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12.これはまだ、しばらく先のお話。

ページの下に、新作のリンクあります!

あと、更新再開します(2022年7月13日)












 ――あの日から、どれだけの時間が流れただろう。

 修繕師の技術だけを求めていた少年は、青年となっていた。ただ一つの願いのために門を叩き、最高の師を得て、一心不乱に修練を積んだ。最初は色々と反発もしたものだが、いつしか師の温かい言葉に励まされ、その期待に応えたいと思うようになった。


 そうして、彼――コルネは、ひとかどの修繕師となる。

 自身の店を持ち、師の店ほどの繁盛とは言わないまでも仕事は途切れなかった。忙しい日々を送る中でも、コルネには目指す修繕がある。

 いつの日か必ず、一人前になったら直そうと誓っていた。


 家族の思い出。

 時を刻むことをやめてしまった銀時計。

 あの瞬間に、足を止めてしまった自分たち。今こそ、それを前に進めよう。




「ねぇ、父さん。次の休みに、一緒に公園に行かない?」

「急にどうしたんだ、コルネ」

「いいから、さ。少しだけ、時間をくれよ」

「…………あ、あぁ」




 息子の誘いに、アルフォンスは首を傾げながら了承した。

 自分も王城の仕事に復帰したが、幸いなことにもう少しでまとまった休みが取れそうだ。それなら、久々に親子水入らず、というのも悪くない。

 そう考え、彼はコルネとの約束を楽しみにしていたのだった。












 ――そして、その日がやってくる。


 コルネは少し準備に手間取っているらしく、アルフォンスが先に公園へと向かうことになった。夕暮れ時の公園。そこにある長椅子に腰かけて、彼は空を見上げた。

 人気も次第に少なくなり、気付けば日も落ちてしまう。


 コルネはどうしたのだろうか。

 何か突発的な問題でも、起こってしまったのか。

 そう考えていると、誰かがやってくる足音があった。


 息子のそれだろう。

 そう思って、足音のした方を見る。

 すると、そこにいたのは――。








「え、あなた……?」

「アイネ……!?」








 アルフォンスは、自身の目を疑った。

 何故なら、そこにいたのはかつての妻であるアイネだったから。

 彼女もまた驚き、息を呑んだ様子で立ち尽くしていた。互いに言葉を失って、静寂がその場を包み込んでいる。しかし、いつまでもこのまま、とはいかなかった。



「…………少し、話さないか?」



 先にそう口にしたのは、アルフォンス。

 彼は意を決して、少々詰まりながらもそう提案した。



「え、えぇ……」



 アイネも流れのままに頷く。

 そしてまるで、仲を違える前のように並んで椅子に腰かけた。

 だが、なかなか次の言葉が出ない。また沈黙が降りたって、そして――。




「コルネは、元気……?」

「え、あ……」




 我慢が利かなくなったのだろう。

 アイネは、息子の近況について彼に訊ねた。



「元気、だね。今では自分のやりたいことを見つけて、立派な修繕師として働いているよ。本当に毎日、笑顔が絶えないんだ」

「そう……。それは、本当によかった」

「あぁ、本当にね」



 アルフォンスは、静かにそう答える。

 すると元妻も安堵したのか、そう胸を撫でおろすのだ。



「…………ねぇ、あなた」

「どうしたんだい?」



 そして、次は彼女が意を決したようにこう口にする。





「あの時は、本当にごめんなさい……」――と。





 それは、思わぬ謝罪の言葉だった。

 アルフォンスは呆気に取られて、返事ができない。

 そんな彼に対して、アイネは堰を切ったように続けるのだった。




「私も、あなたが仕事先でヒドイ目に遭っていたのを知っていたのに。自分のことばかりで、あなたとコルネのことも考えずに飛び出して、まともに話を聞こうともしなかったから……」――と。





 彼女の口から出てきたのは、懺悔だ。

 何年も前の、まったく非のない事柄に対しての罪の意識。

 アルフォンスは辛そうに語る彼女を見て、とっさに声を上げるのだった。




「それは、違う! 悪いのは私だ! 一人で抱え込んで、キミに暴力を振るって……! だから、キミがそんな風に罪悪感を持つ必要はないんだ!!」




 それを聞いて、次に声を荒らげたのはアイネだ。




「違うの……! それだけじゃない。私はコルネのことも考えてなかった! 一人で逃げ出して、責任を全部あなたに押し付けてたの!!」

「それは、私が負うべき責任だから……!」

「分かっているの、あなたが本当は優しい人だ、って! だからきっと、今もこうやって一人で抱え込もうとしているのだって、同じことなんだって……!!」

「………………!?」




 互いに、自分が悪かったのだと言い合う。それは少し前では、まずあり得なかった光景だった。それぞれ肩で息をしながら、ひたすらに感情をぶつける。

 冷え切っていたはずの関係が、にわかに熱を帯び始めていた。


 だが、どこか足りない。

 まだ互いに『あの言葉』を言えていない。


 そして、いよいよ互いに言葉も尽きてきた頃合いだった。




「二人とも、ずっと辛かったんだよね……」

「え……」

「コルネ……?」





 声が、聞こえたのは。

 二人にとって、それは大切な子供の声だ。

 姿を見るより先に口々に言って、青年の立つ方を見る。そして、





「コルネ、あなた……」

「それ、は……」

「……父さん、母さん。ずいぶん、待たせちゃったね」





 彼の手にある銀時計を見て、息を呑むのだった。

 あの日、壊れてしまった家族の絆。それが、あの日の姿のままそこにあった。月明かりを受けて淡く輝く銀時計は美しく、アルフォンスとアイネの胸の奥からは、様々な感情が込み上げてくる。


 楽しかった頃の思い出。

 苦しかった日々。


 そして、いまこうして目の前にある光景。

 その意味を理解して、彼らの瞳には光るものが生まれていた。





「俺さ、頑張ったんだ……」





 そんな二人に対して、コルネは語り始める。





「元通りには、ならないって分かってる。それでも、少しでも前に進めるように、ってさ。師匠の受け売りだけど、それでも――」





 大粒の涙が頬を伝っていた。

 そんな青年は、二人の傍に立ってこう言うのだ。





「ただ、二人がこれから幸せになれたら、って願ってさ……!」――と。






 そして、おもむろに銀時計に触れた。

 すると静かに、微かに輝く銀時計は再び時を刻み始める。






「コルネ……!」





 それが、最後の後押しだった。





「あぁ、本当にお前は……!」





 アルフォンスとアイネは、愛しい息子を抱きしめる。

 コルネにとって、それはとても懐かしい温もりだった。だから、






「う、うぅ、うわああああ……!」








 もう我慢なんてできない。

 あの日、師の前で初めて泣いた日のように。







 コルネはただ、二人の子供に戻って泣きじゃくるのだった。













 三人を照らす月。

 空に浮かぶ今日のそれは、とても綺麗な満月だった。







 


これは、少年が願い続けた『これから』のお話。



※時間軸は、次回でもとに戻ります!




https://book1.adouzi.eu.org/n7845hs/

新作です。

次章始まるまでの場繋ぎに()


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 追放ざまぁなのに追放した彼らのその後や接点がほぼ無いのはどゆこと?
[良い点] 更新お疲れ様です(◍•ω•◍) [一言] 最終回でもないのに思い切ってるなぁ まあこの作品が中編作品の連続だから出来ること なんだろうけどすごいわ
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