4.思いの継承。
過去回想は、今回でいったん終わり!
ローンドは深夜に一人工房に閉じこもっていた。
それというのも、一度は諦めかけた経典の修繕に取り掛かるため。
現金な話ではあるが、あのような美女が手伝いに来るなど思ってもみなかった。そして、そんな女性からの頼みとあれば、気合も入るというもの。
「しっかし、蛇が這ったような文字ばかりじゃねぇか……」
ランプの明かりを頼りに、青年修繕師は古代エルフ文字を睨んでいた。
経典と照らし合わせること数時間、ようやく数ページ進んだところ。意味は相も変わらず理解できないが、それは別に問題ではない、と彼は考えていた。
エリザに言った通りなのだ。
そう、元通りにすればすべて解決、なのだから。
文字や文章に込められた意味や思いなど、修繕師の仕事の埒外。この時のローンドはハッキリと、そう考えていた。
人間の感情なんて、直しようがない。
「でも、あの子は……」
だが、そこでふと彼女の言葉を思い出した。
エリザは、不安そうに言ったのだ。
思い出を直せるのか――と。
「………………」
ピタリと、ローンドの手が止まった。
なにかが引っかかる。自分のやり方に違和感を覚えたのは、初めてだった。
「――いいや。きっと、気のせいに違いない」
だが、その時の彼はそう判断した。
一介の修繕師にできることなど、一つしかないのだから、と。
そんな、言い訳染みた心を胸に抱きながら……。
◆
「………………」
その先に起きたこと。
顛末を読み切ったボクは、何も言葉にできなかった。
ただ、視線は自然とテーブルの上に置かれた経典の方へと向かう。
「…………お爺ちゃん」
立ち上がり、それへと歩み寄った。
優しく表紙を撫で、同じくこれを修繕した彼を思い浮かべる。
「そうだね。これは、ボクがやらないといけない……!」
そして、その瞬間に改めて決意ができた。
ボクはティローから預かった参考書物を紐解いて、必死に頭を働かせる。あんな『悲しい終わり方』のままでは、いけないのだ。
だったら、それを打ち破れるのは――。
「任せて。……お爺ちゃん」
ボクは祖父に誓った。
必ずや、彼の後悔を雪いでみせる――と。




