3.無愛想なコルネ。
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(*‘ω‘ *)
しかし、問題はすぐに発生した。
「あの、ライルさん」
「ん、どうしたの。リーナ」
コルネを弟子にとって一週間が経過して。
ふと、困った表情でボクに声をかけてきたのはリーナだった。こちらが首を傾げていると少女はしばし悩んだ後、どこか申し訳なさそうにこう口にする。
「その、コルネさんのことなのですけど――」
「ライル! 少し良いですか!!」
「ふえ!?」
だが、それを遮るように割って入ってきたのは目くじらを立てたアーシャだ。
彼女の意識外からの介入に、ボクは思わず奇妙な悲鳴を上げる。青髪の公爵令嬢はこちらの答えを聞くより先に、鼻息荒くこう続けるのだった。
「コルネさんの態度、どうにかしてください!!」――と。
……いったい、なにがあったのか。
ボクは苦笑しつつ、アーシャからの報告を聞くのだった。
◆
――アーシャ曰く、コルネの真剣さは感心できるものだったという。
「凄いですね……」
ライルに教えられたことを一心不乱に繰り返し、才があるわけでもないにもかかわらず、少年は日々確実に成長を見せていた。
そのことは素人である公爵令嬢の目から見ても明らか。
だからアーシャは、それに対して素直な賛辞を贈ろうと少年に声をかけた。
「素晴らしいですね。昨日と比べて、また腕を上げたのではないですか?」
そして、少なからずの世間話を試みる。
だが――。
「………………」
「……あの?」
「………………」
「コルネさん、聞こえていますか?」
「………………」
「………………」
返ってきたのは、ただただ沈黙だった。
少年は聞こえないはずのない距離にいながら、完全に無視を決め込んだのである。アーシャはそのことに違和感を覚えるも、相手が気付かなかったのだと前向きに考えた。
その上で気を取り直して、もう一度大きめの声をかけた時だ。
「あの、コルネさ――」
「……聞こえてるよ、うるせぇな」
あまりに粗暴で、気遣いの欠片もない言葉が返ってきたのは。
コルネはあからさまに不機嫌な様子で、肩越しにアーシャを見て言った。
「練習の邪魔。もう絶対、話しかけるなよ?」――と。
有無を言わせぬ口調で。
アーシャは、そのあまりにふてぶてしい態度に言葉を失った。
そんな彼女を見やってから、コルネは軽く舌を打って作業に戻る。黙々と作業を再開し、背中からは誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出すのだった……。
◆
「躾がなっていません……!」
「あらら……」
事情を話し終えたアーシャは最後にそうまとめた。
ボクはそれを苦笑いしつつ聴いて、考える。
躾という言葉が正しいかどうかは分からない。だけど、この話を聞く限り非があるのはコルネの方だと思われた。たしかに練習の妨げになるかもしれないが、他者からの賛辞を無下にするのは褒められたことではない。
「あの、ライルさん。私も同じようなことがあって……」
「リーナも……?」
そう思っていると、次に声をかけてきたのはリーナだ。
曰く彼女もアーシャ同様に、声をかけたら邪険に扱われたという。それを確認して、コルネの言動が相手を選んだものではないことが分かった。
それとなると、問題は中々に大きい。
「今日はもう遅いですから、一度帰ります。ですがライルの方から、コルネさんに指摘しておいてくださいませんか?」
「う、うん……」
「それでは、お願いしますね」
そんなこんなで、気付けばもう外も暗くなっていた。
女子二人は帰宅する時間になっており、解決はボクに託される。短く挨拶を交わすとアーシャは不機嫌そうに、リーナは困惑したように去っていった。
彼女らを見送ってから、ボクはアトリエの方にいる少年のもとへ向かう。
すると見えたのは、脇目もふらず同じ作業を繰り返す彼だ。
「コルネ。今日はもう遅いから、続きは明日にしようか」
「…………分かった」
ひとまず、いきなり叱るのは悪手だろう。
そう思って最大限優しく、ボクは少年にそう声をかけた。
作業をしていた手を止めたコルネは、道具を所定の位置に戻すと帰り支度を始める。どこか寂しげなその背中を見て、ボクは意を決してこう言った。
「あのさ、コルネ? 少しだけでいいから、みんなと仲良くできないかな」
すると、支度を進める彼の手が止まる。
沈黙が場に降りてきて、どことなく緊張感が広がった。
静かな時間の中、ボクはコルネの言葉を待つ。すると返ってきたのは――。
「関係、あるのか?」
「え……?」
どこか、焦りを感じさせるような。
「修繕の技術そのものと、関係あるのか?」
空気がいっぱいに入った風船のように、張り詰めた言葉だった。
ボクはそれを受けた瞬間、思わず眉をひそめる。
だが、その間をどう受け取ったか。
コルネは荷物を担ぐと、一つため息をついて踵を返した。
そして最後に、ボクの顔をジッと見てからこう言うのである。
「関係ないことは要らない。技術だけでいいから」――と。
それはきっと、アーシャたちに向けたような鋭利さで。
あまりに突き放した言い方に、ボクは何も言い返せなかった。いいや、きっと何を言っても今の彼には届かなかっただろう。
少年の背を見送って、小さく息をついた。
「………………」
静かな作業場でボクはただ、彼が作業していた場所を見つめる。
どうやら、コルネには何かしらの事情がありそうだった……。




