2.念願の景色を手にして。
――時は決して、過去へは戻らない。
だからこそ、人は常に進んでいくしかないのだ。
それでも、一人ではない。苦しいことがあっても、立ち直れない挫折があっても。周囲にはきっと、自分と似た境遇の人や、自分を『想って』くれる人がいるはずだから。
これは、そんな『想い』を繋いできた修繕師の物語。
そしてその修繕師と、共に歩んだ者たちの未来。
◆
「リーナ! 次の修繕依頼って、どれだった!?」
「コルネさん、落ち着いてください。依頼書なら、まとめてありますから」
「お、おう……相変わらず、仕事が的確だな……」
あれから、どれだけの時間が流れたのだろうか。
コルネは自分の店を持ち、リーナはそこの事務などを行っていた。師匠の彼ほどではないが、真摯に依頼へ向き合う姿勢が評価されて経営は上々だ。
そんなこんなで今日も今日とて、コルネのもとには多くの依頼が舞い込んでいる。
「少し、休憩なさったらどうですか?」
「いいや、まだまだだって。師匠はもっとたくさんの依頼を一人で、しかももっと早くこなしてたんだからな! 負けていられねぇよ。だって、俺の目標は――」
リーナの気遣いに、コルネは笑顔で答えた。
そして、嬉々として言うのだ。
「いつか師匠を追い越して、自分が『最高の修繕師』になることだからな!」――と。
始まりは決して、純粋な気持ちではなかったはず。
それでも、いつしかコルネは純粋に修繕へと向き合うようになっていた。未来へ向かって憂いなく、一直線に突き進んでいる。
「それは、見物ですね。少しだけ期待しておきます」
「いや! そこは大いに期待しろ、って!?」
そんな彼を見るリーナの眼差しは、穏やかだ。
二人の掛け合いにはいつも、このように和やかな空気が流れている。
すると、そこへ来客があった。
「いらっしゃ――って、げ……!?」
「おい。人を見て『げ』とはなんだ? この新米修繕師」
「お父さん! それに――」
店に入ってきたのは、車椅子に乗ったルゼイン。
そして、
「アルフォンスさんに、アイネさんも!!」
「やあ、お邪魔するよ」
「失礼しますね」
コルネの両親――アルフォンスと、アイネの姿もあった。
彼らはルゼインの車椅子を押しながら、にこやかな表情でコルネたちを見ている。二人の間には、以前のようなぎこちなさはなかった。
互いに、息子の成長を見たい。
その共通項があるから、心は穏やかなのだろう。
「……頑張っているようね、コルネ」
「当たり前だろ、母さん」
「いや、こいつはまだまだ半人前だ。騙されるなよ、お前さん」
「うるせぇな、ルゼインのオッサン!?」
アイネの言葉にコルネが答えると、それをルゼインが茶化す。
アルフォンスとリーナは思わず吹き出しつつ、必死に抗議するコルネを見守っていた。だがそこで、ふとリーナが何かを思い出したらしい。
コルネに耳打ちをすると、彼はそうだった、といった様子で店の奥へ。
他の面々が首を傾げていると、コルネは綺麗な箱を手にして戻ってきた。
「……っ! コルネ、これはもしかして!」
「あぁ、なんてこと……!」
それを見て、驚いたのは彼の両親。
顔を見合わせて、確信に至ったのだろう。
今にも泣きだしそうな顔になって、互いの手を握り合った。
「父さんに、母さん。もしかしたら、今さらかもしれないけど……」
ゆっくり、と。
コルネが箱を開けるとそこには、綺麗に修繕された銀時計。
きらりと光を返す輝きに、コルネの今までの努力が見て取れた。そして、
「もう、元通りにはならないかもしれない。でもさ――」
コルネは、ついに念願を果たすのだ。
ずっと待っていた光景。
一つ、師匠と描いた夢物語を。
「これからも、みんなで一緒に笑えるよね……?」――と。
それを聞いて、アルフォンスとアイネは。
どちらともなく駆け出して、大切な息子のことを抱きしめた。




