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9.ノアの語る過去。

すんません、急性副鼻腔炎で数日ダウンしてました。

電子コミックもよろしくね。


新作も、更新再開しますので応援してあげてください!










「……あぁ、そうか。兄上からの手紙か、嬉しいな」




 中庭に置かれた椅子に腰かけて、ボクの修繕した一つの手紙を手にするノア様。彼は差出人の名を見て一言、そう口にして柔らかな笑みを浮かべるのだった。

 慈愛に満ちた眼差し。

 それはきっと、この領主様に備わった美点の一つなのだ。

 誰よりも心優しく、誰よりも人々の気持ちに寄り添うことができる。



「やはり、兄上は後悔されておられたのか。私は何も恨んでいないのに、きっとあの方も、ずっとこのことを抱えて生きてこられたのだな」

「このこと……?」

「……あぁ、少しばかり昔話をしようか」



 国王陛下からの手紙を読み終えたノア様は、ふっと目を細めて話し始めた。



「私と兄上は、兄弟とはいうものの腹違いでな。それによって、王位継承権を争う派閥が二つに分かれてしまったのだよ」

「…………」



 それはたしか、リンドさんから聞いた内容だ。

 しかし、どうも国民に伝わる話とは異なる部分もあるらしい。




「しかし、私と兄上は本当に仲が良かった。毎日のように一緒に遊んで、このエルタという国の在り方については、幾度となく意見を交換していた。その日々は今の私にとってかけがえのないもので、この街を統治する上での礎となっている」




 仲が良かった兄弟。

 そんな彼らを引き裂いたのは、他でもない大人の事情だった。




「だが、王位継承権の争いが始まると、周囲は一気に変わった。私の母と兄上の母は、とかく犬猿の仲といって違いなくてね。しかし、まだまだ若かった私たちには何も発言権などない。それに心の底から愛情を注いでくれた彼女たちを裏切るなど、できなかった」




 そうして、袂を別つこととなった二人の王子。

 一人は国王となり、もう一人は逆らえないようにと、辺境へ送られた。ボクはここまでの話を聞いているだけで、胸が締め付けられる思いがしている。

 彼らは何も悪くないのに。

 ただ、いうなれば『間』が悪かった、それだけだった。




「こちらにきてから、私の母は間もなく亡くなってね。しかし兄上が手紙を仕舞いこんだのは、あちらのお母様が御健在だったからだろう。兄上はとても優しいから、それによって相手を傷つけることはできなかったのだと思う」




 何度か開いては目を通して。

 そこまで語り終えたノア様は、ふっと息をつきながら手紙を閉じた。

 ここまでが、国王陛下の手紙に書かれていた内容の一部。そして、ここからは国王陛下の耳にも届かなかった出来事。

 ノア様の身に起こった悲劇についてだった。




「孤独になった私の心を埋めてくれたのは、妻だったよ。彼女の笑顔は空虚で、何もなかった私の心に花を咲かせてくれた。この中庭にある花々は、そんな彼女との思い出だ」

「…………だけど、奥方様は」

「あぁ、もういない」




 ボクの言葉に、ノア様は静かに頷く。

 しかし、すぐに息をつくと、また語り始めた。




「ただ、私と妻の間にはかけがえのない宝があった。アルミン――息子は、たとえ何があっても私の手で育て上げなければならない。絶望などしていられない。自分は孤独ではなく、託されたのだと、そう思って一所懸命に愛情を注いだよ」




 アルミンの名前を聞いて、ボクは胸が苦しくなる。

 何故なら、この物語の終わりが近付いていると、思ったから。





「子育てというのは、とても大変だが、同時に学びも多かった。そして私の母がどうして、あそこまで王位というものに拘ったのか、その気持ちを垣間見ることもできたよ。……自分の子供には、何不自由なく育ってほしい。健康に、ただ真っすぐに、嘘偽りない人生を送ってほしい。本当に、きっとただそれだけだったのだろうね」





 そこまで語ったノア様は、一度空を見上げる。

 そして、ついに――。





「あぁ、本当に。私の願いは、希望は、たったそれだけだったのに――」






 彼は、ひどく悲しげな声で口にするのだ。












「どうして、逝ってしまったんだ。……アルミン」――と。











 


https://book1.adouzi.eu.org/n7845hs/

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