10.届いた手紙と想い。
次回、第8章完結。
遅くなった申し訳ないっす(´;ω;`)副鼻腔炎しんどい。
「ねぇ、父さん? 母さんって、どんな人だったの?」
「どうしたアルミン。そんなに改まって」
「いや、なんとなくね」
――ノアの息子、アルミンは生まれながらに身体が弱かった。
しかし、そのような境遇に恨み言一つ吐かない。それどころか時々に、屋敷の外に抜け出しては街の子供たちと遊んで帰ってきていた。その後は決まって体調を崩すのだが、反省しているのかは分からない。
それでも、ノアはそんなアルミンがとかく大切だった。
そんな息子がふと、訊いてきたのだ。
自分の母親は、どのような人物だったのか、と。
彼の問いかけは何の変哲もない。だが母について訊ねたのは、初めてだった。
「……そうだな。お前の母親は――」
アルミンの疑問に、ノアは静かに語り始める。
本当に、心が穏やかになっていった。亡き妻の話をすると、懐かしい気持ちになる。胸の奥に熱が宿るようで、活力に満ちていくのだ。
そんな父親の姿を見て、アルミンは何度も頷く。
その日以降、思い出話をするのが日課になった。
本当になんてことのない話を。
それでも、とても優しい時間だった。
こんな時が永遠に続けばいい。
今までの苦労に見合う幸せを求めて、罰など当たらないだろう。
ノアはそう信じていた。だが、
「アルミン。……目を、覚ましてくれ!」
現実は残酷で。
ある日を境にして、アルミンは目を覚まさなくなった。
緩やかに呼吸が細くなっていく彼の手を握り、ノアは祈り続ける。
「私にはお前しかいない。お前がいなくなったら、私は誰と……!」
治癒術師も、医師も、誰もが諦める中で。
ノアだけは最期まで祈りを捧げ、青年を看取ったのであった。
◆
「あの日以来だよ。私が誰かに、この話をするのは……」
ノア様はそう言うとようやく、本当に僅かだけど笑みを浮かべた。
しかし、それはどちらかといえば自嘲に近い。まるで家族の死から目を背ける自分に、嫌気がさしているようだった。
でも、ボクにはそれが情けない話だなんて思えない。
悲しいことから目を背けるのは、愛する人の死を受け入れたくないのは、人がその心をたしかに持っている証明だからだ。
「……ノア様。お渡ししたい、手紙がもう一通あります」
「もう、一通……?」
そんな彼に、これを渡しても良いのだろうか。
ボクは逡巡するが、しかし意を決して青年から預かった手紙を差し出した。
「……これはいったい、誰からのものかな?」
「それは、ご自分でお確かめください」
「ふむ……」
あえて言葉にせず、ボクはノア様にそう促す。
すると、彼は少し悩んだ後に受け取った。そして――。
「…………!?」
差出人の名を見た瞬間に、大きく目を見開いた。
それもそのはず。そこにあるのは、亡き息子の名前なのだ。
「こ、これは何の冗談だ。兄上の使者よ……」
「冗談ではありません。ボクは――」
困惑し、声を震わせるノア様。
そんな相手にボクは、緊張を押し殺して言い切った。
「彼から、アルミンから託されたんです」――と。
にわかには信じられない話。
だが、真実だった。
「そんな、馬鹿な……」
「お願いします、ノア様。一度でいいから、目を通してください」
顔色悪くなる彼に、ボクは必死にそう願う。
ノア様は瞳を震わせて、幾度となくボクと手紙を見比べた。そして、
「…………分かった」
そう、覚悟を口に。
ゆっくりと、手紙を開いた。その瞬間――。
『……ねぇ、父さん?』
「え……?」
不思議なことが起きた。
その声はきっと、ボクにしか聞こえていない。
『僕は本当に幸せだった。父さんの息子に生まれて、本当に』
青年が、立っていた。
彼はノア様の前に立って、本当に優しく笑うのだ。
『だから、ありがとう。…………愛してるよ』
最愛の父に向けて。
その言葉を残して彼は、まるで水面を揺らすように消えていった。
ボクはその光景をただ唖然と、見つめることしかできなくて。我に返ったのは、こんな声が聞こえてきた時だった。
「いたぞ、侵入者だ!!」
「あ……!?」
ノア様の臣下の人々が、息を切らしてやってくる。
ボクはしまった、と思い逃げようとした。
だが、それを彼が止める。
「…………よい、私が許そう。彼は『アルミンの友人』だ」
「領主、様……?」
ノア様は手紙を見つめたまま、そう言ったのだ。
臣下の人々は明らかに困惑の表情を浮かべ、こう訴えてくる。
「しかし、そのようなことは……!」
――あり得るはずがなかった。
ボクだって、そう思う。それでも、
「彼は、亡き息子の手紙を届けてくれた」
ノア様はただ静かに続ける。
その場の人々全員が、顔を見合わせた。
そんな彼らに向け、ノア様は一つ大きく息をつく。
「……あぁ、そうだな。あり得ない話だが――」
そして、肩を震わせて。
彼は手紙を涙で濡らしながら、言った。
「息子の字を見誤るほど、私も耄碌してはいない……!」――と。
それは辺境の地で体験した不思議。
そして、一人の不幸な領主にとっての救いだった……。
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