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8.悲しき領主へ届けるため。

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「昨日も言ったが、領主様に国王の使者を会わせるわけにはいかない」

「そこをなんとか……!」

「ええい、しつこいな」





 気付けばボクは、単身でノア様の屋敷へと向かっていた。

 しかし昨日と同様に、門を守る兵士から足止めをされてしまう。いや足止めならまだしも、そもそも取り合ってもらえないのだ。

 彼らの表情を見る限り、決して敵対心から門前払いしているわけではない。困ったような顔からは、領主――ノア様に対する気遣いが感じられた。


 それだけ、ノア様は街の人々に愛されている。

 だけど多くを失った彼は、自分が孤独であると思い込んでいた。

 たしかに辛い経験をしてきたのだろう。だけど、ボクは託されたのだ。



「……すまないな。領主様には、これ以上の気苦労をしてほしくないのだ」

「…………」



 こちらの必死さが伝わったらしい。

 門兵の強い口調はなりを潜め、ただ苦しげな色のそれへと変化した。それでも、ボクを屋敷の中に入れるわけにはいかない。それは、変わらないらしい。

 ここまできたら、さすがにボクも引き下がらざるを得なかった。

 でも、諦めたわけではない。



「なにか、別の方法で……!」



 屋敷から少し離れた場所で、ボクは必死に考えた。

 抜け道でもあれば良いのだけど、そのような情報は街の人ですら知らないだろう。ただこうなったら、どこからか忍び込む以外に方法はないわけで――。





『――こっち。こっちだよ、ライルくん』

「え……?」





 そんなことを考えていた時だった。





『屋敷に入りたいなら、こっちだよ』

「……アルミン?」





 どこからか、あの青年の声が聞こえてきたのは。

 周囲を見渡すものの、彼の姿は見えなかった。聞こえるのはどうやら、声だけらしい。不思議な感覚に困惑しながらも、ボクは深呼吸一つ、意識を研ぎ澄ませた。

 そして、アルミンの声のする方へと足を運ぶ。




「……うわ、ずいぶんな獣道だな」

『あはは。ここは、僕しか知らない秘密の抜け道だからね』




 愉快に笑う彼の声がする。

 でも、影も形もない。



 不思議だった。

 だけど、嫌な感覚ではないのだ。




『さあ、ここを抜ければ屋敷の庭に出るよ』





 そして、それに身を任せるように進み続けると。





「ここ、は……」





 視界は一気に開けて、飛び込んできたのは美しい花畑だった。

 よく手入れがされているのだろう。さらさらと流れる水の音と相まって、この場にいるだけで心が澄み渡っていくようだった。

 そして、ボクはその庭の中に一人の男性がいることに気付く。




『それじゃ、後は頼むよ。――ライルくん』




 そんなアルミンの声に背を押されるように。

 ボクはゆっくりと歩を進め、庭の中心に立ち尽くす彼に話しかけた。




「…………ノア様、ですね?」






 すると、その男性はやつれた顔をこちらに向けて。

 生気のない目でボクを見て、答えた。





「あぁ、いかにも」――と。





 


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