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5.幸福な日々。

大  遅  刻 !!


やっと体調が復活しました。

ご迷惑おかけしました!!!!!!!!









 ――五年前。



「リンドさん! 明日はどんなクエストを受けますか!?」

「落ち着いてくれ、シエスタ。まだ今日の依頼を達成したばかりじゃないか。いまはひとまず、みんなと無事を祝うことにしよう」

「そうですけど! わたし、毎日がとても楽しいんです!」

「ははは。それは良かった」



 腕を絡ませてくるシエスタに、リンドも自然に笑みを浮かべる。

 その日もいつものようにクエストを終えて、街へと帰還している最中だった。元々は貧しい生まれだったシエスタ。そんな彼女がリンドの弟子になってから、おおよそ二年が経過しようとしていた。いつの間にか、師弟関係は恋人のそれに。

 思わぬ形であったが、リンド自身も決して不快に思っていなかった。


 シエスタの素質に惚れて、剣技を教えようと思った出会いの日。

 まさか、ここまでの仲になるとは想像もしていなかった。

 それでも今や、彼にとって彼女は――。



「おいおい! 今日も見せつけてくれるな!」

「頼むからクエスト中に惚気るのは、勘弁してくれよな!」

「むぅ、みんな! そんなこと、絶対にしないよ!?」



 リンドとシエスタを見て、他の仲間たちが茶々を入れる。

 彼女は頬を膨らせて反論するのだが、どこか甘い言い方になっていた。好きな男性との間を認められているような反応に、内心では嬉しいのだろう。

 一人の少女として、シエスタは幸せの只中にいた。


 それは、間違いない。


 自分を救い出してくれた大好きな人と、毎日を共にすることができる。

 それは過去の自分の境遇では、まず考えられないことだった。



「なぁ、リンド? お前、いつになったらプロポーズするんだ」

「さすがに、その茶化し方は駄目だよ。リンドさん、困ってるでしょ?」

「あはは。悪い悪い」



 仲間の言葉にシエスタは彼の顔を見る。

 すると、どうしたことだろう。



「あれ、リンドさん? どうしたんです?」

「あぁ、いや――」



 いつも冷静なリンドが、珍しい。

 ほんの少しだけ、頬を赤くしているように思えた。

 その感情の機微を見逃すほど、シエスタも鈍感ではない。だから、じっと彼の次の言葉を待つのだ。そうしていると、彼女にだけ聞こえる声でリンドが言う。



「今日の夜、宿の前にきてほしい」――と。




 それを聞いた瞬間の胸の高鳴り。

 シエスタは今でも、昨日のことのように思い出せるのだ。







「あの、リンドさん……?」

「…………あぁ、すまないね。こんな時間に」

「いえ……。それで、お話って?」

「………………」



 ――そして、迎えた運命の時。


 夜遅くに宿の前に出ると、そこにリンドの姿があった。

 やや乾燥した空気の夜だったように思う。


 いつになく緊張した面持ちの師匠であり恋人は、ゆっくり息をついた。



「私たちが出会ってから、もう二年が経つね」



 そして、そう切り出す。



「最初は互いに喧嘩ばかりだったのに。いつしか、こうやって互いを想い合えるようになった。きっとこれは、素晴らしいことに違いなく、また数奇な巡り合わせなのだと私は考えているよ」

「……リンドさん?」

「あぁ、すまない。本当に私は意気地なしだな……」

「そんなこと……!」

「いいや、意気地なしなんだ。今の私は、誰よりも弱いだろう」



 そして、少しだけ自嘲気味に頬を掻いてから。

 リンドはもう一つ深呼吸をした。



「愛する女性を前にすると、とてつもなく優柔不断になる。きっと怖いのだろうね。もしかしたら、キミを失うかもしれない、と」

「え、それって……?」



 だが、次にシエスタを見た彼の瞳には力が宿る。

 とても真っすぐな、魅力的な輝き。



「――でも、だからこそ。私はキミを、シエスタを失いたくない。私の傍に、ずっといてほしい。これまで以上に、キミのことを大切にしたいんだ」



 リンドはゆっくりと。

 懐から小さな箱を取り出した。

 その中にあったのは、シエスタが望んでいたものに違いない。



「……シエスタ。キミを、これからも守らせてほしい。命尽きるまで」



 ――結婚指輪。


 プロポーズの言葉と共に差し出されたそれを見て、シエスタは呆けてしまった。だがすぐに、自分の身に起きたことを理解して、手で顔を覆うのだ。


 駄目だ。

 こんな恥ずかしい顔を見せることは、できない。

 涙でくしゃくしゃだ。


 こんな幸せな瞬間があって良いのか。

 なにかの、間違いではないのか。



「答えを、聞かせてほしい……!」



 それでも、緊張した彼の気持ちに答えなければ。

 そう思ってシエスタは、ゆっくり面を上げながら言うのだ。



「…………はい。もちろん、です……!」




 指輪を受け取り、自身の指にそれをはめる。

 左手の薬指に輝くそれを見て、シエスタは笑うのだった。



 幸福な日々。




 間違いなく、幸福な日々の始まりだった。




 


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