9.心。
次回、山場かな……今度こそ。
新作で勘違い系?を書いたので、あとがきの下にあるリンクから飛べるようにしておきました。応援よろしくお願いいたします。
――『苦悩を解いてやれ』
ルゼインさんの言葉が、耳に張り付いて離れない。
彼はなにかを感じ取っている様子ではあったが、どういう意味なのだろうか。ボクはそれが気になって仕方なかった。修繕の依頼を受ける上で、依頼者の心に寄り添うことは大前提だ。だからきっと、これが分からないと前には進めない。
そう考えてボクはもう一度アーシャと共に、リンドさんの家を訪ねることにした。
「とりあえず、義手と義足の手筈が整ったことは伝えないと。それに――」
「ルゼインさんの言葉が、気になるのですね」
「……うん」
隣を歩く少女に確認するように言うと、見事に考えを言い当てられる。
こちらが眉をひそめると、アーシャは優しく微笑んだ。
「大丈夫です。ライルなら、きっと……」
「……アーシャ?」
そして、そんな風に口にする。
こちらが思わず首を傾げていると、彼女は空を見上げて話し始めた。
「……お母様のことを思い出したのです」――と。
ボクはそれに思わず黙り込み、耳を傾ける。
すると少女は一度、二度と頷いてから言うのだった。
「きっと、お母様は最期まで幸せでした。ライルに思い出の衣装を修繕していただいて、本当に安心したように眠りについたのです。だから――」
アーシャはボクの手を取って、最後にこう告げる。
「自信を持って下さい。ライルなら、きっとできます」
「アーシャ……」
迷わなくていい。
自分が正しいと思ったことをやればいい。
彼女の瞳は、そう語っているようにも思われた。
「もし、それで障害にぶつかったなら。こちらも手伝いますから!」
そして、力強く笑う。
そんなアーシャの表情を見て、ボクはどこか勇気が湧いてきた。
「……ありがとう、アーシャ」
「え、あ……ラ、ライル!?」
だから、思わず彼女の頭を撫でてしまう。
そうすると少女は驚き目を丸く、頬を赤く染めるのだった。
アーシャの反応を見て、ボクは自分がなにをしているのかに気付く。
「あ、あれ? ――ごめん! つい!」
慌てて手を離して、謝罪した。
だが、それに対して返ってきたのは少し意外な言葉。
「…………い、いえ。不快では、ありませんでしたから」
困惑したように、しかしどこか弾むようなアーシャの声。
ボクはまた、首を傾げてしまうのだった。
「そ、それより! 早くリンドの家に行きましょう!」
「そう、だね!! うん!!」
……なんだろう、この空気。
ボクたちは互いにそう言い合って、改めて歩き始めるのだった。
◆
そうして、しばらくするとリンドさんの家が見えてくる。ボクはほんの少しだけ緊張しながら、しかし勇気を持ってドアをノックしようとした。
だが、その時である。
「どうして分かってくれないんだ!?」
家の中から、リンドさんの悲鳴のような声が聞こえてきたのは。
「え……!?」
ボクとアーシャは一瞬だけ顔を見合わせるが、すぐに家の中に飛び込む。
そして、大慌てで二人が言い争う場所――リビングへと向かった。
「いいんです! もう、もう――」
そこにたどり着く。
すると、そこにあったのは――。
「私のことはもう、放っておいてください……!!」
「分からない、どうして……!?」
感情をむき出しにして言い争う、リンドさんとシエスタさんの姿だった。




