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2.念願の景色を手にして。







 ――時は決して、過去へは戻らない。

 だからこそ、人は常に進んでいくしかないのだ。

 それでも、一人ではない。苦しいことがあっても、立ち直れない挫折があっても。周囲にはきっと、自分と似た境遇の人や、自分を『想って』くれる人がいるはずだから。



 これは、そんな『想い』を繋いできた修繕師の物語。

 そしてその修繕師と、共に歩んだ者たちの未来。






「リーナ! 次の修繕依頼って、どれだった!?」

「コルネさん、落ち着いてください。依頼書なら、まとめてありますから」

「お、おう……相変わらず、仕事が的確だな……」



 あれから、どれだけの時間が流れたのだろうか。

 コルネは自分の店を持ち、リーナはそこの事務などを行っていた。師匠の彼ほどではないが、真摯に依頼へ向き合う姿勢が評価されて経営は上々だ。

 そんなこんなで今日も今日とて、コルネのもとには多くの依頼が舞い込んでいる。



「少し、休憩なさったらどうですか?」

「いいや、まだまだだって。師匠はもっとたくさんの依頼を一人で、しかももっと早くこなしてたんだからな! 負けていられねぇよ。だって、俺の目標は――」



 リーナの気遣いに、コルネは笑顔で答えた。

 そして、嬉々として言うのだ。




「いつか師匠を追い越して、自分が『最高の修繕師』になることだからな!」――と。




 始まりは決して、純粋な気持ちではなかったはず。

 それでも、いつしかコルネは純粋に修繕へと向き合うようになっていた。未来へ向かって憂いなく、一直線に突き進んでいる。



「それは、見物ですね。少しだけ期待しておきます」

「いや! そこは大いに期待しろ、って!?」



 そんな彼を見るリーナの眼差しは、穏やかだ。

 二人の掛け合いにはいつも、このように和やかな空気が流れている。



 すると、そこへ来客があった。



「いらっしゃ――って、げ……!?」

「おい。人を見て『げ』とはなんだ? この新米修繕師」

「お父さん! それに――」



 店に入ってきたのは、車椅子に乗ったルゼイン。

 そして、



「アルフォンスさんに、アイネさんも!!」

「やあ、お邪魔するよ」

「失礼しますね」



 コルネの両親――アルフォンスと、アイネの姿もあった。

 彼らはルゼインの車椅子を押しながら、にこやかな表情でコルネたちを見ている。二人の間には、以前のようなぎこちなさはなかった。

 互いに、息子の成長を見たい。

 その共通項があるから、心は穏やかなのだろう。



「……頑張っているようね、コルネ」

「当たり前だろ、母さん」

「いや、こいつはまだまだ半人前だ。騙されるなよ、お前さん」

「うるせぇな、ルゼインのオッサン!?」



 アイネの言葉にコルネが答えると、それをルゼインが茶化す。

 アルフォンスとリーナは思わず吹き出しつつ、必死に抗議するコルネを見守っていた。だがそこで、ふとリーナが何かを思い出したらしい。

 コルネに耳打ちをすると、彼はそうだった、といった様子で店の奥へ。

 他の面々が首を傾げていると、コルネは綺麗な箱を手にして戻ってきた。



「……っ! コルネ、これはもしかして!」

「あぁ、なんてこと……!」



 それを見て、驚いたのは彼の両親。

 顔を見合わせて、確信に至ったのだろう。

 今にも泣きだしそうな顔になって、互いの手を握り合った。




「父さんに、母さん。もしかしたら、今さらかもしれないけど……」




 ゆっくり、と。

 コルネが箱を開けるとそこには、綺麗に修繕された銀時計。

 きらりと光を返す輝きに、コルネの今までの努力が見て取れた。そして、




「もう、元通りにはならないかもしれない。でもさ――」




 コルネは、ついに念願を果たすのだ。


 ずっと待っていた光景。

 一つ、師匠と描いた夢物語を。





「これからも、みんなで一緒に笑えるよね……?」――と。





 それを聞いて、アルフォンスとアイネは。

 どちらともなく駆け出して、大切な息子のことを抱きしめた。




 


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