5.問題発生。
「う、うーん……どうしましょうか」
「あそこまでハッキリと拒否されるとは、私も思っていなかったな。王位継承争いの際に何があったかまでは、さすがに知らないからね」
日がすっかり落ちた夜のこと。
ボクたちは用意された宿で、昼の出来事を話していた。
「領主様に取り次いでもらうより前に、門前払いなんてな」
「うん……」
ジャックの言った通り。
ボクたちは領主様の臣下の人々から、やんわりと追い払われたのだった。しかし完全な拒絶ではなく、どこか含みがあるような言い方で。
その中で何度も語られたのは……。
「領主様が塞ぎ込んでる、って言っていたよね」
ガーディスを統治する領主――ノア様はいま、心に深い傷を抱えているのだ、ということ。それ故に外界との接触を極力避けている。
そのような状態である彼に、仇敵の使者を会わせる、というのは無理な話。臣下の人々も苦し紛れに色々と言っていたが、主を想う気持ちは痛いほど伝わってきた。
「でも、原因はなんだろう。教えてもらえない、かな……?」
「難しいだろうね。臣下たちの様子を見る限りは」
「ですよね……」
ボクは腕を組んで考える。
しかし、解決策はちっとも浮かんでこない。
「もしかしたら、手紙の内容がヒントになるかもしれないけど……」
そこでふと、修繕途中の手紙のことを思い出した。
陛下からノア様へ宛てた手紙。すなわち、肉親へと向けた言葉だ。
「まずは、これを何とかしないと、かも」
「なるほど」
ボクが手紙を示すと、リンドさんは納得したように頷く。
そして、他の仲間たちに目配せをしてこう言った。
「それなら、ライルくんの作業を邪魔してはいけないね。ボクたちは、各々の部屋に戻って休息を取ることにしよう」
「はい。分かりました」
つまり、今日はここまで。
ボクは同意して、みんなが部屋を出て行くのを見送った。そして改めて、陛下から預かった手紙に向き合う。修繕道具を取り出し、作業を開始しようとした。
だが、その時である。
「もしもーし! キミが、国王陛下からの使いかな?」
「…………へ?」
見知らぬ青年が部屋の入り口前に立っていることに、気が付いたのは。
あまりに物音がしなかったので、ボクは呆気に取られてしまう。そうしていると、相手はにこやかに笑いながらこう名乗るのだった。
「初めまして。僕の名前はアルミン――」
あっけらかんとした口調で。
「この街の領主、ノアの息子だよ!」――と。
◆
「まさか、息子さんが堂々と現れるなんて……」
「あはは! 驚いたかい?」
「……それは、うん」
アルミンと名乗った彼は、まるで自室かのようにベッドに腰かけて笑った。あまりに奔放な雰囲気に圧倒されて、なかなかツッコミが追いつかない。
だけど、そんなボクの様子を楽しむようにアルミンは訊いてきた。
「それで、ライルくんは父さんに手紙を届けたいんだよね?」
「え、あ……そうだけど」
完全に会話の主導権を取られつつ。
ボクがそう答えると、彼は途端に難しそうな表情で腕を組んだ。
「むむむー? なるほど、それは難しいぞ……」
「その、いったい何が難しいのかな」
そして、そんなことを言うので意を決して訊いてみる。
するとアルミンは、一つ息をついて。
「これから話すことは、キミの仲間には言っちゃ駄目だからね?」
また表情を変えて。
静かに、ノア様の身に起きたことを語り始めたのだった。
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