8.願いと本心と、苦悩。
次回、山場かな??
→次々回になりそうです。
指輪の修繕自体は、そこまで難易度が高いものではない。
それでも捩じ切れている部分や、錆が発生している箇所については時間がかかりそうだった。それに今回に限っては、指輪の修繕以外にもやらなければならないことがある。そのために、ボクはある場所へと向かった。
「こんにちは! いま、良いですか?」
「あん? 誰かと思えば、その声はライルか」
「ライルさん。いらっしゃいませ」
向かった先というのは、ルゼインさんの工房だ。
完全に目が見えなくなった彼は店をたたみ、現在はリーナと一緒に平和に暮らしている。彼女の一件以来、ルゼインさんは嘘のように優しくなっていた。
娘であるリーナがボクのところで働いている間も一切、酒は口にしていないらしい。その理由というのも『娘を泣かせるわけにはいかねぇからよ』とのこと。
「今日はどうした? かなり、急ぎのようだが……」
「あはは、分かりますか」
「息を切らせて挨拶されたら、誰でもそう思うさ」
「…………ははは」
さて、話は本題へ。
勘のいいルゼインさんの言葉に、ボクは少し頬を掻いた。
そして、無理を承知でこう願い出るのだ。
「ルゼインさん。貴方の知識を、ボクに下さい……!」
見えないと分かっていても、しっかりと頭を下げて。
すると彼は、少しだけ考えるようにしてからこう言うのだった。
「事情を聴こうか……」
◆
「――なるほど、な。『義手』と『義足』か」
ボクの申し出を聞いて、彼は腕を組んでそう唸った。
こちらがお願いしたのは二つだ。
まず、ルゼインさんの持っている『人の身体に関する知識』が欲しい、ということ。そして何よりも、自在に動かすことのできる『義手と義足』を作成することへの協力、だった。この二つのことについて、この街でルゼインさんの右に出る者はいない。
そのことは、彼の傍らで話を聞いているリーナが証明していた。
「つまりライルは、その嬢ちゃんを救いてぇんだな?」
「……はい!」
「…………」
ボクが力を込めて答えると、彼はまた少し考える。
そして、静かにこう口を開いた。
「ふむ……。こっちとしちゃあ、断る理由はねぇさ。ただ――」
「……ただ?」
ルゼインさんは、小さく息をついてから。
居場所を示すように手を重ねている娘に目を向けて、こう言うのだった。
「問題は、これだけじゃねぇ、ってことさ」――と。
なにか、思い詰めたように。
ボクが意図を理解できずに首を傾げると、それを察したらしい彼は、落ち着いた口調でこう語り始めるのだった。
「頭ではそれが最善だし、本心ではそう在りたいと願ってもな? 人間の心ってのは、厄介な部分があるんだよ」
「厄介な、部分……?」
「あぁ、こちとらそれを痛感したからな。話を聞いてるだけで、苦しいな」
「それって、つまり――」
ボクが息を呑んだのが分かったらしい。
ルゼインさんは、最後にこう忠告してくるのだった。
「優しい人間ほど、苦悩しているはずだ。それをまず、解いてやれ」――と。
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