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5.ルゼインの過去。

あとがきで、軽く補足も書いておきます(*‘ω‘ *)










 ある修繕師には、レナという幼い娘がいた。

 身体の弱かった妻は彼女を産んでから、間もなく亡くなった。だからこそ、その修繕師にとって娘はかけがえのない宝物。レナを守るためならば、いかなる犠牲をもいとわない。そう思いながら、一生懸命に仕事に打ち込んだ。


 しかし、レナは母親に似て身体が弱かった。

 度重なる病魔に晒される娘を助けるために、修繕師は稼いだ金をすべて彼女の治療費に当てた。自分の幸せなど、どうでもよかったのだ。

 レナが生きていてくれることこそが、修繕師にとっての幸せだったのだから。


 それでも、現実は残酷だ。


 ある大雨の日のこと。

 修繕師は仕事を終えて、急ぎレナの看病に向かった。

 しかし、そこに眠る娘は幾度声をかけても、目覚めることはなかった。苦しかっただろう、悲しかっただろう、辛かったのだろう。修繕師は結局、何もできなかった自分を呪った。そして、彼女の葬儀を終えた彼は抜け殻となっていた。









「それで、貴方はリーナを……?」

「はっ……笑いたきゃ笑え。こんな顔した男が、寂しさあまりに娘に似せた人形を作りだした、なんてな。誰も彼も、腹抱えて笑うぜ」

「そんなこと、ないです……」

「どうだかな」



 ルゼインの話を聞いて、ボクは上手く言葉を口にできなくなっていた。

 そんなこちらを見て、彼は酒を煽りながら鼻で笑う。


 さすがに、予想もしていなかった。

 まさかルゼインに、そんな過去があっただなんて。

 でも同時に、腑に落ちる部分があった。技術を盗まれると思うほど偏屈な彼が、ボクにリーナの修繕を依頼した理由が。


 ルゼインは、目が悪くなったからだと言った。

 それも事実なのだろう。先ほどから、幾度となく瞬きを繰り返しているのだから。それでも娘のこと、そしてリーナのことを話す姿は、間違いなく父親の表情。


 一時の心の隙間を埋めるため。

 そんなわけがない。


 彼にとってはリーナもまた、娘に違いないのだ。



「さて、少し話し過ぎたな。そろそろ帰れ――」

「ルゼインさん、教えてください」

「…………あ?」



 そう思ったから、ボクは立ち上がり。



「お願いします。ボクに、リーナを任せてください!」



 深々と、頭を下げた。

 するとルゼインが、静かに息を呑んだのが分かる。

 だがすぐに、いつものように鼻で笑うと――。



「はっ……馬鹿野郎。どうせお前、あいつの情報だけが欲しいんだろ?」



 そう言って、またグラスに酒を注いだ。

 取り付く島もない。だが、ボクは声を張り上げた。




「駄目なんです。こんな終わり方したら、誰も救われない!」




 情報なんて、どうでもいい。




「『親子』は最期まで、一緒に……一緒に笑っていないと、駄目なんです!!」




 ただ、この『親子』を救いたい、その一心で。



「…………お前……」



 面を上げると、そこには目を見開いて驚く彼の姿があった。

 その光を失いかけている瞳に、ボクはどう映っているのだろうか。それは分からなかったが、しばしの沈黙の後、ルゼインは乱暴に自分の頭を掻いて言った。



「だー!? ……ったく、分かったよ! 渡せば良いんだろ!?」




 まるで観念したように。

 そして、大きなため息をつきながら最後にこう言うのだった。





「けっ……ただの若造かと思えば、オレ以上の頑固者じゃねぇか」――と。





 


補足:ルゼインは現在も言わずもがな貧乏なのですが、理由は簡単。微かに入ってくる収入も、その大半をリーナの研究費に当てている、ということです。そんで余った金で、粗悪な酒を買って飲んでいるのですが、それで目を悪くしてしまいました。治療という手もあったのですが、そのお金もまた、ルゼインはリーナのメンテナンス費に充ててます。以上、吐き出したかった裏設定。


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― 新着の感想 ―
[一言] 戦後日本の闇市で飲まれていた「バクダン」みたいな、工業用アルコールが混じった粗悪な酒を飲んでいたのか…
[良い点] 更新お疲れ様です(◍•ᴗ•◍) [一言] まあ、ルゼインに対してリーナを「親子」として認識して会話するのはクリティカルヒットじゃろうなぁ 今回の修繕は「思い出」じゃなくて「情」そのものだ…
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