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1.偏屈な修繕師――ルゼイン。

第5章開幕。

今回、ライルは名前だけ。


あとがきに、新作情報。

もしよろしければ、そちらも応援いただけますと幸いです。









「うるせぇ!! オレの修繕に文句があるってんなら、他を当たりな!!」




 寂れた小屋のような家から、そんな怒号が聞こえた。

 次いで中から客であったと思しき人物が、逃げるように出てくる。それを追いかけるのは、ガタイの良い強面の初老男性。

 肩で息をして、悪態と共に唾を吐き捨てた。

 無精ひげを生やした不衛生な外見に、人によっては不快感を示すだろう。



「マスター。よろしかったのですか、お久しぶりのお客様でしょう?」

「うるせぇ、リーナ。お前まで、オレに意見するってのか」

「そういうわけではございません」

「なら、黙るんだな」

「…………」



 そんな彼と会話するのは、一人の少女だった。

 綺麗な顔立ちに、青の瞳をしている。身にまとっている服はどれも継ぎ接ぎだらけだが、不思議とそれを着こなしているように思われた。

 だが、少しだけ普通の子供とは違う部分もある。


 表情が、これ一つもない。

 淡々と口を動かし、マスターと呼んだ男性修繕師を見上げていた。



「……そういや、リーナ。身体の調子はどうだ?」



 しばしの沈黙の後に、修繕師は少女――リーナに訊ねる。すると、



「やはり、右大腿部から肩にかけて不調が感じられます」



 彼女は自分の身体を確認しながら、答えるのだった。

 それを受けて、男性は空を見上げながらため息をつく。そして――。



「それなら、今日もお前の修繕に時間を割くか」



 そう、口にするのだった。


 そうなのである。

 このリーナという少女は、機巧少女と呼ばれるもの。

 自らの意思を持つ人形であり、この修繕師――ルゼインの助手だった。



「分かりました。感謝いたします、マスター」

「へ……。人形の感謝なんざ、要らねぇ」

「そうですか……」



 少女の言葉に、悪態で返すルゼイン。

 リーナは小首を傾げてしまった。そんな少女を見てから、彼はまた大きくため息をつく。そして閑散とした工房を見渡し、こう言うのだった。



「けっ……。あの若造の店――『リペア・ザ・メモリーズ』とか、いったか。あそこができてから、客が全部取られちまった」



 ――お陰様で、閑古鳥が鳴いていやがる。


 それはライルの店に対する嫉妬、あるいは僻みであった。

 もっとも、客足が遠退いたのには他の原因もありそうではあるが。それはともかくとして、ルゼインはリーナの脚をいじり始めた。そして――。



「いかがなさいました? マスター」

「あ? いや、なんでもねぇ……」



 何度か瞬きをしてから、目を擦る。

 手を止めて、小さく舌を打った。



「今日は、やめだ。どうにも調子が悪い」

「……分かりました」






 彼はそう告げると、自室に戻っていく。

 リーナはそんな主を見送ると、黙々と店仕舞いを始めるのだった。




 


https://book1.adouzi.eu.org/n0930gw/

新作書きました。

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[良い点] 更新お疲れ様です(◍•ᴗ•◍) [一言] 偏屈ジジイと自動人形……エモさの香りがする
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