7.覚悟を決めて。
遅くなり、申し訳ございません(´;ω;`)!
原稿やら体調やら、しっちゃかめっちゃかになってました!!
リンドさんの家を出たボクとアーシャは、互いに一つも口をきけなくなっていた。それもそのはず。あのように悲しい話を聞いてしまっては、絶句するというものだ。
シエスタさんは、幸せの絶頂から絶望の淵へと叩き落とされた。
あまりにも悲しい、惨い話。
彼女の心中は想像に難くないが、その感情を完全に共感するのは不可能だ。だからこそ、ボクは言葉に窮した。ただ沈黙することしかできない。
それは傍らの少女も、同じだったのだろう。
アーシャは先ほどから、泣き出しそうな顔をしていた。
同じ女性であるシエスタさんの身に起きた不幸は、さぞ堪えただろうから。
「そろそろ、店に戻ろうか……」
静寂に耐えられない。
そう感じて、ボクがそう口にした時だった。
「あ……。キミたちは」
「その声は、リンドさん?」
出先から戻ってきた彼と、鉢合わせることになったのは。
リンドさんは驚いたように目を開いたが、すぐにいつもの調子に戻ろうとした。しかし、ボクたちが彼女に会ったのを察したのだろう。
「……そう、か」
短くそう漏らすと、自嘲気味に頬を掻いて笑った。
「いや、すまない。キミたちには、心配をかけたくはなかったんだ」
「リンドさん……」
そして、ボクたちに相談しなかった理由を口にする。
飄々としながらも芯の強い、彼らしいといえば彼らしい。そうは思ったが、ボクたちはもう事実を知ってしまった。
だからリンドさんの笑みの裏にある悲しみに、気付かないはずがない。
こちらの沈黙に、彼はまた困ったように笑う。
そして、一つ息をついてから言った。
「まだ、持っているんだ」――と。
リンドさんは懐から、大切そうにあるものを取り出す。
それは――。
「それって……」
「……あぁ。私がシエスタに渡した『指輪』だよ」
ひしゃげて、すっかり変わり果てた結婚指輪だった。
事件から時が止まっているように思えるそれには、ひどく感情が揺さぶられる。それと同時に、リンドさんの迷いを感じ取ることができた。
――後悔、だろうか。
リンドさんの中にあるのはきっと、シエスタさんを守れなかったという気持ち。悔やんでも悔やみきれない、不可逆の未練だった。
「ははは、情けないよね。私はまだ、振り切れていないんだ」
その証拠に、彼は静かに語り始める。
「私はシエスタを守れなかった。だから、再度の婚約を申し込んで良いものなのか、と」
そう言ってリンドさんは、静かにため息をつく。
ボクはそんな彼に何も言えなかった。
言えるはずがない。
何故なら、彼の気持ちは痛いほどに分かったから。
自分の手で幸せにしようと誓った人が、深く悲しんでしまった。その事実は確実に、心を蝕んでいくだろう。
だから、拳を震わせるしかできなかった。
しかし――。
「そんなの、リンドらしくないです!!」
「え……?」
――アーシャだけは、違った。
少女は怒った顔をしてリンドさんに詰め寄ると、軽くその胸を小突く。
「まったく、どうして気付かないのですか? こういう時こそ、シエスタさんは貴方に助けてほしいと、そう願っていることに!」
「…………そ、それは……」
「本当に、殿方はこういった時に優柔不断ですね!」
「あ、あはは……」
詰問されたリンドさんは、思わず苦笑して頬を掻いた。
そして、小さくこう言うのだ。
「そう、ですね。アーシャ様の仰る通りです。しかし――」
「どうすればいいのか、分からない……でしょう?」
「………………」
だが、それさえも少女が遮る。
見事に言い当てられた彼は、また難しい顔に戻ってしまった。
それでもアーシャの表情は力強いまま。
彼女は、一つ息をついて――。
「そういう時こそ、相談しなさい。リンドは一人ではないのですから!」
そう、呆れたように肩を竦めて言うのだった。
そしてボクに目配せして、こう宣言する。
「いるではないですか。ここに『最高の修繕師』が!」――と。
それはつまり、そういうことだった。
驚き、こちらを見るリンドさん。
ボクは彼の視線を真っすぐに受け止め、その次にアーシャを見た。
すると彼女は、まるでボクの気持ちを知るかのようにウインクをしてみせる。
「あぁ、そうだね……」
あまりに心強いそれに、ボクは思わず笑ってしまった。
信じてくれる人がいるのなら、頑張ろう。
そう思って、ボクはリンドさんに告げるのだった。
「ボクに、任せていただけませんか?」
――静かに、しかし力強く。




