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4.理由。

ルゼインが、自分でリーナを修繕しない理由です(*‘ω‘ *)









 ――数日後。


 ボクはルゼインの工房を目指して歩いていた。

 彼の構える店は、王都の中でも少し外れた場所にあるらしい。あまり人もこないのだろうか、雑草が生い茂る道を進むと、ようやく目的地が見えてきた。


 一つ、呼吸を整えてから。

 ボクはそこに、足を踏み入れようと――。



「ふざけんじゃねぇ!! オレの修繕に文句があんのかぁ!?」

「うおお!?」



 ――その瞬間である。


 ルゼインの激怒する声が、工房の外まで響き渡ったのは。

 思わず驚きの声を上げてしまった。しかし呆然とする暇もなく、工房の中からは客であったと思しき男性が、逃げるように飛び出していく。

 そして、それを追いかけるように。



「もう二度と来るんじゃねぇぞ! この素人が!!」



 ルゼインが、鬼のような顔で現れてそう叫ぶのだった。

 肩で息をしており、こちらには気付いていない。

 ボクは苦笑いしつつ、ひとまず声をかけた。



「あの、ルゼインさん?」

「あん……?」



 すると彼は、こっちを見て。

 あからさまに不機嫌な表情を浮かべた。



「なんだァ、てめぇ。もう音を上げたのか……?」

「い、いえ。そういうわけではなくて――」

「だったらなんだ。こんな辺鄙な場所に、わざわざきやがって」

「え、えっとー……」



 そして、食ってかかるような態度で言う。

 ボクは思わず気圧されて、固まった表情のまま頬を掻いた。そんなこちらの様子を見て、ルゼインは眉間に皺を寄せる。そして、小さくこう口にした。



「……リーナのこと、か」

「え……?」



 その言葉に、ボクは思わず呆気にとられる。

 顔色の変化から察したのだろう。彼は大きくため息をつくと、言った。



「仕方ねぇ、入れ。……下らない質問だったら、殴るからな」



 そして、工房の中に入っていく。

 想定外の展開にしばし、その場で棒立ちしてしまう。

 だが、この機を逃してはいけない。そう考えて、ボクは彼を追いかけた。









「う……」



 中に入って、一番にボクを出迎えたのは酒の匂いだった。

 部屋全体に充満しているそれに、思わず眉をひそめる。雑然と置かれている道具などもそうだけど、工房とだとしても、少々汚れすぎていた。

 リーナをこちらで引き取って数日、掃除をする人がいないのだろう。



「まぁ、適当な場所に座れ」

「はい……。分かりました」



 ルゼインが、自身の定位置なのであろう椅子に腰かけた。

 それを見てボクはちょうど向かいにあった、子供用にも思える小さな椅子に座る。そうすると、頬杖をつきながら彼はこう言った。



「それで、リーナは直りそうなのか」――と。



 そして、グラスに注がれている液体を喉に流し込んだ。

 おそらくは酒、なのだろう。


 ボクはこの修繕師の体たらくに、思わず一言したくなったが、ぐっと気持ちを抑えて訊ねた。どうして――。



「どうして、リーナをボクに任せたんですか……?」

「……あん?」



 するとルゼインは、不機嫌そうにこちらを睨んだ。



「質問に質問で返すんじゃねぇぞ、ガキ。それともなにか、やっぱり弱音を吐きにここまできた、ってわけか……?」

「そうじゃありません。ただ、ボクには不思議で仕方ないんです」

「不思議、だと……?」



 威圧的な態度。

 それに怯み上がりそうになりながらも、ボクはハッキリと言った。



「ルゼインさん、どうして――」



 真っすぐに。



「貴方は、どうしてご自分でリーナを修繕しないのですか?」――と。



 ずっと疑問だったことを。

 彼には、ボクにはない技術がある。

 それは一朝一夕で身につくものではなく、また特殊すぎる技能だった。それなのに、彼はボクに機巧少女の修繕を依頼したのだ。


 こちらがそれを訊ねると、ルゼインはしばし黙り込む。

 そして、なにか諦めたようにため息をついてから、こう言うのだった。



「けっ……仕方ねぇな、教えてやる」



 ――トントン、と。

 自身の目の横を叩き、示しながら。







「オレの目は、もうあまり見えてねぇんだ」――と。





 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です [一言] 酒飲みすぎると目が悪くなることってありましたっけ?
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