9.家族の絆だった銀時計。
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「そう、だったんですか……」
アルフォンスさんの話を聞いて、ボクは言葉が出なかった。
いいや。正確に言えば何も言うべきでないと、そう思ったのだ。これは部外者が口を挟むべき内容ではないのかもしれない、そう考えてしまって。
ただ、そんなこちらにアルフォンスさんは語るのだ。
「あぁ、その銀時計は妻との思い出の品でね。恥ずかしい話なんだが、婚約の際に私から彼女に贈ったものなんだよ」
「婚約の、ですか?」
「そうだね。あの時は、クサイ台詞を使ったものだよ」
そう言うと、彼は真っ暗な空を見上げて口にする。
「この銀時計のように、私とキミで幸せな時間を刻み続けよう」――と。
それは、きっと本心だったのだろう。
しかしいつしか、歯車が少しずつズレ始めてしまった。
そして、皮肉にも思い出の銀時計が壊れた瞬間に、彼の家族は……。
「は、はは……。本当に、私は馬鹿だったよ」
そこまで語ってから、アルフォンスさんはまた自嘲気味に笑うのだ。
きっと、いまのような反省を幾度となく繰り返してきたのだろう。自分の犯した過ちを悔い続けて、叶わぬ贖罪の念を自身に抱き続けて。
そして今は、コルネがそれを――。
「もしかして、コルネが直したいものって……?」
「そう、きっとその銀時計だ」
「………………」
アルフォンスさんは語っていた。
コルネは、二人の不仲の原因が自分にあると勘違いしている、と。
一つ一つがバラバラになっていたピースが、次第に形となって全貌を見せ始めた。つまりあの少年が、意固地になって修繕の技術だけを求めているのは……。
「………………」
――家族の絆を元に戻したい、ということか。
その結論に至って、ボクは息を呑んだ。
コルネの想いはきっと、とても純粋なものに違いないだろう。
しかし、たとえ銀時計が直ったとして、その想いが果たされることはあるのだろうか。そこまで考えて、ボクは胸の奥に強い焦燥感、あるいは嫌悪感を抱いた。
何故なら、分かっていたから。
答えは出ていた。
コルネの願いはきっと、届くことはない。
だって、でも、だって――。
「ライルくん……?」
「え……」
「どうしたんだい。ずいぶん、顔色が悪いけれど」
「あ、あぁ……。すみません、大丈夫です」
思考の渦に囚われそうになった時。
心配そうなアルフォンスさんの声に、引き戻された。
気付かぬうちに、呼吸すら忘れていたらしい。額には汗がにじんで、頬を伝っていた。それを拭ってから、ボクは深呼吸を一つ。
そして、アルフォンスさんに訊ねた。
「……アルフォンスさん。一つだけ、教えてください」
「なんだい……?」
舌先が緊張で乾く。
それでも、ボクはその問いを口にした。
「貴方は、どう思っているんですか? その――」
その問いは、夜の空気の中に溶けて。
自分の声なのに、ひどく遠くに感じられたのだった。
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<(_ _)>
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