド・ディスガイズに食ってかかる男性。
シャッツ・ディスガイズ――ボクの父の姿があった。
「少し落ち着きなさい。私は……」
「うるさい、言い訳なんか聴きたくないんだよ!」
一方的に激昂する父を宥めようとする祖父。
しかし祖父が声を発すると、そのたびに父の感情は昂っていった。
「この、ろくでなし! 俺はお前とは違う……! だから――」
そう言いながら踵を返し、こちらへとやってくる。
慌てて姿を隠すと父はボクに気付かず、こんな捨て台詞を残した。
「ライルは絶対に、修繕師になんてさせないからな!!」――と。
祖父をろくでなしの修繕師と罵る父。
そんな彼の後姿を見送ってから、ボクはビクビクしながらアトリエに入った。するとそこには、こちらに背を向けて肩を震わせる祖父がいて――。
「私は、本当に愚かな修繕師、だな……」
――慙愧に堪えない、そんな声色で。
心の底から悔しそうに祖父は、言葉を絞り出したのだった……。
◆
「…………あぁ、夢……?」
目を覚ますと、ボクはアトリエの椅子に腰かけてテーブルに突っ伏していた。思わず夢と現を混同しそうになるが、どうにか意識を保つ。
その上で大きく深呼吸をして、しばし天井を見上げるのだった。
「……どうして、今さら?」
そして思い浮かんだのは、そんな疑問だ。
生前の祖父と、父の口論の場面には頻繁に遭遇した。子供ながらに恐怖心を覚え、いつも決まって傷つく祖父の姿に胸が苦しくなる。
そんなことを何度も、何度も繰り返して――。
「いや、忘れよう。今はもう『どうしようもない』ことだから」
だけど、そこでボクは考えるのをやめた。
自分だけで悶々と考え込んでも、意味のないことだと分かっているから。だったら目の前の依頼品と向き合う方が、何倍も有意義なことに違いなかった。
「えっと、次は……?」
依頼書と品を見ながら、ボクはあえて声を出す。
そうして夜は更けていく。
このエルタ王国にも、夏季が近付いている。
それなのに、頬を伝った汗はいつもより幾分か冷たいように思えた。
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