5.ルゼインの過去。
あとがきで、軽く補足も書いておきます(*‘ω‘ *)
ある修繕師には、レナという幼い娘がいた。
身体の弱かった妻は彼女を産んでから、間もなく亡くなった。だからこそ、その修繕師にとって娘はかけがえのない宝物。レナを守るためならば、いかなる犠牲をもいとわない。そう思いながら、一生懸命に仕事に打ち込んだ。
しかし、レナは母親に似て身体が弱かった。
度重なる病魔に晒される娘を助けるために、修繕師は稼いだ金をすべて彼女の治療費に当てた。自分の幸せなど、どうでもよかったのだ。
レナが生きていてくれることこそが、修繕師にとっての幸せだったのだから。
それでも、現実は残酷だ。
ある大雨の日のこと。
修繕師は仕事を終えて、急ぎレナの看病に向かった。
しかし、そこに眠る娘は幾度声をかけても、目覚めることはなかった。苦しかっただろう、悲しかっただろう、辛かったのだろう。修繕師は結局、何もできなかった自分を呪った。そして、彼女の葬儀を終えた彼は抜け殻となっていた。
◆
「それで、貴方はリーナを……?」
「はっ……笑いたきゃ笑え。こんな顔した男が、寂しさあまりに娘に似せた人形を作りだした、なんてな。誰も彼も、腹抱えて笑うぜ」
「そんなこと、ないです……」
「どうだかな」
ルゼインの話を聞いて、ボクは上手く言葉を口にできなくなっていた。
そんなこちらを見て、彼は酒を煽りながら鼻で笑う。
さすがに、予想もしていなかった。
まさかルゼインに、そんな過去があっただなんて。
でも同時に、腑に落ちる部分があった。技術を盗まれると思うほど偏屈な彼が、ボクにリーナの修繕を依頼した理由が。
ルゼインは、目が悪くなったからだと言った。
それも事実なのだろう。先ほどから、幾度となく瞬きを繰り返しているのだから。それでも娘のこと、そしてリーナのことを話す姿は、間違いなく父親の表情。
一時の心の隙間を埋めるため。
そんなわけがない。
彼にとってはリーナもまた、娘に違いないのだ。
「さて、少し話し過ぎたな。そろそろ帰れ――」
「ルゼインさん、教えてください」
「…………あ?」
そう思ったから、ボクは立ち上がり。
「お願いします。ボクに、リーナを任せてください!」
深々と、頭を下げた。
するとルゼインが、静かに息を呑んだのが分かる。
だがすぐに、いつものように鼻で笑うと――。
「はっ……馬鹿野郎。どうせお前、あいつの情報だけが欲しいんだろ?」
そう言って、またグラスに酒を注いだ。
取り付く島もない。だが、ボクは声を張り上げた。
「駄目なんです。こんな終わり方したら、誰も救われない!」
情報なんて、どうでもいい。
「『親子』は最期まで、一緒に……一緒に笑っていないと、駄目なんです!!」
ただ、この『親子』を救いたい、その一心で。
「…………お前……」
面を上げると、そこには目を見開いて驚く彼の姿があった。
その光を失いかけている瞳に、ボクはどう映っているのだろうか。それは分からなかったが、しばしの沈黙の後、ルゼインは乱暴に自分の頭を掻いて言った。
「だー!? ……ったく、分かったよ! 渡せば良いんだろ!?」
まるで観念したように。
そして、大きなため息をつきながら最後にこう言うのだった。
「けっ……ただの若造かと思えば、オレ以上の頑固者じゃねぇか」――と。
補足:ルゼインは現在も言わずもがな貧乏なのですが、理由は簡単。微かに入ってくる収入も、その大半をリーナの研究費に当てている、ということです。そんで余った金で、粗悪な酒を買って飲んでいるのですが、それで目を悪くしてしまいました。治療という手もあったのですが、そのお金もまた、ルゼインはリーナのメンテナンス費に充ててます。以上、吐き出したかった裏設定。




