2.高圧的な依頼。
(*‘ω‘ *)
それは、ある昼下がりのこと。
客足もまばらになって、ボクもそろそろ昼食を摂ろうと思っていた時だ。鼻歌交じりに修繕道具を片付けていると、誰かが入店してきた。
「あ、はい! いらっしゃいませ!」
ボクはすぐに気持ちを切り替えて、そう応対する。
やや駆け足で出入口へ。すると、そこに立っていたのは――。
「けっ……。どんなに立派な店かと思えば、ずいぶんチンケだな」
「申し訳ありません。お世話になります」
ガタイのいい一人の男性。
そして、本当に小柄な女の子。
なにやら悪態をついた男性に対して、女の子は謝罪をしながら頭を下げた。ボクはそのことに若干、面食らいながらも椅子に腰かけるように促す。
「……はい。それでは、今回の依頼はなんでしょう?」
二人が着席したのを確認して、そう訊ねた。
すると、男性どこか不機嫌なまま、女の子の頭をポンと触って言う。
「こいつ――オレの助手であるリーナの、修繕を頼みたい」
「女の子の、修繕……?」
ボクはその言葉に、思わず唖然とするのだった。
◆
「……な、なるほど。機巧少女――こんなに精巧で、自律しているのは初めて見ました」
「けっ。そりゃ、オレの手製だからな。当然だ」
「そ、そうなんですか……?」
一通りの話を聞いて、ボクはようやく事態を呑み込む。
なにやら男性の態度が気になったがとにかく、この女の子は機巧少女――いわゆる、自律人形というものらしい。最初、入店してきた時には気付かなかった。
それほどまでに精巧で、人間として違和感のない立ち振る舞い。
「ちょっと、ごめんね?」
ボクは一言、声をかけてから女の子――リーナの頭に触れようとした。
すると隣の男性客は、目の色を変える。そして、
「馬鹿野郎! 関係ない場所、触ろうとすんじゃねぇぞ!?」
そう突然に声を荒らげた。
驚いたのは、ボクだけじゃない。
リーナも無表情ながら、主である彼の方を見ていた。
「え、でも。修繕するなら――」
「うるせぇ! こいつの技術はオレの物だ! 盗ませはしねぇぞ!?」
「そ、そんな!? 盗むだなんて、人聞きが悪い!!」
「口答えすんな、若造が! てめぇは、黙って壊れた部分を直せばいいんだ!」
「…………な!?」
そして、そんな口論の末に。
男性はボクの胸倉を掴みながら、こう啖呵を切ってきた。
「いいか、若造? このルゼイン様の技術を少しでも盗んでみろ。二度と表を歩けないような身体にしてやるからな……!?」
彼――ルゼインは、そう言ってボクのことを突き飛ばす。
いったい、なんだって言うんだ。
さすがにボクも、腹が立って仕方なかった。
だから思わず不満を口にしようと――。
「マスターが、申し訳ありません。私が代わって、謝罪いたします」
「え……?」
――した、ところで。
今までほとんど口を開かなかったリーナが、頭を下げながらそう言った。
マスター、というのはルゼインのことらしい。
「……あぁ、いや。大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
ボクはそんな少女の姿に毒気を抜かれ、頬を掻いた。
すると、リーナは感謝を述べる。
「……それで? この依頼、受けるのか?」
「………………」
しばしの沈黙の後に。
ルゼインが腕を組みながら、偉そうにそう訊いてきた。
ボクは、数秒の間を置いてから――。
「分かりました。お受けいたします……」
やや歯切れ悪く。
リーナのためを思い、そう答えるのだった。




