1.次は、一緒に。
ここからエンディングに入っていきます。
「それじゃ、ボクたちはもう行くよ」
「そうか。……また、帰ってくるだろう?」
玄関先でアーシャ、そして母さんと合流して。
ボクと父さんは、最後にそんな言葉を交わしていた。いいや、きっと最後じゃない。これから何度でも、ボクはこの家に帰ってきて良い。
嬉しいことがあれば、報告に。
悲しいことがあれば、相談に。
生まれ育った場所はきっと、いつだって自分の心を支えてくれるはずだから。
――と、そこまで考えて不意に思い出した。
「そういえば、父さん。墓参りをするなら夏季にしなよ」
「……もしかして、バレてたのか」
「あんな天邪鬼な墓参り、父さんくらいしか思いつかないよ」
「それは、そうだな……」
神殿修復の前、ボクとアーシャは祖父の墓参りをした。
その際、先に誰かが花を供えていたのだが、やはり犯人は父さんらしい。ボクが指摘をすると、彼は難しい顔をして考え込んだ。
どうやら、まだ距離感を図りかねているらしい。
だとしたらボクが、一歩前に出よう。
「来年の夏、一緒に行こうよ。……お爺ちゃんの墓参り」
「……ライル…………」
こちらの申し出に、父は少し呆気に取られたような表情になった。
ボクはそんな彼に向かって、こう続けるのだ。
「きっと、お爺ちゃんも待ってるから」――と。
夏季は死者が帰ってくるという。
実際に声は聞けなくとも、家族で過ごす初めての時間になるだろう。
「……あぁ、そうだな。そうしよう」
「うん。じゃあ、約束ね」
父さんは、とても穏やかな表情を浮かべていた。
そのことがとにかく嬉しくて、ボクは自然と彼に歩み寄る。
そして右手を差し出して、握手を求めた。ずっと、遠かった相手との約束だ。
「分かった。約束するよ、ライル」
「……うん!!」
握手を交わし、互いに笑う。
何気ない日常の光景が、まばゆく輝いて見えた。
◆
「……あの、さ。アーシャ、少し良いかな」
「どうしたのですか?」
「え、と……そのー……」
――『リペア・ザ・メモリーズ』へ向かう道すがら。
ボクは人気のない場所で、勇気を振り絞って彼女に声をかけた。
アーシャはそれに対して振り返り、小首を傾げる。いったいどうしたのか、といった様子で。いつもと変わらない雰囲気の彼女だが、それがなおさら緊張感を煽った。
だけど、言わなければならない。
伝えなければ、いけなかった。
「えっと、これはそのー……アーシャが良ければ、って前提なんだけどさ」
「意味が分かりません。もっと、ハッキリ仰ってください」
「うー……分かったよ。少し、時間をちょうだい」
ボクはアーシャに断りを入れてから。
二、三回ほど深呼吸を繰り返し、美しく成長した令嬢に向き直った。
「アーシャに、お願いがあるんだ」
そして、意を決して口にする。
分不相応だとは思っていたとしても、伝えなければならない『想い』を。




