3.ルゼインという修繕師。
(*‘ω‘ *)最近、疲労が抜けないw
「くそ……! あのガキ、生意気な目をしやがって……!!」
ルゼインは自身の工房に帰ってきて、すぐにそう悪態を吐いた。
リーナのおかげである程度は片付いた部屋を大股で歩き、乱暴に酒を取り出す。そして、出しっぱなしのグラスにそれを流し込み、一気に煽った。
そこでようやく一息つけたのか。
彼はやや乱暴にグラスをテーブルに置くと、何かを探し始めた。
「…………あぁ」
そうして、間もなく。
助手の気遣いで、分かりやすい場所に置かれたそれを発見した。そこにあったのは、小さな女の子が付けるようなネックレス。
見たところ、安物に過ぎない。
しかし、ルゼインはそれを大切そうに握りしめると胸に抱いた。
仄暗い部屋に、静寂が降りてくる。
その中で彼は音もなく、小さく、肩を震わせるのだった。
◆
――真夜中の工房。
ボクは黙々と、リーナの脚部の構造を確認していた。
そうやっていて分かったのは、一つでもミスを犯したら機巧少女は動かなくなってしまうだろう、ということ。
理由は単純だった。
人間に神経があるのと同じく、リーナにも脳に繋がる神経部品があるのだ。
「信じられない……」
「いかがなさいましたか?」
あまりの精巧さ、緻密さに思わず感嘆の声を漏らす。
すると、リーナはそれに首を傾げるのだった。
「キミを作ったのは、あの……ルゼインさん、なんだよね?」
「えぇ、そのようです。正確な記憶が残っているわけではありませんが、私が起動したときに周囲にいたのはマスター、ただ一人でした」
「メンテナンスも、全部……?」
「はい、そうです。マスターはメンテナンスの都度、何かしらの機能を追加していきました。その結果、私はこのように動けるようになったのです」
あくまで淡々と話すリーナ。
でもボクには、彼女の話すすべてのことが衝撃だった。
だって、こんな技術があって良いのか。これは、まるで一人の人間を作り出そうとしていると、そう言っても過言ではないように思われた。
いったい、ルゼインは何を思って行動しているのか。
一度、手を止めてそれを考えた。すると、
「本当に、優しい方なのです。マスターは……」
「え……?」
不意に、初めて感情を乗せたようにリーナが言う。
少し驚いて顔を見ると、機巧少女は微かに目を細めていた。
「マスターにとって、私は助手に過ぎません。壊れれば、また新しい機巧少女を作れば良いでしょう。しかしあの方は、私が不調を訴えるたびに、必死に直そうとするのです」
「………………」
そして、そう語るのだ。
口調はすでに、淡々としたものに戻っていた。
微かに細めていたように思えた目も。でも何故だろう、ボクには――。
「リーナ。キミには、もしかして……」
だが、そこまで口にして。
本当にそんなことがあり得るのかと、現実を疑った。
だって、そうだろう。機巧少女に――【心が宿っている】だなんて。
「いいや。でも、だとしたら……?」
しかしボクには、やはりそうとしか思えなかった。
だからこそ、ルゼインという人物が分からない。
このように精巧な機巧少女を作り、改良し、修繕を繰り返してきたのに。
それなのに、どうして彼はボクに依頼した……?
「………………」
リーナの頭に触れた時。
彼は恐ろしく感情を昂らせ、ボクに掴みかかった。
普通に考えれば、自分の培った技術を盗み見られるのが、嫌だったのだろうと考えられる。だとしたら、それこそ彼はどうしてボクに修繕の依頼などをしたのか。
「ライルさん……?」
「ねぇ、リーナ。少しだけ、訊きたいのだけど――」
――それにはきっと、何か理由がある。
ボクにはそう思えて仕方なかった。
だったら、確かめよう。
ルゼインという修繕師の胸の中にある『思い』を。
この修繕を果たすには、そのピースが必要不可欠だ、と。
そう、感じたから……。




