3.リンドの婚約者。
あとがきに新作情報。
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「うーん。婚約者、かぁ……」
「リンドとはそれなりに長いですが、あのような話は知りませんでした」
テーニャの話を聞いた翌日のこと。
ボクとアーシャは、リンドさんの家へと向かって歩いていた。それというのも昨日、少年から聞いた話がどうにも気になったから。
なんでもリンドさんには、結婚の約束をした女性がいるらしい。
そして、その人の誕生日が近いとのことだった。
「でも、どうしてみんな暗い顔をしたんだろう?」
お祝いこそすれ、暗くなる話ではない。
しかしテーニャ曰く、その話をしてくれた仲間たちは一様に口を噤み、悲しげに目を伏せたとのことだった。ボクもアーシャも、お節介かもしれないが気になって仕方ない。そのため、今日は店を休みにして街へと出向いたのだ。
「それにしても、大きな家ばかりだなぁ……」
「リンドは冒険者の中でも、貴族たちに認められた存在ですから。他のみなさんより、少しばかり裕福な暮らしをしている、というところですね」
「なるほど」
そうしてやってきたのは、王都の中でも富裕層の人々が住まう地区。
ボクは少々居心地が悪く思っていたが、アーシャはさすが公爵家令嬢、というところか。すいすいと、素知らぬ顔で進んで行ってしまった。
だが、そんな彼女は不意にこう訊いてくる。
「ライルは、どう思いますか?」
「どうって?」
訊き返すと、ピタリと少女は立ち止まった。
「リンドの婚約の話です。先ほども言いましたが、私とリンドはそれなりに知り合って長いのです。しかし、そのような相手がいるなど聞いたこともありませんでした」
「うーん……」
「普段は飄々としているリンドですが、自身のことは意外に包み隠さず話してくれます。そんな彼が、どうしてそのことを口にしなかったのか……」
「………………」
そんな彼女を振り返ると、そこにはどこか寂しげな表情。
ボクはそれを見て、しばし考え込んだ。
だけど、やはり答えは出ない。
「アーシャにその存在を教えなかった理由と、結婚を延期している理由。こればかりは、やっぱりリンドさんに訊かないと分からないと思う」
「そう、ですね……」
こちらの言葉に、アーシャは小さく頷いた。
そうして歩き出して間もなくだ。
「あぁ、アーシャ様!」
「お世話になっておりますわ、おばさま」
リンドさんの家の前に到着。
するとそこからは、ちょうど彼の母親と思しき女性が現れた。
「いえいえ、こちらこそです。しかし、申し訳ございません。リンドは只今、出ておりまして。わたしも、これから少し……」
「そうなのです? では、中で待たせていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、アーシャ様とお連れの方なら大丈夫です。しかし――」
「どうしたんですか?」
リンドさんの母親は、少し困ったような表情を浮かべる。
ボクが首を傾げるとしばし間を置いてから、どこか覚悟したように言った。
「実は――」
そして、リンドさんの母親は事情を語ってくれたのだ。
◆
家の中に入り、リビングへ向かう。
すると――。
「あら、お客様ですか?」
ボクたちを出迎えたのは、一人の女性だった。
綺麗な肩口で切り揃えた黒の髪に、優しい印象を受ける黒の瞳。穏やかな表情を浮かべており、伝え聞いた事実を忘れるようだった。
だが、どうしても分かる。
見た瞬間に、意識してしまった。
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。わたしの名前は――シエスタです」
女性――シエスタさんには、左腕と左脚がない。
リンドさんの婚約者。
シエスタ・ブルノールさんは、それでも優しく微笑むのだった。
https://book1.adouzi.eu.org/n6701gw/
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