4.修繕師としての心得。
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古代エルフ文字というのは、それ自体に魔力が込められている。
例えば炎という意味のそれを口にすれば炎が、氷と口にすれば氷が出現するのだ。しかし威力が劣るものの、理論の簡略化された現在の魔法に取って代わられ、現代において古代エルフ文字を研究する者は少ない。
されども魔力の流れなどといった構造を理解するに至れば、古代エルフ文字における魔法は世界のどんなものよりも強力だった。
「うぅ……」
とはいうものの、やはり理解は困難を極める。
ボクは目の前の経典を睨みながら、思わずうめき声を上げた。
装丁の一部は、すでに修繕が終わっている。しかしながら、問題は文字を含む箇所についてだった。修繕とはつまり、以前の状態――あるいは、それ以上の状態に引き上げること。ただ直しました、ということで終わりではないのだ。
「直すなら、もっと完璧に直さないと……」
なによりもボクの胸には、祖父と交わした言葉が焼き付いている。
思い出の修繕――そのものに込められた思いを、しっかりと直さなければ意味がない。少なくともボクは、修繕師とはかくあるべき、と考えていた。
「でも少し、休憩するかな」
ずいぶんと理屈っぽくなった頭を冷まそう。
ボクはそう思い、工房の椅子から腰を持ち上げた。その時だ。
「ライル『さん』、休憩でしょうか」
「あ、ティロー?」
ちょうど、エルフの青年がやってきたのは。
彼は両手にそれぞれコーヒーカップを持っていた。
「うん、少し頭を冷やしたいと思ってね」
「それなら、ちょうど良かった。雑談でもいかがですか?」
「いいね。じゃあ、そうしようかな」
ティローからコーヒーを受け取って、ボクは頷く。
持ち上げかけていた腰を再び落ち着けて、相手が向かい側の席に着くのを確認した。ティローは一つ息をついてから、こう切り出す。
「ところで、ライルさんは誰から修繕を学んだのですか?」
「修繕の師匠、ってことかな」
「えぇ、そうです」
それにボクが訊き返すと、彼は小さく首肯した。
自分の師匠か――そう考えながら、ボクは一口コーヒーを飲む。そして、改めて祖父のことを思い出しながらこう答えた。
「お爺ちゃん、だね。教わったというより『見て真似ただけ』だけど」
口にしてみると、ずいぶんと懐かしく思える。
それが表情に出ていたのか、ティローは興味深そうにこう訊いてきた。
「そうなのですね。もう少し、詳しく訊いてもよろしいですか?」
「え、そんなに面白い話はないよ……?」
「構いません。私が勝手に興味を持っているだけですから」
「……そう、か。それなら――」
ボクはコーヒーをもう一口。
唇を濡らす程度にして、彼に話し始めた。
今は亡き、祖父との思い出を。




