3.エリザの微笑みと、ティローの夢。
「ティローくん、いったい何を書いているのですか?」
「あぁ、エリザさん。これは、ちょっとした叙事詩のようなものですよ」
「叙事詩……?」
エルフの村で、ティロ―は長く書斎に籠って執筆にあたっていた。
エリザはそのことを不思議に思い、作業に没頭する彼に声をかけたのだ。すると意外なことに、エルフの少年は何やら物語を書いているという。
俄然興味がそそられたエリザは、悪戯っぽく笑って原稿の一枚を手に取った。
「えー、っと……?」
「あ、待ってくださいよ! そこは、まだ途中――」
ティロ―は慌てて取り戻そうとするが、思ったよりも身軽な彼女に躱されてしまう。そしてついに、自身の書いた物語を読み上げられてしまうのだった。
「『最高の修繕師』は、エルフと人間の絆を取り戻す。ただ一生懸命に、一度の過ちに頭を垂れることなく、彼は前を向き続けた。人という短い生涯だからこそ、その歩みは弛むことなく、迷うことはない。苦難があったとして、その眼差しに心打たれた者は力を貸すのだろう」
「あー! あー! あああああああああああああああああああ!!」
感情をしっかりと込めて音読するエリザ。
ティローは顔を真っ赤にしながら、両手で顔を覆っていた。
「うふふ、本当にティロ―くんはライルさんが大好きなのね」
「だ、大好きなんてことは、ないです……」
「……ふーん?」
彼女の指摘に、少年は羞恥心からもんどりうつ。
だが、しばしの間を置いてからエリザは言うのだった。
「でも、どうせ書くなら最初から書きませんか?」――と。
それを聞いて、ティローはハッとする。
エリザがいま口にしたのは、つまり事の発端である彼のことを振り返る、ということだった。それを察した少年は不安げな表情を浮かべるが、しかしエリザは笑顔で言う。
「あれはもう、過ぎてしまったこと。いつまでも囚われるわけにはいきません」
「エリザさん……」
「それに、貴方の英雄は『常に前を向く』のでしょう?」
「…………」
その言葉に、ティローはしばし沈黙。
しかし面を上げると、そこにはいつにない活力が満ちていた。
「分かりました、やりましょう!! そして――」
ティローは口にする。
それはきっと、彼が初めて抱いた『夢』に違いなかった。
「いつか、この物語で人々の『想い』を繋ぐために……!!」




