6.幸福な日々の終わり。
今回短め。
幸せが消えてしまうのは、一瞬です。
――幸せな日々が、始まるはずだった。
翌日、シエスタは完全に浮足立っていた。
心が躍るとはこのことか。
足が軽い。
その時の彼女は、そう思っていた。
今までの苦難から解き放たれたのだと、そう確信していたから。
「おいおい、シエスタ。あまり無茶するなよ?」
「分かってるよー!」
仲間に指摘されても、彼女は深く受け止めなかった。
今ならきっと、どんな強敵と相対しても負けることはない。何故なら自分はもう、一人ではないのだから。左手の薬指にはめられた指輪を見て、彼女は微笑んだ。
幸福の証。
愛する人から授かった証。
それを胸に抱いて、シエスタはまた一歩を踏み出した。
その時だ。
「危ない、シエスタ……!」
「え――?」
響いたのはリンドの声。
その直後に、彼女の視界は暗転した。
一瞬の意識消失。
すぐに、シエスタは目を覚ました。
しかし仲間の声が遠い。
視界も曖昧。
みんなが声を荒らげながら、何かと戦闘を行っていた。
自分もすぐに参戦しなければならない。
そう、思った。
「――――?」
だが、身体が思ったように動かない。
いいや、違う。感覚がなかった。
何故だろうかと、彼女は思う。
そして、曖昧な視界が晴れた時。
「え…………?」
全身から急速に熱が抜けていく。
寒気がした。
あるはずのものが、なかったから。
左腕と左脚。
「え、う…………そ……?」
理解が追いつかない。
だが、そんな状態の中でも分かることがあった。
もう、幸福な日々は終わったのだ――と。
頬に涙が伝う。
混乱する心のまま、シエスタは泣きじゃくるのだった。




