2.王都に招かれた者。
作者、やや体調不良なうです(深夜2時現在)
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――で、今日こうやって王城に招かれたわけで。
国王陛下――ライネル様は、そこまで硬くならなくてもいい、とは言ってくれた。だけど、一般市民に過ぎないボクが、国のトップを前にして緊張しないはずがない。
声を発するたびに、喉が渇いた。
それでも、これは仕事なのだからしっかりしなければ……。
「……そ、それで。依頼の品は、どのような物なのですか?」
「あぁ、そうだったな。これなのだが……」
意を決して訊ねる。
すると、表情柔らかなライネル様が出したのは一冊の本だった。
装丁はやけに凝っており、複雑な文字が刻まれている。昔どこかで見たそれは、たしか古代エルフ文字だっただろうか。
仮に読めたとして意味は分からない。
だが、現状はそれ以前の話だと思われた。
「これは……?」
「……聖ルグニカ教の経典、その原本です」
ボクがまた訊ねると、次に口を開いたのはフラン王女。
国王陛下の隣に控えている少女は、抑揚のない不思議な声でそう言った。
「……聖ルグニカ、って。古代エルフが信仰してた宗教、ですよね」
「えぇ、その通りです。もう、なくなってしまいましたが、ね」
今度はアーシャ。
彼女はボクの言葉を肯定し、目の前のテーブルに置かれた本に視線を落とした。そして慎重な手つきで、その本のページをめくる。
どうやら、中の文字も相当に掠れているようだった。
虫食いもひどいし、さすがは数千年単位の歴史を持つそれだ。
「修繕師、ライルよ。お前には、この本の修繕を依頼したい」
「え、こんな大切な資料の……!?」
「その通りだ」
単純な知的好奇心に駆られていると、国王陛下がそう言う。
ボクが思わず素で驚くと、彼は至って平静に頷いた。
「えっと、でも……」
しかし、ボクとしてはいつものように即決できない。
何故なら古代エルフ文字は、専門外だからだ。装丁の模様などを復元するならともかく、一歩間違えれば大きなミスを犯しかねない。
そう思い悩んでいると、ライネル国王は一つ頷いた。
そして――。
「もういいぞ、入れ」
誰かを、部屋に招き入れた。
ドアの方を振り返ると、そこにはエルフの青年が一人。
やや色素の薄い髪に、紫の瞳。冷静沈着な面持ちの彼はこちらに歩み寄ると、ボクに対して深々とお辞儀をした。
こちらが困惑していると、彼はこう名乗る。
「お初にお目にかかります。私の名はティロー。ライル様の修繕の手助けをするため、この王都に招かれた者です」――と。
そうして青年――ティローは、ゆっくりと面を上げた。
真っすぐな眼差し。
そこにある輝きは、同性のボクでさえ魅了されそうなものであった。
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