11.長かった苦しみの日々は、終わりを告げて。
長かった(´;ω;`)みなさま、お待たせしました!
次回、この章のエピローグです!!
「え……?」
シエスタは、何が起きたのかを理解できないでいた。
たしかなのは頬に感じる痛みだけ。きっと目の前にいる少女が、自分の顔を叩いたのだろう。そこまで思い至るまで、しばしの時間を要した。
そうしていると、少女――アーシャは涙を堪えるような声で言う。
「貴方は、間違っています」
真っすぐに、シエスタを否定した。
アーシャは上ずっていた呼吸をゆっくり、慎重に整えてこう口にする。
「シエスタさんはリンドのため、そう言いましたね? でも――」
真剣な声色で。
「そこに、リンドの想いはあるのですか……?」――と。
それを聞いて、シエスタは息を呑んだ。
そして、すぐに反論しようとする。だけど、できない。
喉元まで出てきた感情を形にするのは、どうしても憚られた。何故なら、アーシャの言葉は間違いなく真であったから。
先ほどシエスタが口にしたそれは、彼女の独り善がりだったから。
「でも、でも……!」
だけど、正論だけで人間の心は成り立たない。
シエスタの胸は締め付けられ、同時に押しつぶされるようだった。とにかく苦しい。今すぐにでも、この場所から逃げ出してしまいたい。
でも、その手段が彼女にはなかった。
何年も前に、失われていた。
いいや、違う。
これはそんな物理的な問題ではない。
そのことはもう、ずっと前から分かっていた。
「でも……!! だったら、私はどうしたらいいの……!?」
だからこそ、シエスタは感情を爆発させる。
もう、なにも分からない。ただ子供のように、駄々をこねるだけだった。
「私だって幸せになりたい……! でも、私は――」
そして、ついに本心を打ち明ける。
「リンドさんが幸せじゃないと、幸せになれないの……!」――と。
彼を想うからこそ。
彼に幸福を掴んでほしいからこそ。
彼がいつも、当たり前のように笑っていられるからこそ。
だからこそ、自分は幸せを感じられるのだ、と。
「だったら、もう遠慮する必要はありませんよ」
「え……?」
その時だった。
シエスタの身体は、温もりに包まれる。
アーシャが優しく彼女のことを抱きしめたのだ。
「生前、お母様が話してくださいました。身体の弱い自分と結婚して、お父様は幸せだったのか、訊いたことがあったと」
そうして、アーシャは語り始める。
自身の亡き母親との思い出を。
「すると、お父様はなんと答えたと思いますか? ――『キミと共に歩むことができる。それだけで自分は満たされる。世界が輝いて見える。キミとでなければ、このような景色を見ることはできなかった』……ですって」
――まるで、演劇の台詞のようですよね。
アーシャはそう言って笑う。
シエスタはただ、そんな少女のことを見つめていた。そして、
「……わたくし、思うんです。シエスタさんはもっと――」
震える彼女の肩にそって手を置いて。
少女はまるで、母親のような慈愛に満ちた表情で告げるのだった。
「ワガママになって、良いのですよ」――と。
その言葉を聞いた時、シエスタはハッとする。
すると、そんな彼女に声をかける人物が現れるのだった。
「……シエスタ」
「リンド、さん……?」
いつの間にかリビングにやってきていたリンド。
彼はゆっくり歩み寄ると、腰掛ける彼女へ視線を合わせるように膝をついてから、こう伝えるのだった。
「私の一番の幸せは、一つしかないよ」
シエスタの頬に伝う涙をそっと、拭い取りながら。
「私にとっての最大の幸福は、シエスタと共にあることだ。だから――」
あの日のように。
「私と、生きてくれないかな……?」
彼は、そう言った。
困難はいくつもあるだろう。
だけど、それはきっと乗り越えられないものではない。
たとえ辛くとも、自分たちなら、二人一緒なら前に歩いて行ける。
そう、二人で手と手を取り合って。
「リンド、さん……!」
そうして、その想いはようやく。
凝り固まった時間を解きほぐすようにして、通じるのだった。
「はい……! 私で、よければ……!」
こうして一人の女の子の、苦しい日々が終わりを告げる。
そして、ここから先には『幸せ』に満ちた毎日が、きっと……。




