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8.願いと本心と、苦悩。

次回、山場かな??

→次々回になりそうです。








 指輪の修繕自体は、そこまで難易度が高いものではない。

 それでも捩じ切れている部分や、錆が発生している箇所については時間がかかりそうだった。それに今回に限っては、指輪の修繕以外にもやらなければならないことがある。そのために、ボクはある場所へと向かった。




「こんにちは! いま、良いですか?」

「あん? 誰かと思えば、その声はライルか」

「ライルさん。いらっしゃいませ」



 向かった先というのは、ルゼインさんの工房だ。

 完全に目が見えなくなった彼は店をたたみ、現在はリーナと一緒に平和に暮らしている。彼女の一件以来、ルゼインさんは嘘のように優しくなっていた。

 娘であるリーナがボクのところで働いている間も一切、酒は口にしていないらしい。その理由というのも『娘を泣かせるわけにはいかねぇからよ』とのこと。



「今日はどうした? かなり、急ぎのようだが……」

「あはは、分かりますか」

「息を切らせて挨拶されたら、誰でもそう思うさ」

「…………ははは」



 さて、話は本題へ。

 勘のいいルゼインさんの言葉に、ボクは少し頬を掻いた。

 そして、無理を承知でこう願い出るのだ。



「ルゼインさん。貴方の知識を、ボクに下さい……!」



 見えないと分かっていても、しっかりと頭を下げて。

 すると彼は、少しだけ考えるようにしてからこう言うのだった。



「事情を聴こうか……」







「――なるほど、な。『義手』と『義足』か」



 ボクの申し出を聞いて、彼は腕を組んでそう唸った。


 こちらがお願いしたのは二つだ。

 まず、ルゼインさんの持っている『人の身体に関する知識』が欲しい、ということ。そして何よりも、自在に動かすことのできる『義手と義足』を作成することへの協力、だった。この二つのことについて、この街でルゼインさんの右に出る者はいない。

 そのことは、彼の傍らで話を聞いているリーナが証明していた。



「つまりライルは、その嬢ちゃんを救いてぇんだな?」

「……はい!」

「…………」



 ボクが力を込めて答えると、彼はまた少し考える。

 そして、静かにこう口を開いた。



「ふむ……。こっちとしちゃあ、断る理由はねぇさ。ただ――」

「……ただ?」



 ルゼインさんは、小さく息をついてから。

 居場所を示すように手を重ねている娘に目を向けて、こう言うのだった。



「問題は、これだけじゃねぇ、ってことさ」――と。




 なにか、思い詰めたように。

 ボクが意図を理解できずに首を傾げると、それを察したらしい彼は、落ち着いた口調でこう語り始めるのだった。





「頭ではそれが最善だし、本心ではそう在りたいと願ってもな? 人間の心ってのは、厄介な部分があるんだよ」

「厄介な、部分……?」

「あぁ、こちとらそれを痛感したからな。話を聞いてるだけで、苦しいな」

「それって、つまり――」




 ボクが息を呑んだのが分かったらしい。

 ルゼインさんは、最後にこう忠告してくるのだった。




「優しい人間ほど、苦悩しているはずだ。それをまず、解いてやれ」――と。




 


https://book1.adouzi.eu.org/n1048hc/

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