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4.思いの継承。

過去回想は、今回でいったん終わり!









 ローンドは深夜に一人工房に閉じこもっていた。

 それというのも、一度は諦めかけた経典の修繕に取り掛かるため。

 現金な話ではあるが、あのような美女が手伝いに来るなど思ってもみなかった。そして、そんな女性からの頼みとあれば、気合も入るというもの。



「しっかし、蛇が這ったような文字ばかりじゃねぇか……」



 ランプの明かりを頼りに、青年修繕師は古代エルフ文字を睨んでいた。

 経典と照らし合わせること数時間、ようやく数ページ進んだところ。意味は相も変わらず理解できないが、それは別に問題ではない、と彼は考えていた。


 エリザに言った通りなのだ。

 そう、元通りにすればすべて解決、なのだから。


 文字や文章に込められた意味や思いなど、修繕師の仕事の埒外。この時のローンドはハッキリと、そう考えていた。

 人間の感情なんて、直しようがない。



「でも、あの子は……」



 だが、そこでふと彼女の言葉を思い出した。

 エリザは、不安そうに言ったのだ。



 思い出を直せるのか――と。



「………………」



 ピタリと、ローンドの手が止まった。

 なにかが引っかかる。自分のやり方に違和感を覚えたのは、初めてだった。



「――いいや。きっと、気のせいに違いない」



 だが、その時の彼はそう判断した。

 一介の修繕師にできることなど、一つしかないのだから、と。



 そんな、言い訳染みた心を胸に抱きながら……。









「………………」



 その先に起きたこと。

 顛末を読み切ったボクは、何も言葉にできなかった。

 ただ、視線は自然とテーブルの上に置かれた経典の方へと向かう。



「…………お爺ちゃん」



 立ち上がり、それへと歩み寄った。

 優しく表紙を撫で、同じくこれを修繕した彼を思い浮かべる。



「そうだね。これは、ボクがやらないといけない……!」



 そして、その瞬間に改めて決意ができた。

 ボクはティローから預かった参考書物を紐解いて、必死に頭を働かせる。あんな『悲しい終わり方』のままでは、いけないのだ。

 だったら、それを打ち破れるのは――。



「任せて。……お爺ちゃん」





 ボクは祖父に誓った。




 必ずや、彼の後悔を雪いでみせる――と。




 


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